大忙しの中でもスローライフを
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──大忙しの中でもスローライフを
フリーデンベルク支店が開設され、やや忙しい日々が訪れた。
というのも、フリーデンベルクまで1週間に1度は商品を発送するからだ。
「今日の商品はお茶だね~。梱包、手伝うよ~」
「ありがとう、リーゼ」
俺たちは発送する荷物を輸送のために梱包する。輸送の際に割れないようにしたりするために丁寧に梱包しなければならない。
そして、である。実はヴォルフ商会は業務提携を始めたのだ。
「お荷物、受け取りにまいりました!」
そう輸送ギルドと提携したのです。
「これが今回の分の荷物です。よろしくお願いしますね」
「はい、確かに受け取りました」
グリムシュタット村からフリーデンベルクまでは6、7日の道のりであり、クリストフさんが休みなく働いても1週間に1度荷物をフリーデンベルクの支店まで運ぶのは難しいところがある。
クリストフさんに休みなく往復してもらうのは心苦しいし、そもそもタイムスケジュール的に無理があった。そこでフリーデンベルクの輸送ギルドに依頼して、グリムシュタット村からフリーデンベルクまで荷物を届けてもらうようにしたのである。
輸送ギルドは最初は辺鄙なグリムシュタット村まで荷物を取りに行くのには難色を示したものの、市長のゲオルグさんの働きかけもあって契約はまとまった。それにこっちが示した金額もそれなりに役立ったと思う。
今では輸送ギルドの人が馬車でグリムシュタット村を訪れ、ヴォルフ商会の荷物やグリムシュタット村で栽培された作物などをフリーデンベルクという市場に運んでくれる。
これでグリムシュタット村とフリーデンベルクというふたつの場所がより縮まり、グリムシュタット村の繁栄に……繋がったらいいなぁと思うのであった。
「さて、今日の仕事はこんなところだね」
「実験農地の方を見に行く?」
「そうしよう。そろそろサツマイモが収穫できるはずだから」
リーゼに誘われて俺たちは新たに開墾された場所に設けられた実験農地を見に行く。
サツマイモを植えてか4か月ほど経った。そろそろ収穫できるはずである。その間、懸命にお世話していたから無事に収穫できるといいのだが……。
「どうかな?」
「見てみるね」
俺はサツマイモをまずは試しに1個掘り出す。すると──。
「おお! なかなかに実っているよ~!」
俺は掘り出したサツマイモを掲げる。それは結構大きく育ったものであった!
「やったね~! でも、これってどうやって食べるの?」
「食べ方はいろいろとあるよ。ちょっと準備してくるね」
俺はそう言って一度日本に戻る。それからバターやアルミホイルなどを準備して、再び異世界へと戻った。
「さて、焼き芋をしよう!」
俺はネットで調べたとおりに準備を進める。落ち葉を集めて──。
「リーゼ。火をつけてくれる?」
「うん」
リーゼに火をともしてもらい、落ち葉で焼き芋という風情のある楽しみ方をする。
「そろそろかな?」
程よく時間が経ったところで金属製のトングで焼き芋を取り出す。
「出来上がり!」
「へえ。これだけなんてシンプルだねぇ」
「多分、美味しくできてるはずなんだけど……」
リーゼが見守る中、俺はアルミホイルを解いて中の芋を取り出し、包丁でざくっとふたつに切る。そして、二切れの焼き芋のうち片方を口に運んだ。
「あちち! でも、美味しくできてるよ。リーゼも食べてみて」
「うん!」
リーゼもはふはふしながら口にサツマイモを運んだ。
「わあ! 甘い! 甘いよ、ジン! ジャガイモとは全然違うんだね!」
リーゼは焼き芋のねっとりとした甘みに大満足の様子。
「これはふかしてもいいんだよ。あとでレシピを教えるね。あとバターもつけてみて」
「バターを?」
「こうやってね」
バターはこっちの世界にもあることを確認している。俺はバターを焼き芋に塗って口運んだ。バターの優しい風味が焼き芋の甘さをより盛り立てて、うまい!
「本当だ! 美味しい!」
リーゼもバターと焼き芋に満足げ。
「それにこれならグリムシュタット村のものだけで作れるね! あとは安定してサツマイモが収穫できるようになるだけだよ~!」
「うんうん。俺もできる限り頑張るよ」
今日は俺とリーゼは焼き芋でお茶ということになった。
興味を持った子供たちにも焼き芋やふかし芋を振る舞い、俺たちはいつものようにまったりとしたスローライフを楽しんだのだった。
* * * *
ヴォルフ商会フリーデンベルク支店は賑わっていた。
魔法使い連盟と商業ギルドが主な顧客であり、彼らは事務仕事用のノートとボールペン、コピー用紙や卓上計算機を購入していき、それから接客用のコーヒーや紅茶も購入していく。
「順調に売れていますね、ウルリケ支店長」
「ええ。この品ぞろえならば問題ないと思っていましたよ」
これまでの売れ線に絞った品ぞろえは問題なく機能していた。
レインコートや傘、自転車などは販売されているが、今は小さなコーナーだ。こちらの品は注文があったときに仕入れる形にしており、仕入れすぎによる赤字を防いでいる。
お酒は今はヴォルフ商会の支店では扱っていない。そちらは貴族向けということで再びアルノルトたちに任されていた。
お菓子は限定的に販売されている。だが、こちらは主に贈呈品として取引先にプレゼントするのが主役となっており、普段から食べる分にはちょっと高値であるためあまり売れていない。
「さて、そろそろ我々もお茶にしましょうか」
「はい」
3時のお茶はフリーデンベルクのホワイトカラーに根付いた風習だ。3時になると仕事を休憩してお茶とお菓子を楽しむ。これでやる気が出て仕事の効率は上がるし、社交的な意味でも交流が深まるし、ブームが広がるのも当然だった。
「しかし、ライバルとなる商会が存在しないのはいいことですが、これだけ私たちだけが儲かっていると反発が起きそうですね……」
「それが確かに心配ですね。今は輸送ギルドは引き込みましたが、手工業ギルドは依然として我々を目の上のたんこぶみたいに思っているでしょうし」
フリーデンベルクの羊皮紙ギルドは売上が落ちていると聞く。これまで大きな顧客であった魔法使い連盟と商業ギルドがヴォルフ商会からノートをコピー用紙を購入することになった影響だ。
「手工業ギルドでこのような白い紙は作れないのでしょうか?」
「いやあ。どのようにして作っているのか、相変わらずグリムシュタット村の凄腕の職人が秘匿していますからね……」
「クリストフさんは凄腕の職人に会われたことは?」
「ないのですよ。ジンさんは直接交渉しているようなのですが」
クリストフとウルリケは今もグリムシュタット村の凄腕の職人伝説を信じていた。
「一度お会いして話がしたいですね」
「そうですね。ちょっとジンさんに頼んでみましょう」
そうしてクリストフは改めて凄腕の職人に会えないか、仁に尋ねてみることに。
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