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王都の様子

……………………


 ──王都の様子



 王国は地方に権力が分散している封建国家から徐々に中央集権が進みつある段階だ。


 そんな王国の中心である王都は賑やかな場所であるが、ここ最近では奇妙な品が出回りつつあった。


「あれは?」


 王都の石畳の通りを駆け抜けていくのは自転車だ。王都の郵便配達人が乗る自転車がすいすいと素早く王都の狭い道や大通りを駆け抜けていく。


 王都の人々にとってそれはあまりにも珍しい光景だった。


 当然、この自転車はヴォルフ商会から販売され、フリーデンベルクから王都に輸入された品である。このほかにも商人によってコーヒーや紅茶と言ったお茶やノートやボールペンと言った文房具が次々に王都に運ばれていた。


 また当たり前であるが、その恩恵は国王マクシミリアンも受けていた。


「ほう! これが噂のコーヒーというものか」


 応接間にいるマクシミリアンに出されたのはフィリップが持ち帰ったコーヒーとお茶菓子のクッキーである。もちろんこの場にはフィリップもいて、マクシミリアンにコーヒーについて語っている。


「最初は苦みを感じますが、その中に風味を感じるものなのです。どうぞお試しください、陛下」


 そう言ってフィリップは毒見とばかりに先にコーヒーに口を付ける。


「ふむふむ。それは面白そうな飲み物だ」


 フィリップに言われてマクシミリアンはコーヒーのカップを傾けて試しに一口飲む。


「おお。これは複雑な味わいだな。しかし、決して苦いだけではない。酸味のような風味があるようだ」


 マクシミリアンはコーヒーに満足そうにうなずく。


「やはり国王陛下には分かられるようですね」


「ははは。美味いものはそれなりに分かるつもりだ。それだけ贅沢をしているからな」


 フィリップがおだてるのにマクシミリアンはコーヒーを味わいながら笑う。


「この他にも献上したい品はいろいろとございます」


 そう言ってフィリップはノートとボールペン、そして卓上計算機を差し出した。


「これは?」


「コーヒーと同じくフリーデンベルクで手に入れたものです。お試しください」


「ふむ……」


 マクシミリアンはフィリップに言われたようにノートを開いてまずはその白さに驚く。それからボールペンで文字を描きその書きやすさに驚く。


「いやはや。これはいいな。普段の執務でも使いたいところだ」


 すぐにマクシミリアンはノートとボールペンを気に入ったよう。


「それで、こっちの……この奇妙なものは何だろうか?」


「こちらは卓上計算機というもので、このように計算ができるのです」


 ぽちぽちと数字の書かれたボタンを押して一瞬で答えを出してみせるフィリップ。


「なんとっ! こ、これは……魔法の品だろうか……?」


「原理は分かりませんが、太陽の力で動くそうなのです。やはり魔法でしょう」


 計算機は出回ったものの電気の仕組みはあまり伝わっておらず、人々は計算機は魔法で動いていると思っていた。


「なんともはや。このような品が突然生まれるとはな……」


 マクシミリアンはそう言いながらぽちぽちと計算機で計算を行っては驚いていた。


「そう言えばフィリップ卿。貴公はウィスキーという飲み物について知っているか?」


「ウィスキー、ですか? いえ、存じ上げません」


「うむ。とても強い酒精の酒でな。大変美味いのだ。貴公にも分けてやりたかったが、あいにく全部飲んでしまった。すまんな、ははは」


「ほう。それほどまでに美味い酒が……」


「偶然かもしれないが、ウィスキーの噂を聞いたのは貴族の間で珍しい菓子が流行った時期と同じでな。それに加えて出所はどちらもグリムシュタット村という場所だと言うのだ。貴公、何か知らぬか?」


「フリーデンベルクではなく、グリムシュタット村ですか?」


「ああ。あそこには何かあったのだろうか?」


「はて……。お調べしましょうか?」


「いや。別に問題になっているわけではないので構わんよ。それよりこのノートとボールペン、それに計算機を王宮に導入したい。貴公がまたフリーデンベルクにいくことがあれば、これを販売している商人に話を付けてはくれぬか?」


「はい、陛下。お任せください」


「任せたぞ」


 ノートとボールペン、そして卓上計算機が王宮に導入されれば日々の業務ははかどり、新しい事業を行う余裕も生じる。そうマクシミリアンは考えていたのだった。


 フィリップはこの国王の要望に応えるために、再びフリーデンベルクを訪れることを決意したのであった。



 * * * *



「ここが新しい実験農地だね」


「わあ。これまでよりずっと広いねぇ~」


 アルノルトさんはついに新しい領地の開拓を始め、早速新しい領地の一部が俺たちの実験のために提供された。


「今度はこのサツマイモの栽培を頑張ってみようと思う」


「サツマイモ? それも異世界の植物?」


「うん。俺の国では食料不足のときに役立ったんだ」


「へええ! いいね、いいね!」


 やっぱりリーゼが危惧しているのは食料不足であり、その解決ができる品は大歓迎のようであった。


「さて、早速苗を植えよう」


「おー!」


 俺たちは軍手をしてサツマイモの苗をネットで調べた通りに植えていく。


「あとは土壌と気候が合えばいいんだけど……」


 サツマイモが無事育つかどうかは試してみなければわからないところもあった。


「ジン、サツマイモはどういう味がするの?」


「甘いお芋だよ。蒸したり、焼いたりして食べるんだ。滅茶苦茶美味しいよ」


「それはいいなぁ~! 早く収穫したいよ~!」


 俺とリーゼはサツマイモの収穫を楽しみにしながら実験農地でサツマイモが育つのを待ったのだった。


 そんな時期にクリストフさんが再びグリムシュタット村を訪れた。


「ジンさん。そろそろフリーデンベルクに店を構えることを考えませんか?」


 クリストフさんの今回の求めはフリーデンベルクに支店を出すことだった。


「ううむ。支店のことずっと先延ばしにし続けてきましたが、そろそろ本格的に考えるべきなのでしょうか?」


「ですね。というのも、我々が販売しに行くより、フリーデンベルクまで買い求めに来るお客さんが多くなってきて、魔法使い連盟内の支店がてんやわんやで困っているとテレジア様から言われているのですよ」


「ああ。それは……確かに迷惑になってしまっていますね……」


 魔法使い連盟の店舗は魔法使い連盟の学生や研究者向けだったので、外部から大量のお客さんが来ることは想定していない。それが大忙しになってしまっているのは、やはり迷惑だろう。


「分かりました。店舗を出しましょう。しかし、人手についてはどうします?」


「魔法使い連盟のウルリケさんが新たにヴォルフ商会に加わりたいと仰っています。彼女はこれまで魔法使い連盟内の店舗も経営してもらったので大丈夫かと」


「ウルリケさんが」


 そう言えばウルリケさんはポスドクみたいな立場で給料が安いって嘆いてたっけ。


「ジン。ウルリケならきっと大丈夫だよ」


「そうだね。じゃあ、彼女に加わってもらおう」


「うん!」


 こうして俺たちのフリーデンベルク支店開設の準備が始まった。


……………………

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