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清潔にしよう!

……………………


 ──清潔にしよう!



 コーヒーを口に運んだフィリップは驚愕した。


 最初は苦いのだが、その中に香ばしい風味があるのが分かる。味わい深い風味で、最初の苦いという感想を覆して余りある。まさにこれはフィリップが一度も味わったことのないものだ!


「お、お嬢さん。このコーヒーをあるだけくれないか? 金ならある!」


「え、ええー? 買占めはちょっと……」


 フィリップがぐいと身を乗り出して言うのにウルリケは困った表情。


「頼む! どうしてもこれを持ち帰りたいのだ!」


「他のお客さんが困りますから……」


 フィリップがぐいぐいと要求するのにウルリケが困り切っていたときだ。


「おや? どうされましたか、ウルリケさん?」


「ああ。クリストフさん。このお客さんがコーヒーがあるだけほしいと……」


 ここで現れたのは商品を降ろしに来たクリストフだ。彼が姿を見せて、困っていたウルリケが彼に救援を求めた。


「コーヒーをあるだけ全部ですか? 失礼ですが、どうして? コーヒーには賞味期限というものがありまして永遠に持つわけではないのですが……」


「おほん。私はフィリップ・フォン・ハーゲンフェルト。王国侯爵だ。ここで先ほどコーヒーというものを味わわせてもらったが、実に素晴らしいものだ! これを王都に持ち帰り他の貴族たちに紹介したいのだよ」


「失礼しました、閣下。そうであれば閣下のために特別にコーヒーを多く仕入れるようにいたしましょう。2週間ほどお待ちいただけませんか?」


「む。2週間かね……。分かった。これだけの品が手に入るならば待とう」


「ありがとうございます、閣下」


 そんなこんなでフィリップがコーヒーを欲しがったために、クリストフは急遽そのことを伝えにグリムシュタット村へと戻ることになったのだった。



 * * * *



「次は何を持ちこもうかなぁ」


 俺は市内のホームセンターであれやこれやと商品を見て回っていた。


 自転車は売り上げ好調だが、そろそろ変わったものも持ち込んでグリムシュタット村の人々や何よりリーゼに喜んでほしい。


 俺はそういう思いでホームセンターの商品を見て回る。


「そう言えば……」


 異世界で石鹸の類は見かけなかったなと思う。石鹸の歴史は長いので石鹸が全くないわけではないのだろうが、貴重品なのかもしれない。


 そうとなれば!


 俺はハンドソープやボディソープ、シャンプーなどを購入した。それらを車に詰め込んでいざ異世界へ!


「リーゼ。試してほしいものがあるんだけど」


「今日は何かな?」


「これ。石鹸の類だよ」


 俺はそう言ってリーゼに買ってきた石鹸シリーズを差し出す。


「これが石鹸……? 何かイメージと違うね?」


「あはは。普通の石鹸より使いやすいから一度試してみてよ。まずはこのハンドソープだね。こうしてプッシュして……」


 俺がハンドソープをプッシュすると泡がふわっと出てきて手に泡が乗る。


「おおお! 凄い! 凄い泡だね!」


「これで手を洗えば食中毒や病気が防げるんだよ。手を洗うのは感染症予防にいいって異世界では言われててね」


 新型コロナが地球で流行ったときはマスクとハンドソープまたは消毒用アルコ―ルは必須だった。俺は何とか感染せずに過ごせたけど、それは自分と周囲の地道な感染症予防のおかげだろう。


「わーっ! こうして泡を出しているだけでも楽しいねぇ~!」


「いやいや。手を洗わないと。玩具じゃないんだから」


「ごめん、ごめん。ついつい楽しくってさ」


 リーゼはそういうと桶に水を入れてきて、それで手を洗う。


「あ! 洗ったあとに凄くいい匂いがするね、これ!」


「そうだね。これはフルーツの匂いがするハンドソープだから」


「へえ。いいね、こういうの……」


 リーゼはハンドソープで洗った手をくんくんして満足そうだ。


「あとはボディスープとシャンプーだよ。お風呂に入るときに使ってね」


「じゃあ、早速お風呂に入ろう!」


「ええ!?」


 リーゼはそう言うと驚く俺をよそに大きな桶を準備し始め、そこに魔法で沸かしたお湯を入れ始めた。


「じゃ、じゃ、じゃあ、俺は事務所の方にいるね」


「うん。あとで結果を知らせに行くよ~」


 リーゼはあまり下着を晒すことには抵抗がないのかさっさと脱ぎ始めたために、俺は素早く事務所に退避。そこでリーゼからの報告を待つことにした。


 それから暫くして……。


「ジン、ジン! 凄いよ、これ!」


 リーゼが事務所に飛び込んできた。


「どうだった?」


「まずお肌がすべすべになったんだ! 見て見て! 触ってみて!」


 そう言ってリーゼは俺にローブをめくって前腕を差し出す。俺がそれに触ると確かにすべすべのつるつるになっていた。


「シャンプーも凄く良くて……。いい香りがするし、髪の毛に凄く艶がでるし……! ほら、嗅いでみて!」


「う、うん」


 俺はリーゼの灰色の髪を遠慮がちにすんすんと匂う。そこには女の子の漂わせる甘い香りが放たれていて、俺はちょっと頬が紅潮した。


「いいね。これは売れると思う?」


「もちろん! 間違いないよ!」


「よーし。じゃあ、しっかりと仕入れてこないとね」


 俺は今度は石鹸類を仕入れてくることを決意した。


「ジン。これはきっとニナ様も喜んでくれると思うから紹介しない?」


「ああ。そうだね。ニナ様にも教えておこう」


 ニナさんもリーゼ同様に女性だ。女性として体臭の改善や髪の艶が維持できるのは喜ばれるかも?


 というわけで、俺たちは自転車でお城へと向かう。


 使用人の人に応接間に通されるとアルノルトさんとニナさんがやってきた。


「ジン君。また新商品を仕入れたそうだね? それもニナが喜ぶとか?」


「はい。こちらの品になります」


 俺はハンドソープ、ボディソープ、シャンプーをテーブルに並べる。


「ほうほう。これは?」


「石鹸の類ですよ、アルノルト様。見てください。その石鹸で洗ったらお肌はすべすべで髪は艶やかでいい匂いがするんです!」


 アルノルトさんの疑問に答えるのはリーゼでリーゼは自分の肌と髪を見せる。


「まあ! それはよさそうですね。私も試してみても?」


「ええ。もちろんです。リーゼがきっとニナ様も気に入ると言っていましたから」


「ふふふ。ありがとう、ジン、リーゼ」


 ニナさんはそれから石鹸シリーズを持ってお風呂に入りに行った。俺たちはハンドソープで泡を出してみて、アルノルトさんがそれに驚くのを見て時間を過ごした。


「ジン! これは素晴らしいですわ!」


 それからニナさんが戻ってきてリーゼと同様にボディソープとシャンプーを絶賛する。いつも美少女なニナさんが今日はより一層美しく見える。


「これは是非とも売り出しましょう。きっと売れますわ!」


「はい。では、仕入れてきます」


 こうして異世界でも通じる日本の品が新たに定まったのだった。


……………………

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