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輸送を便利に

……………………


 ──輸送を便利に



 俺はそれから新しい自転車と牽引可能な自転車用トレーラーを購入した。


 それらを持っていざ異世界へ!


「リーゼ。持ってきたよ~!」


「おお! それがニナ様に言っていた荷台だね!」


 俺は自戦車で引いてきたトレーラーを示し、リーゼが事務所から飛んできた。


「正直、馬車に比べればあんまり大きなトレーラーじゃないし、牽引できるのも限定されるけど使えそうかな?」


「そうだねぇ。けど、これまで人力でやってきたことが楽になるだろうから、試してみる価値はあるよ。一度村の人に試してもらおう!」


「了解だよ」


 俺たちは村の人にトレーラー付き自転車を試してもらうことにした。


 農作業に精を出している村の人たちの邪魔をするのは申し訳ないけれど、これが上手くいけばグリムシュタット村が発展するかもしれないし。


「皆さん! ちょっといいですか?」


「何だい、ジンさん。それにリーゼロッテさんも?」


 村の人が怪訝そうにしながら自転車の周りに集まってくる。


「これは自転車という乗り物で、人が移動したり、物を運んだりできるものなんですけど、役に立つかどうか試してみてもらえませんか?」


「ほう。この前、アルノルト様も乗っていらしたね?」


「ええ。アルノルト様からも皆さんの役に立つならば提供してほしいと頼まれています。どなたか試してみられませんか?」


「そうだね。若いものが試してみよう」


 そう言って若い村人が前に出て自転車をしげしげと眺める。


「これ、どうやって使うんだい?」


「これはこのようにサドルに座ってペダルを漕ぐだけですよ。方向はこのハンドルを左右に動かして調整します」


「ふむふむ」


 若い村人はそれからヘルメットをかぶり、実際に自転車に乗ってみた。


 補助輪がついているので転ばないが、最初は安定しない。ふらふらするのを村人たちは不安そうに眺めている。これは本当に使えるのかという視線だ。


 だが、やがて走行が安定してくるとすいすいと進みだし、若者が歓声を上げた。


「こいつは凄いぞ! ぐいぐい進む!」


「おおーっ!」


 若者がすっかり慣れて自転車を乗り回すのを見て、村人たちも喝采。


「これは畑への移動に便利そうだなぁ」


「物も運べるんだろうか?」


 村の人たちはそう言って自転車を乗り回す若者を見つめて考え込む。


「どうでしょうか? 自転車とトレーラーは無償で差し上げますので、希望する方は申し出られてください」


 そんな村の人に俺はそう提案。


「ほしい!」


「是非とも!」


 俺の提案に何名かがすぐに名乗りを上げた。いずれも若い人だ。


「では、持ってきますね。それまでリーゼから自転車に乗る際のマナーなどについて教わっておいてください」


 俺は自転車講習を既に法律とマナーをマスターしたリーゼに任せて、新しい自転車を調達しに地球に向かったのだった。



 * * * *



 それから数日後、クリストフさんとエリザさんが再びグリムシュタット村を訪れた。


「ジンさん。村人が見なれぬ乗り物に乗っているようですが、あれは?」


 クリストフさんはヴォルフ商会の事務所に入った途端、挨拶もそこそこにすぐにそう尋ねる。


「あれは自転車という乗り物ですよ。グリムシュタット村の発展のために提供した品でして。村の人は今は畑と家への往復や、農具の輸送などに使用しています」


「ほう! あれはとても便利そうですね……。ヴォルフ商会では扱われるのですか?」


「それを考えていたのですが、あれはこれまで持ち込んだ品の中でも格段に高価でして。もしかするとヴォルフ商会で初めて赤字になる可能性も……」


 ホームセンターの自転車コーナーを見てきたが、自転車は1万~4万はする。金貨で扱わなければならないような品だ。


 それでいて貴族の人に売るには自転車は庶民的過ぎる。アルノルトさんは喜んでいたけれど、貴族の人には馬も馬車もあるし。


 俺はその点の懸念をクリストフさんに伝えた。


「なるほど。確かにあれだけの品が安いはずもありません。その点は伝わるでしょう。その上で販売する顧客の層を選ばなければならない、と」


「ええ。だから、やはり難しいのでは?」


「そう決めるのは早いですよ。一度よく見させてはいただけませんか?」


「では、こちらに」


 俺はリーゼ用の補助輪付きの自転車を見せる。


「……やはり信じられないほど精巧な作り……」


 リーゼのは別にお高いロードバイクとかではないのだが、クリストフさんはじっくりとそれを眺めては感心したように呟いていた。


「ジンさん。これは私でも乗れますか?」


「ええ。見ての通りグリムシュタット村の人々でも特に訓練を受けずに乗れますから」


「なるほど。特殊な訓練も必要なく誰でも乗れる……」


 俺からそう話を聞いたクリストフさんが頷く。


「これは間違いなく売れますよ、ジンさん。フリーデンベルクの輸出するならば、私が売りさばいて見せます!」


「そ、そうですか? でも、本当に大丈夫ですかね……?」


 俺はクリストフさんにそう言われて心配だった。


「いいですか、ジンさん。これまで私の知る移動手段は馬とそれに引かれる馬車、そして徒歩の3種類しかありませんでした。馬は言うまでもなく扱いこなすには訓練が必要だし、飼育のための餌なども必要です」


「ですね」


「ですが、このジテンシャとあのクルマは全く別のものです。我々の知る常識の外にあるものなのです」


「そう言われれば……」


「ジテンシャには餌も水も訓練も要らない。それで生まれる需要は確実にあります!」


 確かにそう言われれば馬に乗るのって結構大変だって聞いたな。慣れてないとお尻が痛くなるとか、落馬するとか。そう言う意味では自転車はみんなが気軽に乗れる乗り物になる、のかなぁ?


「あの、一応自転車にもメンテナンスは必要ですよ? ここのタイヤに空気を入れないといけないんです。空気入れを使って」


「他には?」


「う~む。パンクしたりしないかぎりは油をさすぐらいでしょうか……?」


 俺の自転車のプロではないので、どこまでメンテナスをすればいいのかは……。


「しかし、どの層に向けて販売を?」


「街の中を移動する郵便会社や商品をやり取りする大手の商会。そういうところをターゲットに絞っていきたいと思います。趣味の品ではないというようにまずは実用性をアピールしたいですね」


「では、デモンストレーションが必要では?」


「ですね。1台、ジテンシャを借りて言っていいでしょうか?」


「ええ、ええ。俺のを持っていってください。他は村で使っていますから」


「分かりました。ありがとうございます、ジンさん」


 というわけで、クリストフさんが自転車をフリーデンベルクで売り出すことに。


 まずはデモンストレーションということで、値段は設定せず。ただ日本における値段は金貨に換算して教えておいた。


 果たして自転車は売れたするのだろうか……?


……………………

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― 新着の感想 ―
配達中に魔物や山賊などとエンカウントした場合、結構危険な体勢になりそうなのが心配ですねー、魔物避けのアイテム?魔法?があれば、かなり有効になりそうですよねー、
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