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計算はお任せ

……………………


 ──計算はお任せ



 次に俺が持ち込んだ品は割と画期的なものだ。


 それは卓上計算機である。


 太陽光で発電し、四則演算をやってくれるシンプルな計算機。それを俺は購入して、まずはグリムシュタット村に持ち込んだ。


「リーゼ。これを試してみてくれる?」


「んん? これは何かな?」


「計算機だよ。こうして使うんだ」


 俺はぽちぽちと卓上計算機で計算を行って見せる。足し算から割り算までリーゼに問題を出してもらって計算機でそれを解いていく。それを見ていたリーゼは凄く驚いた表情をして計算機の方を見つめていた。


「す、す、凄いよ! これって凄すぎるよ!」


「あはは。これがあればヴォルフ商会の帳簿を付けるのも楽になると思うんだけど、どうかな? まずは俺たちでこれを導入してみない?」


「ね、ねえ、ジン。これって魔法のアイテムだったりする? 伝説のアーティファクトみたいな……」


「いやいや。そんな大層なものじゃないよ。日本にいたら誰でも気軽に買えるくらい」


「そ、そうなんだ……。これまでジンが持ち込んだ商品の中で一番驚いたかも……」


 そう言いながらリーゼは計算機を弄っていた。


「これをアルノルト様やのニナ様にも贈れるかな? アルノルト様たちも計算する仕事が多いからきっと役に立つと思うんだ」


「それならぜひプレゼントさせてもらおう。そして、感想を聞かせてもらって好評なら新しい商品としてヴォルフ商会で扱おうと思う」


「いいね! じゃあ、早速アルノルト様たちのところに行こう!」


「おおーっ!」


 俺たちは計算機を抱えて、アルノルトさんたちの城へ向かった。


 もう既に俺たちは顔パスで中に入れ、使用人さんに要件を伝えると、いつものように応接間に通されたのだった。


「やあ。ジン君、リーゼロッテ君。何か凄い商品を入荷したとか?」


「そうなんですよ、アルノルト様。ジンが伝説のアーティファクトみたいな商品を持ってきてくれたんですよ!」


「ほう! 伝説のアーティファクトとは! 見せてもらっても?」


「これです!」


 リーゼがそう興奮した様子で計算機をアルノルトさんに差し出す。


「これは……?」


「卓上計算機というものです。このボタンを押して数字を入力し、計算を行わせてみてください」


「ふむふむ……。おお? おお!? これは……!」


 アルノルトさんは俺にそう言われてボタンをポチポチと押して計算結果がすぐさま出るのにびっくりしていた。


「確かにこれは伝説のアーティファクトのようだ……」


 アルノルトさんはそう言ってふうと息を吐く。


「ニナを呼んできてくれるか?」


 そして、使用人さんにそう頼むとニナ様が部屋にやってきた。


「お父様。お呼びですか?」


「ああ。ジン君が凄いものを持ってきたんだ。その性能を確かめたい。お前の方で何か計算すべき数字を出してくれ。私がこれを使って答えを出すから、お前は検算を行って正しい数値か確認を」


「計算ですか? 分かりました。では──」


 ニナさんは計算する数字を上げていき、足し算や掛け算を指示していく。アルノルトさんはその数字を計算機に入力して、一瞬で答えを出す。


「え? もう答えが出たのですか?」


「ああ。検算を頼むよ、ニナ」


「は、はい」


 ニナさんはノートにボールペンで検算をしていき、答えがばっちり合っていることを確認するとやはりびっくりしていた。


「凄いですわね……。ジンが持ってきた品にはこれまで何度も驚かされましたが、これは特に驚かされましたわ……。これは答えを出す代償に何か奪い取られるとか、そういうことはありませんか……?」


「いやいや。そんな物騒なものではないですよ。太陽光を当てれば充電されるので、定期的に太陽の光を浴びせればいいだけです」


「そうなのですか……」


 ニナさんは俺にそう言われて一安心していた様子だ。


「これはアルノルト様とニナ様に差し上げます。使ってみて、良さそうだったらヴォルフ商会で商品として売り出すつもりです」


「ええ、ええ。これは間違いなく売れるはずですよ。どんな商人だってこれは欲しがるでしょうね」


 ニナさんが言うには商人たちは暗算かそろばんのような原始的な計算機を使って数字を出しているそうだ。だが、やはりそこにはミスが生じることがあり、正確で素早い計算はこれまでなかったものらしい。


「私も計算は苦手でね。だが、領主として税の計算はしなければならないし、苦労していたのだよ。これからはこの計算機のおかげで楽になりそうだ」


 アルノルトさんはそうホクホクの笑み。


「クリストフが来たら彼にも見せてみるとよいですよ。きっと彼は商人の立場から意見をくれるはずです」


「分かりました。クリストフさんが来たらすぐに」


 ニナさんのそう言われて俺は頷く。


「ジン君。計算機とは関係ないのだが、ひとつ頼みたいことがあるのだが」


「何でしょう?」


「うむ。この前のウィスキーの件だ。ウィスキーのことが国王陛下にも伝わったようでな。ローゼンフェルト辺境伯閣下の下で密かに宴が開かれることになった。そこで提供する上等な酒を君に準備してほしいのだ」


「国王陛下……ですか?」


「ああ。名誉なことだ」


 わあ。ゲオルグさんたちから国王陛下の耳に入っているということは聞かされていたが、その国王陛下に提供するお酒を俺が準備するなんて!


「わ、分かりました。飛び切りいいのを準備しておきます!」


「頼むよ。これで国王陛下に気に入られれば、販路がさらに拡大するかもしれない」


「そうですね」


 いやはや。国王陛下にお酒を出すとは! ヴォルフ商会もこれで王室ご用達、みたいな看板が貰えたりするんだろうか?


「お父様。宴にはジンも連れていってはどうですか? あの酒精の強いお酒はジンが持ってくるものです。彼のことも国王陛下に紹介されては?」


「うん。構わないと思うよ。どうする、ジン君?」


 ええええっ!? 俺が国王陛下に!?


「い、いえ。恐れ多いですから……」


「そうかね?」


「礼儀作法なども存じておりませんので、失礼なことをしてしまうかもですし……」


「確かに国王陛下に対する礼儀は必要だね。ううむ。それならばやむを得ない。君を紹介するのは次の楽しみとしておこう」


 アルノルトさんがそう言うのに俺は正直ほっとした。


 国王陛下なんて俺のような一般市民が会ってどうこうできる相手じゃない。下手すると『無礼だ! 斬り捨てろ!』なんてことになったりするかも……。


「しかし、ジンもいずれは国王陛下に会うことがあるでしょう。マナーについて教えておくべきかもしれませんわ、お父様」


「そうだね。ジン君ほどの商人ならば、いずれ国王陛下に謁見するかもしれない」


 ニナさんとアルノルトさんはそのようなことを言っている。


「い、いやあ。それは本当にご勘弁を……」


 会社で必要だったビジネスマナーですらあいまいな俺に本格的な王族向けのマナーが覚えられるとは……。


「何事も覚えておいて損はありませんよ。毎日少しずつ覚えていきましょう」


「……はい」


 ニナさんにそう押し切られ、俺の毎日の日課にマナー講習が加わったのだった。


……………………

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