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これからの取引について

……………………


 ──これからの取引について



 ゲオルグさんは俺にさらなる地球の品の流通を求めている。


「一応考えてはいます。まだまだ皆さんに紹介したい品はありますからね」


「おおっ!」


 俺の言葉にゲオルグさんは嬉しそうな笑み。


「しかしですね。自分がこの国に商品を持ち込んだ大きな理由は、グリムシュタット村を豊かにしたいという思いがあるのです。その点について、何かご協力はいただけないでしょうか?」


「ふむ」


「グリムシュタット村には祖父がお世話になっていたことがあり、恩返しの気持ちで始めたのが、このヴォルフ商会とも言えるのです」


 そう、俺が発展させたいのはグリムシュタット村なのだ。じいちゃんが世話になったグリムシュタット村を、リーゼの暮らす村を便利で豊かにしたい。


「そういうことでしたら、僅かですがお手伝いできるでしょう」


 ゲオルグさんはそう言う。


「ボールペンとノートを卸している商業ギルドにそれと引き換えにグリムシュタット村の農作物や手工芸品を市場価格より高値で買い取るようにさせることや、グリムシュタット村までの街道の整備にかかる費用の拠出などですな」


「おお! それはありがたいですね!」


 それは間違いなくグリムシュタット村が発展する話だ!


「ええ。ヴォルフ商会にとってグリムシュタット村が重要であるのならば、我々もそれを尊重しますぞ。お互いの利益になる取引こそが、末永く続く取引ですからな。ははは」


 流石は自由都市の市長さんだ。ちゃんと考えていらっしゃる。


「ですが、ヴォルフ商会はフリーデンベルクに支店は出されないのですかね?」


「今のところは魔法使い連盟内の支店だけですね」


「では、店を出されるときは是非とも我々にご相談を。力になりますぞ」


 それから俺たちは出される料理を味わいながら、まだフリーデンベルクに持ち込んでいない商品にはどのようなものがあるかを話した。


 懐中電灯やお酒などなどの話をするとゲオルグさんは興味深そうに俺の説明を聞いていた。そして、少しはっとしたような表情を浮かべる。


「その酒精の強い酒と言うのはウィスキーという酒かな?」


「おや? ご存じでしたか?」


「それはもう。ローゼンフェルト辺境伯閣下が宴で提供されて、大勢を魅了したと聞いておりますぞ。そのウィスキーの名声は国王陛下にすら届いたと」


「こ、国王陛下にですか」


 何だかえらいことになってしまっている!


「私も一度味わってみたいですな。とても高価な品なのでしょうが……」


「次、こちらに来るときにお持ちしましょう。サンプルとして一瓶差し上げますよ」


「おおっ! よろしいのですか……?」


「気に入られたら広めてくださると宣伝になりますから」


「ははは! いやはや商売上手でいらっしゃるな」


 俺の言葉にゲオルグさんは愉快そうに笑う。


「ところで、ユリウスさんはどうされたのですか? 顧問ですからこの場にいらっしゃると思ったのですが……?」


「ユリウスは魔法使い連盟の方のパーティに顔を出しておりましてな。じきに戻ってくるはずですぞ」


 ユリウスさんもこの場に同席するのだと思っていたらいなくて疑問に思っていた俺だが、ゲオルグさんが言うにはアークメイジとして魔法使い連盟の式典に方にも出席する必要があったのだとか。


「遅くなりました、市長、ジンさん」


「お久しぶりです、ジンさん」


 そして、ユリウスさんが魔法使い連盟支部長のテレジアさんとやってきた。


「こちらこそお久しぶりです。お元気でしたか?」


「ええ。とても」


 俺たちは挨拶を済ませて席に着く。


「魔法使い連盟の方のパーティはどうだったかね、ユリウス?」


「見事なものでしたよ。何せ、今年は魔法使い連盟の方の副理事長までいらっしゃいましたから」


「ほう? それは珍しいことこの上ないな」


 副理事長? 魔法使い連盟の偉い人なのだろうが、俺はまだ魔法使い連盟の規模を把握できていないのでいまいちピンとこない。


「彼にもノートとボールペン、それに蛍光ペンなどを自慢したのですが、そうしたら帰りに大量に買って帰っていましたよ。『これがあれば新しい魔法が100は浮かぶ』と言っていましたね。あははは」


「それは、それは。素晴らしいことだ」


「それから王都の魔法使い連盟本部にも店を出してくれと頼まれましたが、ヴォルフ商会さん次第だと言っておきました」


 そう言ってユリウスさんは俺の方を見る。


「いや。申し訳ないですが、フリーデンベルクにもお店を出すか出さないかを検討している段階でして……王都までは……」


「分かっています。そこら辺は含めて言っておきましたよ」


「ほっ……」


 近場のフリーデンベルクですらも持て余しているのに場所も知らない王都に支店は出せないのだ。少なくとも今のところは。


「王都かぁ。私、一度も行ったことないですよ~」


「え? リーゼも王都には行ったことないの?」


「そこら辺の生まれじゃないからね~。ご縁がなかったよ~」


 リーゼも王都未体験か。なら、一度リーゼと一緒に観光してみたいものだなぁ。


「王都の他にもフリーデンベルクの外から来た魔法使いたちは、誰もがノートなどの文房具に魅了されていましたね。やはりいい商品は誰にでも伝わるのでしょう」


「それは嬉しい言葉です」


 テレジアさんもそう言い、俺は微笑む。


「ああ。そうでした。忘れるところでした。こちらはお世話になってるお礼にどうぞお受け取りください」


 そう言って俺は持参したお菓子とコーヒーの詰め合わせと万年筆を渡す。


「おお。これはわざわざ申し訳ない。開けてみても?」


「どうぞどうぞ」


 ゲオルグさんはそう言って箱を開けて万年筆を取り出す。


「何と美しい……。これはペン、なのだろうか?」


「はい。試しに何書かれてみては?」


「そうしてみよう」


 ゲオルグさんは包装紙にすらすらと文字を書き、びっくりしていた。


「おお……! これはボールペンより書き心地がいいな……。見た目も高級感に溢れ、素晴らしい品だ。ありがとう、ジンさん」


「いえいえ」


 喜んでもらえるならば何よりだ。


「ヴォルフ商会さんの商品はどれも質がいい。金貨で取引されるのも納得だ。あなた方が次は何を持ってきてくれるのか、楽しみにしています」


 ユリウスさんも万年筆を手にそう言う。


 しかし、俺はちょっと悩んでいた。次に持ってくる商品についての悩みだ。


 文房具やお茶は喜ばれた。だが、そればかり持ってくるのも面白くはない。何か変わった品で驚きを提供したいと、そう思っていたのだ。


 だが、どんな商品が需要があるのかがよく分からない。


 というのも、魔法の存在があるからだ。


 魔法がある限り、医薬品はほとんど必要ないだろう。それにあの空中に物を浮かせる魔法があれば重機やフォークリフトの類も要らない。他に魔法にどんなことができるか分からないが、魔法があるから要らないということは多々あるはずだ。


「あの、引き続き魔法使い連盟内の店舗はお借りできるでしょうか? これからちょっと文房具以外の品も扱うことになるかもしれませんが……」


「魔法使い連盟の支部長としては構いませんよ。ただ店舗の位置的に、魔法使いたちが必要とする品しか売れないとは思いますが」


「大丈夫です。そこら辺は考えて持ってきます」


「そうですか。では、こちらこそよろしくお願いしますね」


 こうしてフリーデンベルク市での話し合いは一度終わり、俺たちはそのあと食事とお酒で談笑してから解散となった。


 実を言うと次に持ってくる品は既に考えてあったりする。


……………………

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― 新着の感想 ―
丸、G、カブラペン辺りもありかなぁ、羽ペンとあまり変わらないけれどインク持ちは少しだけマシかもしれませんね。
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