再びのフリーデンベルク市
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──再びのフリーデンベルク市
ユリウスさんの訪問から7日ほどが経ったときだ。
「ジンさん。手紙が届いてるよ。フリーデンベルク市からだとか」
「ありがとうございます」
俺たちの下に便りが届いた。
「リーゼ。手紙が届いたから読んでみてくれる?」
「はいは~い!」
俺も最近では結構、こっち側の字が読めるようにはなってきたのだが、まだリーゼに任せた方が安心ではある。俺はリーゼの横で字を読む練習だ。
「あ! ユリウスさん言っていた件だよ。ほら、市長のゲオルグさんがジンに会いたいって言っていた件!」
「それか~。フリーデンベルクに来てくれって?」
「そうだね。フリーデンベルクで開かれるパーティに招待したいって」
「パーティ?」
「うん。フリーデンベルクが自由都市として成立した記念日を祝うパーティ」
「へええ。でも、それってフォーマルなパーティなのかな……? だとすると服装とかもしっかりしていかなきゃいけないんじゃぁ……?」
「そうじゃないみたい。街の人も一緒に祝うものだって書いてある。私がフリーデンベルクにいたときも、こういうパーティはやってた気がするけど、そこまで格式ばった式典じゃなかったはずだよ」
それに手紙にも服装の指定とかはないしとリーゼ。
「よし。なら、お土産にする品を選んでから、パーティに間に合うようにしないとね」
「うんうん。私もパーティは楽しみだな!」
というわけで俺たちはフリーデンベルクで開かれるパーティに出席するために、早速準備を始めた。
俺は一度日本に戻り、市長のゲオルグさんたちに渡すお土産を選ぶ。
「う~む。お酒は好き嫌いがあるからなぁ。無難にお菓子にしておこうか……」
誰もがお酒が好きなわけじゃないので、俺は今回はお酒は避けて、ちょっと高級なグレードかつ日持ちするクッキーとコーヒーをお土産に選んだ。それから文房具店に行き、お高い万年筆を4本購入。2本はゲオルグさんとユリウスさんとテレジアさんに、1本はリーゼにだ。
リーゼにはいつもお世話になっているし、何かプレゼントしたかったのである。
「さて、こんなものかな?」
俺はお土産になる品の買い物を終えると、再び異世界へ戻る。
「ジン! 準備はできた? 私はいつでもいいよ!」
「うん。俺の方も準備万端。でさ、その前にこれを試してみてほしいんだ」
「なになに?」
「これ、万年筆っていうんだ。それでこれはリーゼへのプレゼントでもあるよ。いつもありがとうってお礼の品」
「わああああっ! ありがとう!」
リーゼは万年筆を箱から取り出すとしげしげと眺める。
「これはボールペンとはまた違うんだね?」
そう言いながらリーゼはノートにすらすらと文字を描き、ボールペンとは違う書き心地に驚いていた。
「おおーっ! これはまたボールペンとは違う書き心地……」
リーゼはそう言ってまたしげしげと万年筆を眺める。
「それに見た目の高級感がいいね! 何だか凄く人に自慢したくなる! これもヴォルフ商会で販売するの?」
「今のところはプレゼントの品だね。ボールペンと違って手入れがいるし、あまり安くもないから」
「そっかー。じゃあ、これは特別だね! ありがとう、ジン!」
リーゼはそう言って凄く満足してくれていた。
それから俺たちは再びフリーデンベルクに向かった。
いつものように途中の村で一泊してから付いたフリーデンベルクは──。
「おお? お祭りの雰囲気だね?」
街は丁寧に包装されたプレゼントのように色鮮やかな様相になっていた。通りに軒を連ねる店も普段より頑張って飾り付けを行っており、街の人たちも今日は滅茶苦茶活気づいている!
「こんなに盛大に祝うようになっていたんだねぇ。私がいたときはここまでではなかったんだけどなぁ……」
リーゼもここまでのお祭りになったフリーデンベルクは初めてのようで、目を輝かせながら周囲を眺めている。
この人混みなので今日は街の中に馬車の類は入れず、俺たちも外の馬小屋に車を止めて、徒歩で街並みを眺めている。
「市庁舎に向かおう。そこでゲオルグさんとユリウスさんと待ち合わせだから」
「了解だよ! 私が案内するね!」
俺たちは人混みの中を離れないように手を結んで進み、市庁舎に向かった。
市長舎は赤いレンガ造りの建物で、飾りつけされているが立ち入りは制限されているようであり、衛兵が扉の前に立っている。
「すみません。市長のゲオルグ様と顧問のユリウス様の招きでやってきたヴォルフ商会のものですが……」
「おお。ヴォルフ商会の方ですか。どうぞお通りください。市長がお待ちですぞ」
俺は市長からの招待状を見せて言うのに衛兵は笑顔で俺たちを通してくれた。
「リーゼはゲオルグさんって知っている?」
「私がいたときは市長は別の人だったね。女の人だったから覚えてる」
「へえ」
昔って男性の権利が強くて女性は政治にかかわるな! って感じだったらしいから、この世界もそうかなと思ったがどうやら違うらしい。
「ああ。ヴォルフ商会の方々ですね。市長はこちらです」
それから中に入ると事務員さんみたいな恰好の人に案内され2階に。
「どうぞ、こちらへ」
そして2階の部屋の中に通された。
「ようこそ、ヴォルフ商会のジンさんとリーゼロッテさんですな。私がフリーデンベルク市長のゲオルグです。どうぞよろしく」
そう言って笑顔で出迎えてくれた男性がゲオルグさんだ。
「今回は急な招待にもかかわらず応じてくださって感謝しますぞ」
「いえいえ。こちらこそこのような華やかな場にお招きいただき感謝します」
俺とゲオルグさんはそう言って握手を交わす。
「さて、あなたについてはもう既にユリウスから聞かせてもらっています。とても誠実な方だと。グリムシュタット村へ密偵に送ったようなユリウスにお土産を送ってくださったばかりか、あのジャガイモという植物についても隠すことなく分けてくださった」
「あはは。密偵だなんて。ユリウス様はそのようなことはされていませんよ」
ゲオルグさんがそう言うのに俺は苦笑。
「さて、今日は祝いの場です。よろしければ食事をしながら話しましょう」
「はい」
俺たちは市庁舎の2階にある広間で食事をしながら、お互いの話題を話す。
料理は肉料理や魚料理がまとめてドン! と出されており、好きなものを取って食べるという形式だった。肉も魚もとにかくたくさんの量があり、まさにお祭りで出される料理であった。
豚の丸焼きには香ばしいソースがしみこませてあるらしく、食べてみるとこの世界の食べ物にしては味が濃く、とても美味しい!
「ボールペンとノートを見たとき、これはフリーデンベルクを大きく変えるものだと確信しましたぞ。あの画期的で、高度な技術が使われた商品! あれがもっとフリーデンベルクに流通するとよいのですがな」
「今のところは魔法使い連盟での販売になりますね。既存の事業者と対立することは避けたいですから」
「羊皮紙ギルドのことですかな?」
「ええ」
クリストフさんからは今も羊皮紙ギルドなどのような手工業ギルドから俺たちはよく思われていないと聞いていた。なので、新参者の俺たちは今はまだ小規模に取引をして完全な対立を避けているのだ。
「なるほど。思慮深い方だ。確かにあのような真っ白な紙が安く出回れば、手工業ギルドとしては気に入らないでしょう」
ゲオルグさんはそう言って頷く。
「しかし、ユリウスが言うにはあなた方はあのノートとボールペン以外にも高度な品を扱われてるとか。それについてフリーデンベルクで流通させる予定はありませんかな?」
グイッと前に出てゲオルクさんがそう尋ねてきた。
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