最初に持ち込むのは
本日3回目の更新です。
……………………
──最初に持ち込むのは
会社からは引き留められたものの、ちゃんと引継ぎをするという条件で退職が決まった。俺は2週間内に引継ぎをを済ませて、再び東京から熊本に飛んだ。
駅にある商業施設でお菓子をいろいろと買い込むことも忘れずに。甘いものが受けていたようなので日持ちするアメやクッキーなどを買い込み、物は試しとポテチなども購入。あとはそこそこお高い饅頭だ。
それから駅の近くにある電気店でブルーレイプレイヤーとタブレットを購入。何作品かの映画やアニメのDVD、ブルーレイを買うのも忘れずに。
「とりあえずはこんなものか」
まだ焦って太陽光パネルやら大型バッテリーを購入するのは早いと判断した。まずは今回持ち込むものがちゃんと向こう側に受け入れられるのかを試したい。
異世界がこれを拒むのであれば、方針転換が必要だしな。
それからレンタカーで再び祖父の残した家に俺は向かった。
「この庭もいずれはちゃんと片付けないとな」
雑草が伸び放題の庭を見ながら、俺はそう呟く。祖父の家そのものは暮らすうえで問題になる点はあまりない。あるとすれば、他の人が暮らしている場所や店などから遠いことぐらいだ。
だが、倉庫のことを今は世間に隠しておきたいので、周囲に人がいないのはむしろありがたいことである。
それから倉庫に新しいカギを買ってきた。前のカギは壊れたのか、閉まらないようになっていたし、カギをかけずに放置して誰かがうっかり間違って異世界に行ってしまっては大変だからね。
俺はそのカギを取り付けてから、異世界に再び踏み込んだ。
「時間は同じくらいだな」
今日、異世界に踏み込んだのは12時30分ぐらいで、異世界側も太陽が丁度真上に輝いている時間帯であった。
俺はそういう細かな点も確認しながら、リーゼロッテさんの家を目指す。
「リーゼロッテさん。仁です」
俺はトントンと扉をノックしてそう告げると、すぐに扉が開いた。
「おおーっ! ようこそ、ジンさん!」
「お久しぶりです。約束していたお菓子、持ってきました」
「これは、これは! さあ、どうぞ上がって、上がって!」
リーゼロッテさんは大喜びで俺を家に上げてくれる。
「これが今回のお菓子です。お口に合えばいいのですが」
「ほうほう……! これはまた見たことのないものばかりですね! 食べるのが楽しみです!」
アメやクッキー、チョコレート、加えてポテチを袋から取り出してリーゼロッテさん宅のダイニングテーブルに並べるのにリーゼロッテさんが目を輝かせた。
「それから今日はちょっと変わったものを持ってきたんです」
「変わったもの?」
きょとんとするリーゼロッテさんに俺は鞄から私用で使うノートパソコンとブルーレイプレイヤーを取り出し、それをUSBケーブルで繋ぐ。
「これな何なのですか?」
「これはですね。こういうことができる機械です」
俺はそう言ってノートパソコンの電源を入れた。
「おお!? これは絵が動いていませんか……?」
「まだまだこれからですよ」
起動画面の時点で驚いているリーゼロッテさんに俺はDVDで映画を再生して見せる。恐竜が出てくるクラシックなアクション映画だ。
「ジ、ジンさん! 画面の中に小さな人がいますよ!?」
「いえいえ。これは映画というものなんです。カメラという道具で記録した映像をこうして何度でも再生することができるんです」
思った通りのリアクションをしてくれて思わずにんまりしてしまうが、俺は誤解されないように説明を行う。
「エイガとカメラですか……。不思議な技術ですね……」
「ここでリーゼロッテさんにお聞きしたいのですが、俺はこれからこういうものを村に持ってこようと思うのです。そのことに対して何か反発が起きたりすることはあり得そうでしょうか……?」
「このようなものを? ふむふむ」
リーゼロッテさんはそう言ってノートパソコンをあれこれと見物する。マウスを動かしてみたり、キーボードを叩いてみたり、ノートパソコンのカメラを起動して自分の顔が映ったのにびっくりしたり。
「大丈夫でしょう。害があるようなものには見えませんし。しかし、こういう珍しい品はお高いのではありませんか? もし、私たちが壊したりしたらということの方が心配になります……」
「あはは。大丈夫です。確かに安い品ではありませんが、二度と手が出ないほど高いというものでもないのですよ」
「ほう。それは興味深い。私でも買えるでしょうか?」
「すみません。それは難しいかもしれません。こっちの世界と俺の暮らす国とでは通貨が異なりますから」
前にこの国の貨幣を見せてもらったが、あまり精工ではない作りの銅貨や銀貨だった。金貨もあるそうだが、それは見れなかった。だが、それでもそのままでは日本で買い物することはできない。どうにかして両替が必要だ。
「それにですね。このノートパソコンというのは電気を使うんです。電気というものを聞いたことはありますか?」
「デンキ? いえ、そういうものはさっぱり」
やっぱりとは思ったが、電気は発見されていないか。
「雷はご存じですよね。あれで生じているのが、まさに電気なんですよ」
「つまりこれは雷のパワーで!?」
「雷が発生する原理とは違いますが、そういうことです」
そういうとリーゼロッテさんはややノートパソコンから距離を取る。雷のエネルギーと同じと言われて警戒してしまったようだ。
「大丈夫です。これは制御されていますから。暑いところに放置したりしない限り、爆発したりはしませんよ」
「ほ、本当に大丈夫なのです?」
「自分たちの国では大勢が安全に使用していますから」
俺にそう言われてリーゼロッテさんは戻ってきた。
「これから映画を見ながらお菓子でも食べましょう。飲み物は……」
「飲みものを入れますよ。待っていてください!」
リーゼロッテさんはそう言ってぱたぱたとお茶を入れに向かった。
そこで俺は驚くべきものを見た。
「火が!」
リーゼロッテさんが指を振るとかまどにまるで現代のキッチンのように火が灯ったのだ! ま、まさかこれが魔法ってやつなのだろうか……?
「どうしました、ジンさん?」
「あ、あの! 今のって魔法ってやつですか?」
「ええ。その通りです。私、魔法使いですので」
リーゼロッテさんはそう言ってにまっと笑って見せる。
凄い! 魔法は本当にあったんだ!
「やっぱり、魔法と言うのは特定の人にしか使えないものなのでしょうか?」
「う~ん。適性のあるなしはしっかりとありますね。ですが、それよりも魔法の勉強の方が大変かもしれません。この村でも魔法の学校がないので、魔術が使える人はそう多くありません」
「なるほど……」
あわよくば俺も魔法が使えたりと夢見たりしたが、現実は厳しい!
「さて、飲み物が入りましたよ」
「ありがとうございます」
リーゼロッテさんが入れてくれた飲み物はお茶のようだが香りが薄く、ちょっとばかり渋みのある感じの……はっきり言うと微妙な味のものだった。
今度は飲み物も持ってこようと思いながら、俺たちは映画を鑑賞。
「おおっ! ち、地球にはあんな獰猛な生物が存在しているのですか?」
「いえいえ。あれは映画のために作った作り物ですよ」
最初に選んだのが恐竜映画だったのは失敗だったかもしれない。もっと地球のことが率直に伝わる映画を選ぶべきだったか。
「しかし、これまで不思議だったのですが、リーゼロッテさんたちは日本語が分かるのですか?」
「? 二ホン語とは?」
「あの字幕の文字とかですよ」
「んんん? 私には大陸共通語で書かれているように見えますが……」
俺の問いにリーゼロッテさんは首を傾げる。
原理はよく分からないが、地球から持ち込んだ品には自動的に翻訳がかかるのだろうか? あの倉庫のゲートが何かしらの作用をしている可能性もあるかな……?
それから映画が終わり、持ってきたお菓子も半分くらい消費した。
「素晴らしいですね、映画と言うのは!」
リーゼロッテさんは大満足だ。
「満足していただけましたか?」
「ええ! これは村のみんなに見せたいです!」
「村のみんなに、ですか」
う~ん。著作権的にそれはオーケーなんだろうか? と思いながらもここが異世界であることを思い出す。ここにはここの法律がある、と言い切ってしまおう。ちょっと罪悪感は感じるけれどお金は取らないし……。
「分かりました。次はみんなで見れるように準備してきますね。それからお菓子ももっと買ってきます」
「けど、それだとジンさんに悪いですよね。両替は難しいかもしれませんが、お金は払わせてください」
「そんな! リーゼロッテさんからは受け取れませんよ! 祖父の恩人ですから!」
「そう言わずに。少ないですが……」
そう言ってリーゼロッテさんが差し出すのは小さな銀貨が3枚。
「すみません。ありがとうございます」
俺も今までの貯蓄と退職金があるが、元手がなければいつまでも異世界への投資は続けられない。ここは恥を忍んで銀貨を受け取った。
どうにかしてあとはこれを換金する手段が必要だが……。
「それからこれを」
リーゼロッテさんがさらに差し出すのは、何やら精巧な作りをした銀の五芒星のペンダントヘッドがついたネックレスだ。
「いいのですか? 高そうな品に見えますが……」
「幸運のお守りです。どうぞ身に着けておいてください。ひょっとしたらいいことがあるかもですよ? これは魔法のお守りですからね!」
リーゼロッテさんはそう言ってにこりと微笑んでいた。
「では、ありがたく」
俺はそう言ってリーゼロッテさんから受け取ったネックレスを下げる。
これが俺の人生を変えるとは、今はまだ思ってもみなかった。
……………………
今日の更新はこれにて終了です。
面白いと思っていただけたら評価ポイントやブックマークでの応援お願いします!