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新しい作物を作りたい

……………………


 ──新しい作物を作りたい



 山賊やらクリストフさんのヴォルフ商会加入やらで忙しかったが、また静かな時間が訪れた。グリムシュタット村には平和が戻ってきて、いつものように子供たちが外で遊び、村の人たちは農作業に精を出している。


 さて、そういう静かなときなので俺はリーゼと一緒に過ごすことにした。


「リーゼ。お茶を準備したよ~」


「おおっ。ジン、ありがとう~!」


 リーゼは自分の小屋で何やらコピー用紙とボールペンで書き物をしていた。俺はそれを後ろから覗いてみるがさっぱり分からない。


「それは一体?」


「これ? 今、考えている新しい村の農作物の研究だよ。農業について記された本を読んで研究してるんだ」


「へえ。リーゼってそんなことまでやってるんだ……」


「魔法使いは仕事がいろいろあるんだよ~」


 そうだった。魔法使いというのは日本でいう大学教授や高級官僚みたいな立場なのだ。それはいろいろと仕事もあるのだろう。


「なら、俺に手伝えそうなことはない?」


「そうだねぇ。異世界の珍しい植物を栽培できるか試してみたいかも?」


「珍しい植物、か……」


 俺の頭の中でこのグリムシュタット村には存在しなかった作物を思い出す。


 お肉はいっぱいあったけど野菜は少なめだったな。トマトとか定番のやつも……。


「う~ん。どんなのが珍しいかわからないから、とりあえず向こうにある野菜をいろいろと持ってきて見るよ。その中からリーゼが気に入ったやつの苗を買ってきて育ててみるってのはどうだい?」


「いいね! そうしよう!」


 話はそのように進み、俺はグリムシュタット村に野菜を持ってくることになった。そう言えば近くに道の駅があったなということを思い出し、そこで熊本の野菜を買って持ち込もうと思ったのだった。


「それはそうと今日はおはぎを持ってきたよ」


「おおっ? また美味しそうですね~! 和菓子ならば緑茶といただきましょう~。お茶を入れますよ~!」


 すっかりリーゼも緑茶と和菓子に嵌っていた。リーゼは特に餡子系の和菓子が好きなようで、本当に美味しそうに食べてくれるので持ってくる甲斐があった。


「ふふふ。ジンとこうしてお茶をしている時間が、今では一番好きかな」


「そ、そっか。俺も好きだよ。リーゼとこうしてのんびりしているのは」


 お茶菓子とお茶を楽しみながら、好きな人と一緒にいる。それはとても居心地のいい時間である。そして、それは俺が日本では得られなかった時間でもある。


「もし、このグリムシュタット村で小麦以外の農作物が取れるようになれば、やっぱり村の暮らしは上向くのかな?」


「それは間違いないよ。今は小麦ばかりだけだから、他の村から他の作物は仕入れなければいけない。けど、グリムシュタット村は辺鄙な場所にあるから、なかなか新鮮な野菜と言うのは取れなくて……」


 この世界でも栄養価が偏るという価値観はあるようで、やはり小麦だけでは暮らしていけないというのは分かっているらしい。


 そして、それがリーゼにとって頭の痛い悩みでもあった。


 野菜などの生鮮食品はこの辺鄙なグリムシュタット村に生のまま届く時には痛んだりしてしまっており、なかなか新鮮な生野菜を食べることはできないそうなのである。


 今、村人の栄養源になっているのは主に森で取れる山菜だそうだ。


「それならなおさら何か作物を増やさないとね。協力するよ」


「お願いするね、ジン」


 俺はリーゼとのお茶の時間を終えると、早速日本に戻って道の駅に向かう。


「いろいろとあるなぁ」


 今の季節は夏でトウモロコシがあれば、ナスなどもある。あとは通年で栽培されているトマトやジャガイモなどなど。


「そう言えばトウモロコシとジャガイモは飢饉に強いんだっけ……?」


 俺のうろ覚え世界によれば、どちらも新大陸の作物でヨーロッパに入ったのは遅い時期だったはず。そんでもってどっちも大量に収穫できるから、飢饉が減ったとか何とか。うろ覚えだけど。


 けど、ジャガイモは確かに育てやすかったはず。どうしてそう言えるかと言うと、昔火星に取り残された宇宙飛行士がありあわせのものでジャガイモを栽培するという映画を観たからだ。あれは面白かった。


「しかし、どっちも栄養という意味では偏ってるかな……」


 そう思いながら俺はジャガイモとトウモロコシを買い物かごにイン。


「トマトとかは栄養価高いよね。ナスとかピーマンとかも。あとはあとは……」


 とりあえず俺はジャガイモ、トウモロコシ、トマト、ミニトマト、ナス、ピーマン、キュウリなどを購入した。この中からリーゼが気に入ったものの苗を持ってきて、栽培を頑張ってみよう。


「あ。そういえば……」


 肥料を持ち込むと言うのはどうだろうか?


 と思ってネットで調べたが……これがまた難しい。ただ何となく肥料を混ぜれば上手くいくということはなく、いろいろ土壌に応じて調整しないといけないようだ。それに失敗すると土壌が汚染されてしまうのだとか……。難しい!


 いいことをしようと思って逆に迷惑をかけては申し訳ないしな。しかも、相手は作物の収穫に命がかかっているのだから。


「う~ん。家庭菜園のプランターレベルで試してからかなぁ~」


 そう思い俺はホームセンターに向かうと家庭菜園セットを買い、ついでに実験のためのミニトマトの苗を買ったのだった。


 そして、俺は再び異世界へ。


「リーゼ。とりあえず日本にある野菜を買ってきたよ」


「おお? どれも見たことのないようなものばかりで……」


 俺が道の駅で買ってきた野菜を見せるのに、リーゼはしげしげとそれを眺める。


「これはどのように料理して食べるのかな?」


「トウモロコシとかジャガイモは茹でたりして。ナスとかピーマンは炒めたりかな。トマトとキュウリは生のままでも食べられるよ」


「へえ! では、ちょっと挑戦してみますね」


 そう言ってリーゼはトマトをかぷりと食べる。そして目を輝かせた。


「ジン、ジン! これって凄く美味しいよ! こんなのこれまで食べたことない! とっても瑞々しくて、酸味がちょうど良くて!」


「気に入ってくれたならよかったよ。トマトは栄養もあるみたいだしね」


「うん! なんとかこれをグリムシュタット村で育てられればなぁ……」


「それなんだけど、まずは実験としてこの小さなプランターでミニトマトを育ててみない? それが上手くいったら、村で土地を借りてもっと大規模に作ってみることにするってのはどうかな?」


「ほうほう。可愛いね、このちっちゃいトマト。それにまずは実験からってのは確かに合理的かな。やってみよう!」


 リーゼはそう言って納得してくれた。


「では、書いてあるやり方通りに……」


 俺たちはプランターに土と肥料、そして苗を植えて、それからミニトマトが育つために必要な支柱を立てる。それからリーゼの小屋の近くの日当たりのいい場所にプランターを置いた。


「じゃあ、これからこのミニトマトが育つか、楽しみにしよう!」


「楽しみだね~! これが育てばグリムシュタット村の食卓に色どりが出るよ~!」


 そんなこんなでミニトマト菜園が開かれた。


 とは言えど、何分、初めてのことなので大失敗する可能性もあるが……。ここはリーゼのくれた幸運のお守りにもお願いして無事にミニトマトが育つことを祈ろう!


……………………

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