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新しい仲間

……………………


 ──新しい仲間



 話があるというクリストフさんに会いに俺たちは広間へ向かう。


「おう。ジン、リーゼロッテ。クリストフが会いたがっているぞ」


「エリザさん。二日酔いは大丈夫ですか?」


「あれぐらいは飲んだうちに入らないよ」


 エリザさんはあれだけの飲んでいたのにけろりとしていた。


「それで、クリストフさんは何の用事なんでしょうか?」


「さあ? 昨日の宴のあとからどうしてもジンに会わなくてはって言ったけどな」


「ふむ」


 お酒を売る話だと思っていたのだが、どうなのだろうか?


「クリストフさん」


「ああ、ジンさん。……この度はお願いがあります」


 広間でクリストフさんを見つけて話しかけると、彼は改まって俺の方を見た。


「どうか私もヴォルフ商会に加えていただけないでしょうか?」


「ヴォルフ商会に加わりたい、ですか? 理由をお聞きしても?」


 クリストフさんの意外な頼みに俺は首を傾げる。


「それはジンさんが扱う商品が私の想像の域を越えているからです。見てください。昨日の宴で提供されたカンビールという飲み物。この飲み物の容器は寸分たがわず同じものであり、金属の容器なのに酒に金属の味はしない……」


 さらにとクリストフさんはウィスキーを取り出す。


「この強い酒もそうです。このような酒精の強い酒は珍しいのに、これはさらに酒として完成されています。濁りや不純物がなく、美しい琥珀色。このような酒はどうやって造るのか見当もつきません」


 ウィスキーというか蒸留酒そのものはかなり昔からあるものらしいけど、確かにそれが完成され始めたのはあとあとになってからである。


「そして、昨日出されたこのカンヅメです。頑丈な容器に密閉された食べ物というのは、保存を目的に作られたと思うのですが、どうですか?」


「ええ。1、2年くらいなら持ちますね」


「やはりそうでしたか。もうこのような品を次々に出されては、商売人としてというよりもひとりの人間としてただただ驚くしかありません」


 クリストフさんはそう言って俺の方をじっと見ると不意に頭を下げた。


「私にこのような商品を扱わせてはくれませんか。もちろんこれを作っている職人に会わせろなどとは申しません。ただこれからはヴォルフ商会の一員として、ジンさんが扱わせる商品を真っ先に扱いたいのです!」


 クリストフさんの頼みと言うのはこういうことらしい。


「えーっと。俺としてはクリストフさんはこれまでボールペンとノートを扱ってもらって助かっているので、ヴォルフ商会に加わっていただけるならば嬉しいのですが、一応アルノルト様とニナ様、そしてリーゼの意見も聞く必要があります」


 俺は商会長とは言っても、お金を出しているのはアルノルトさんたちだし、仕事を助けてくれるリーゼのことも忘れてはならない。


 なので、ヴォルフ商会のメンバーを増やすという決断はひとりで勝手にしては、あとあと不和を呼ぶ恐れがあった。


「私はクリストフさんに加わってもらってもいいよ。クリストフさんはいい人だし、エリザさんは今回無償で戦ってくれたしね?」


 リーゼはそう言って真っ先に同意。


「じゃあ、あとはアルノルト様とニナ様に確認してみよう」


「そうだね」


 俺たちはクリストフさんとエリザさんを連れて、アルノルトさんの執務室に。


「あの、アルノルト様とお会いできますか? ヴォルフ商会のことでお尋ねしたいことがあると伝えてください」


「畏まりました」


 使用人さんに伝え、俺たちが暫く待つと執務室に通された。


「どうしたのかね、ジン君? それにクリストフ君たちも。ヴォルフ商会について尋ねたいことがあると聞いたのだが」


 アルノルトさんとニナさんは山賊を街に引き渡すための事務処理中だったらしく、机には早速使い始めているボールペンとコピー用紙がある。


「はい。今回クリストフさんが新しくヴォルフ商会に加わりたいということで、おふたりにまずは許可を得ようと思いまして」


「クリストフ君がかね? ほうほう」


 アルノルトさんはそう言ってクリストフさんの方を見る。


「私としては構わないが、ニナはどう思うかね?」


 ここでアルノルトさんは参謀であるニナさんに尋ねた。


「そうですわね。私どもとしては村を出て商品を広めてくれる人間が身内であれば安全できるという点はあります。しかし、クリストフ、あなたはヴォルフ商会に所属するより取引相手でいた方が取り分は多いのではありませんか?」


 ニナさんは自分たちにとっての利益になる話だとは思ったが、クリストフさんについては利益にならない話だと疑っている。


「ここにあるボールペンと雪のように白い紙。人生でこのような品を扱えるのは一度にあるかどうかでしょう。それがこのヴォルフ商会では継続的に扱えるばかりか、さらに価値のありそうな商品を扱っておられる。それに商人として魅せられたのです」


 クリストフさんはニナさんの懸念にそう返す。


「儲けが多少少なくとも、このような珍しい品、いやこの世にあることが不思議な品を扱わせていただくのは商売人として大きな経験となります。そして、経験とは普通金では買えないのもです」


 続けるクリストフさん。


「どうかお願いします。自分をヴォルフ商会に加えてはいただけませんか?」


 そして、再び頭を下げてお願いしていた。


「私としてはそこまでおっしゃるならば異論はありませんわ。それに決めるのはあなたですよ、ジン」


「え。自分ですか?」


「当然です。あなたこそがヴォルフ商会の商会長なのですよ?」


 ニナさんに当たり前でしょうというように言われてしまった。


「では、クリストフさん。是非とも私たちの商会に加わってください。村の外に販路を広げるのはお任せします」


「ありがとうございます! このクリストフ・ハーバー、ヴォルフ商会のために尽くすことをお約束します!」


 クリストフさんはそう言って決意を表明してくれ、こうしてヴォルフ商会にあたらしい仲間が加わったのだった。


「しかし、クリストフさん。これまで通りノートとボールペンの販売を?」


「まずはそれを堅実に。それから先ほどのカンビールやカンヅメなどが扱えればと思います。どうでしょうか?」


「そうですね。缶詰でしたら消費期限はあまり気にせずに済みますので、缶詰からでしょうか。準備しておきますよ」


「はい。それからご相談なのですが、街にも商会の支店を出店させるおつもりはありませんか?」


「支店、ですか?」


 ここでクリストフさんから変わった提案。


「ええ。営業努力が実れば、私が売り込みに行くよりも顧客から購入を求めることが増えてくるでしょう。そうなると客にグリムシュタット村まで来てもらうより、街に支店があれば販売がスムーズになります。倉庫としても使えますし」


「なるほどですね……」


 う~ん。街に支店を持つとグリムシュタット村の外での固定資産となるから面倒そうなんだよな~。そこら辺、ちゃんと管理できるかな~?


「考えておきます。場所とかいいところがあったら教えてください」


「はい! 調べておきます!」


 俺の言葉にクリストフさんはにこにこだった。


……………………

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