宴を開こう
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──宴を開こう
俺は一度日本に戻ってから、お酒を買いあさった。ビールを箱で買いあげ、そのほかにもいろいろとお酒を購入。あまりに大量に買っていくので、店の人がこれまた『この人、居酒屋でも開くんだろうか?』という目で見ていた。
つまみはどうしようかな? 宴というぐらいだからグリムシュタット城の人たちに任せていいかもしれないけれどと思いながら、一応保存のきく缶詰などを買っておいた。
それらを持っていざ異世界へ!
流石に台車に入る量でもなかったので車で運ぶ。どっさりと詰め込んだお酒は全員分に足りるはずである。
「あ! ジン! 来たね!」
「リーゼ。お祝いはまだ始まってないよね?」
「まだだよ。でも、急いで、急いで! みんな、ジンを待ってるから!」
リーゼはいつものように村はずれのリーゼの小屋とヴォルフ商会の事務所がある場所で待っていて、俺は車で彼女と合流した。
「わあっ! これ、全部お酒なの?」
「そうだよ。今日は宴だから張り切って持ってきた」
「凄いねぇ。こんなにお酒の種類があるなんて……」
リーゼはSUVの後部座席に所せましと詰め込まれたお酒を見てそう呟く。
「ところで、リーゼ。物を冷やす魔法ってある?」
「あるよ~。あ! それでお酒を冷やすの?」
「そう! 冷えた方が美味しいお酒もあるからね」
「それなら任せて! 冷やしておくよ!」
「お願いするね」
リーゼにはビールなどを冷やしてもらうことにした。
「じゃあ、アルノルトさんのところへ!」
「おー!」
俺たちはSUVを安全運転させて、アルノルトさんのお城へ。
「おおっ! 来たか、ジン君! 待っていたよ!」
「ありがとうございます、閣下」
「今日は堅苦しいのはいいから。おや、それは? それも日本の品かい?」
俺がアルノルトさんに挨拶する中、リーゼが魔法で次々に車から荷物であるお酒を運びだしていく。その様子にアルノルトさんはびっくり。
「ええ。お酒を中心にお持ちしました。どうぞご賞味ください」
「これはありがたい! ささ、君たちも城の中へ。みんなが待っているよ」
アルノルトさんにそう言われて俺は台車で、リーゼは魔法でお酒とつまみの缶詰などをお城の中に運び入れる。
「おお。来ましたね、ジン、リーゼロッテ。待っていましたよ」
「ニナ様。この度はお招きいただき感謝します」
「何を言うのです。あなた方が主役のようなものですよ。どの人間も今回の戦いで犠牲がでなかったのはあなたのおかげだと言っているのですから」
俺が頭を下げるのに、ニナさんはそう苦笑する。
「そうだよ。あのドローンってやつ、売ってくれって連中があのあとうるさかったんだからな」
「エリザさん。やっぱりそうでしたか」
「けど、売らないだろう? アルノルト様が断っていたよ」
「ええ。今は販売したあとのことに責任が持てませんから」
エリザさんは俺たちお待ちくたびれたと様子で出てきて、そのような話をしてくれた。やはりドローンの便利さや革新性を傭兵であれば理解でき、あの戦いのあとで欲しがる人がいたらしい。
だが、今はこちらの世界に出回って問題のない商品とは言えないので、お断りすることにしている。
「さあさあ。そういう話は宴の場でしましょう!」
「は、はい!」
ニナさんにそう言われて俺たちは宴が開かれる大広間に。
既に料理はいろいろと並んでおり、村の人も全員が招待されていた。この戦いを戦った傭兵や衛兵の皆さんもいるし、クリストフさんもいた。
「さあ、主役が来ましたわよ!」
「おおーっ!」
まだお酒も飲んでいないだろうに歓声が上がる大広間。
「よっ! 天使の目の旦那!」
「おかげで誰も死なずに済みましたよ!」
衛兵と傭兵たちが俺に向けて、そう声を上げる。
「て、天使の目?」
「あのドローンのことだよ、ジン。みんなからすればあれは天使が見守ってくれていたようなものだって話になってね」
俺が戸惑うのにリーゼが悪戯っぽくそう告げる。
「あはは。そう思ってもらうのが一番かもね」
今の時代にドローンの現実的な技術や価値を云々するのは難しい。天使の加護があったとでも思っておいた方が気楽でいいのだろう。
「さて! では、皆さん! お酒をいっぱい持ってきましたので、どうぞ!」
「待ちくたびれたぜ!」
俺が持ってきた缶ビールがまずはみんなの手に渡る。子供たちには別に持ってきたジュースが渡された。
「これ、どうやって開けるんだ?」
「うおっ! 中身が飛び出してきた!」
傭兵・衛兵チームは缶ビールを持っていた短剣などでこじ開けようとしたために、しゅわーっと中身のビールが溢れかえってしまっている。戦闘のときより大混乱だ。
「それはこうやって開けるんですよ」
「ふむふむ。なるほど。これは便利だな!」
俺は開け方を教えていき、全員がビールを無事に開封した。
「では、乾杯だ、諸君!」
「乾杯!」
そしてアルノルトさんがビールを注いだグラスを掲げ、全員が乾杯の声を上げた。
「ん! へえ。美味いな、このエール」
「ですね。これはまた売れそうな品物の気がしますよ」
エリザさんとクリストフさんが吟味するようにゆっくりとビールを飲んでいる。
傭兵・衛兵チームはぐびぐび飲んでいて、既に顔を真っ赤にしている人もいた。村人たちは控えめに飲みながら、料理を配って回っている。
俺とリーゼはと言うと──。
「お疲れ、リーゼ」
「ジンこそお疲れ様!」
ふたりで改めて乾杯してそこそこのペースでお酒を開けていた。
「ジンさん。どうぞこれも召し上がってください」
「ありがとうございます」
「いえいえ。ジンさんたちは村の恩人ですからね」
村人たちは俺たちにも料理を配っていて、恐らくこういうときだけのものだろうごちそうをみんなで味わった。何と途中からは豚の丸焼きまで加わったりもしてびっくり。
「ジン君。ここにあるものは?」
と、ここでアルノルトさんが台車に乗っている他のものを見つけた。
「ちょっと強いお酒です。試されますか?」
「気になるね。いいかい?」
俺は缶ビールの他にも梅酒やら日本酒やら焼酎やらウィスキーやら持ち込んでいて、まずは領主のアルノルトさんから試していた。
「ほお! これは酒精がとても強いな。ふむふむ。これはいい……」
「お父様。飲みすぎてはいけませんよ? 明日は山賊たちの引き渡しのお仕事があるんですからね?」
「あははは。すまない、ニナ」
アルノルトさんが気に入ったのはウィスキーだった。
「わあ。このお酒、甘いね。不思議な感じ~!」
「それは梅酒って言うんだよ。梅ってこっちにあるのかな……?」
「ウメ? こっちでは聞いたことはないねぇ。けど、美味しいよ!」
リーゼは梅酒をちびちび。気に入ったようだ。
「で、それであたしは山賊の頭の剣をてえいっ! とこの愛剣“隼斬り”弾き飛ばしてな! 山賊の頭は思わずこれはかなわないと後ずさりする!」
「おおっ!」
エリザさんは何やら飲みまくったのか、身振り手振りしながら臨場感ある話を村人に熱く語っている。村人たちはその話に盛り上がっていた。
「いやあ。どれも商品になりそうだ~。ああ~。もっと大きな馬車がほしい~」
クリストフさんももうへべれけ。
「ジン、改めて村を守ってくれてありがとう」
「いえいえ。お安い御用ですよ」
リーゼがそういうのに俺はぼんやりとそう返す。
かくいう俺も今日は飲みすぎた……。
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