山賊討伐作戦
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──山賊討伐作戦
山賊たちは今もドローンが上空を飛んでいることに気づいた様子はない。
山賊の数は15名程度。
対するアルノルトさんの軍は衛兵4名と傭兵5名、そしてアルノルトさん自身とエリザさんにリーゼ。俺は完全なドローン担当だし、戦えるはずもないので数に入れていない。
数では不利なアルノルトさんたちだが、どうにかなるのだろうか……。
村人から聞いていたが、山賊は元傭兵であったり、脱走兵だったりしてある程度戦闘の心得はあるようなのだ。
それでいて彼らは残忍であり、捕えたものをいたぶってから殺すのだとか……。
グリムシュタット村の治安がよかったので異世界も地球の田舎と変わりないと思っていたが、こういう話を聞くと恐ろしく感じてしまう。
だからこそ、村がそんな恐ろしい連中に襲われないように俺たちが頑張らなければならないのだと自分を励ます。
「そろそろだな……」
アルノルトさんが隊列に停止するように合図する。
「ここで待ち構える。あの獣道から敵は来るぞ。備えろ」
アルノルトさんは自らも馬を降りてそう指示し、衛兵と傭兵は弓やクロスボウを握って木の陰や茂みに隠れた。俺も見つからないように隠れながら引き続きドローンで山賊たちを追う。
リーゼも息をひそめて俺の傍に隠れている。
ドローンは確実に山賊集団を追い、そして山賊たちの足音が聞こえてきた!
「構え」
弓とクロスボウに矢がつがえられ──。
「撃て!」
山賊が姿を見せたと同時に一斉に矢が放たれる!
「わああっ!」
「クソ! 待ち伏せだ!」
山賊たちは大混乱に陥る。アルノルトさんたちは完全な奇襲に成功したのだ!
山賊たちは傭兵たちに射かけられて負傷し、そのまま逃げようとする。
「リーゼロッテ君! 逃がすな!」
ここで素早くアルノルトさんが指示を下した。それはいつものほんわかとした雰囲気はなく、しっかりした軍事指揮官としてのアルノルトさんであった。
「はいです!」
ここでリーゼの場所さえ分かれば魔法でどうにかなると言っていた意味が分かった。森の中に青白い炎が浮かび、山賊たちを取り囲んだのだ。山賊たちは炎を前に逃げることも、進むこともできず右往左往する。
しかし、その炎は木々に燃え移るようなことはない。不思議だ。
「降伏しろ! 降伏すれば命までは取らない!」
アルノルトさんが山賊に向けてそう勧告すると、山賊たちはついに諦めたのか武器を捨て始めた。
「よろしい。下手なことをすれば魔法使いがお前たちを焼き殺すからな。拘束しろ!」
アルノルトさんはそう言い、衛兵と傭兵が前に出て山賊たちを縄で拘束していった。怪我をしている山賊は一応リーゼの治療をうけて連行されてゆく。
しかし、そこで不意に山賊のひとりが懐からナイフを取り出し、捕虜を拘束していた傭兵に突然襲い掛かった!
「させんよ」
そこに剣を抜いたエリザさんが割り入り、ナイフを弾き飛ばし、山賊を取り押さえた。山賊はエリザさんに剣を突きつけられて、今度こそ観念したのか、他に隠し持っていたナイフなどを捨てた。
今回の戦いでアルノルトさんの側にも、山賊側にも死人は出なかったのが安心できたことだ。こういう荒事になれていない日本人としては誰にも死んでほしくなかった。
しかし、疑問は残る。
「あの、アルノルトさん。捕まえた山賊はこれからどうなるんでしょうか?」
「うむ。うちでは収容しておくことはできないから、他の大きな街の方に送ることになる。そこで投獄されて強制労働というところか」
「なるほど」
確かにグリムシュタット村の城の規模と衛兵の数ではこんなにたくさんの山賊は収容しておけない。他の場所に収容するというのは正しい判断だろう。
「あとはこいつらの拠点を探さなければならないな。まだまだ仲間が残っている可能性もある。ジン君、引き続き頼めるか?」
「はい」
俺は再びドローンで森の中を調べていく。
するとこの地点からさらに奥まった場所に熱源が……。
「馬が数頭、森の中にいますが……」
「それは怪しいな。見に行こう」
アルノルトさんの命令で俺たちは山賊を連行する衛兵と分かれて再度前進。
森の獣道を進んでいくと──馬が止められており、その先には洞窟が見えた。
「ははん。ここがやつらの拠点だね。中に人はいるかね?」
「調べ見ましょう」
エリザさんが尋ねるのに俺はドローンを低空飛行させて洞窟の中に飛ばす。
「あんなところにも飛んで行けるのか……」
「凄いな……」
傭兵の皆さんはドローンの活躍にご注目。
すると僅かな熱源を捉えた次の瞬間、ドローンが落ちた。
「ああ! ドローンが……。中に人がいるようですが……」
「よし。あたしたちが中を調べてくるよ」
エリザさんは剣を抜き、数名の傭兵と洞窟の中へと入っていく。
それから暫くして悲鳴と怒号が聞こえ、それが不意に静かになった。俺たちは緊張に汗を流しながらエリザさんたちが無事に出てくることを祈る。
そして、エリザさんたちが姿を見せた。
「山賊の親分を捕えた! 洞窟の中にはやつらの略奪品もある!」
エリザさんはそう高らかを宣言する。
「おお! これで安心できるな……!」
「ですね! 暫くは山賊たちもグリムシュタット村には寄らないでしょう!」
アルノルトさんとリーゼは安堵の息。
山賊の頭と名乗った男が拘束されて洞窟から連れ出され、それから数名の山賊たちが同じように連れ出された。さらに毛皮や敷物、金貨・銀貨が運びだされていくる。
「こりゃあ、随分とここで悪さしていたみたいですね」
「全くだ。きちんと取り調べてから街に送らないとな」
衛兵たちはそんな会話をしている。
「よーし! 皆のもの、村に凱旋だ!」
「おー!」
犠牲者は出ず、山賊討伐も無事完了して俺たちはグリムシュタット村へと凱旋。
グリムシュタット村につくとまず捕えた山賊たちが衛兵詰め所の地下にある監獄に閉じ込められた。それから傭兵たちがアルノルトさんから報酬を受け取っていく。
「あたしはいいよ」
エリザさんはそう言って報酬を断る。
「あたしは自主的に手伝っただけだからね。まあ、クリストフとの取引に色を付けてくれれば助かるかな?」
「分かった。そのようにしよう」
エリザさんはかなりクリストフさんと仲がいいようだ。傭兵と雇い主以上の関係を俺はそのやり取りから感じた。
「では、山賊の無事の討伐を祝って宴を開かなければな」
「あ! それでしたら自分が何か持ってきますよ」
「おお! 異世界の酒、などはあるのだろうか?」
「それはもう当然!」
「それは楽しみだ。ジン君が戻ってくるまで準備をして待っているよ」
というわけで、緊迫した山賊問題も無事に片が付き、再びグリムシュタット村に日常が戻ってきた。
俺は討伐成功を祝う宴に提供する品を持ってくるために、一度日本へ戻る。
持ってくるものはもちろんお酒だ。
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