商会の拠点を作ろう
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──商会の拠点を作ろう
ノートとボールペンを売ることに意気込みを示すクリストフさん。
「で、では、それでお願いします。銀貨10枚という値段に異論はありませんか?」
「ありません。それで仕入れてももっと高値で売ってみせますよ。ははは!」
「それは心強いです」
クリストフさんの熱気に押されて、俺はそう納得した。
「では、このノートとボールペンの初期の流通量ですが──」
それからクリストフさんたちと話し合い、最初にどれだけノートとボールペンを流通させるのかを決めた。最初は本当に3、4冊のノート、3、4本のボールペンを流通させて、市場の反応を見ることに。
「では、決まりですね。交渉成立です」
「この契約書にサインすれば決まりですよ」
交渉は決定し、リーゼが差し出した契約書にクリストフさんはサイン。
お金が支払われて、クリストフさんにノートとボールペンが渡された。
「あ。待ってください。村の周りに出没していた山賊。あれ、どうなりました?」
「ああ。それならば大丈夫そうです。衛兵の方々が周りを巡回して追い払ったと聞いております」
「ほっ……。それなら安心して送り出せます」
「あはは。ご心配おかけして申し訳ない。ただうちのエリザも精鋭なので不意さえ突かれなければそう簡単にはやられたりしませんよ」
と、ここでエリザさんが姿を見せる。
「あれ? お菓子を取引するんじゃなかったのか? なんだよ、それは?」
「これはもっといい品だよ、エリザ。見てみればその価値はすぐに分かる」
そう言ってクリストフさんはエリザさんにノートをボールペンを見せ、エリザさんもボールペンでノートに文字を記すが、他の人と違ってリアクションが薄い。
「便利そうな品だが、売れそうなのか?」
「もちろんだ。これは大金に化ける。私の商人としての勘を信じてくれ」
「分かった。あたしは支払いさえ行われていればそれでいいよ」
エリザさんは文房具に興味はなさそうだった。
「それでは我々は早速、村を発ってこの品を広めて参ります」
「健闘を祈ります、クリストフさん。またいらしてください」
「はい!」
そして、クリストフさんとエリザさんは出立した。
「さて、商会がいよいよスタートしたけど、次は何をすべきなんだろう?」
「もちろんそれは決まっているよ、ジン。商会の建物を建てるんだよ!」
「ああ! なるほど!」
今のところ、ヴォルフ商会には拠点といえる拠点がグリムシュタット城ぐらいなのである。お城の倉庫に商品は収めてあるし、今までお城で事務仕事もしてきた。
だが、いつまでもお城に居候するわけにはいかないだろう。ここは何かしらの拠点を作らなくては。
「けど、建物を建てるって結構大変ですよね……」
建築は地球でも大仕事な話だ。まして重機などがない異世界ではもっと大変だろう。
これから商会の建物を作り始めたとして完成するのはいつだろうか……。
「それなら心配いらないよ~! 私に任せておいて~!」
「そ、そう? 任せていいのか……?」
「うんうん。ちゃちゃっと作っちゃうから」
リーゼはそう軽く請け負っていたが、本当にどうにかなるのだろうか?
「じゃあ、俺は商会に必要そうな備品を調達してくるね」
「はいはい!」
ということで、俺は一度地球に戻ったのだった。
* * * *
その2日後のことである。
「ええ!? な、なんだ、これは!?」
いつものようにグリムシュタット村を訪れた俺は、いつの間にかリーゼの家の隣に知らない木造の建物が建っているのを目撃したのだ!
昨日まで本当に何もなかった場所である。そこに平屋の木造建築があった。広さほどさほど大きくないが、三角屋根のしっかりとした作りの建物だ。
「あー! ジン! 商会の拠点ができたよー!」
「リーゼ。これはどうやって……?」
俺は疑問に思ってそうリーゼに尋ねる。このグリムシュタット村の村人は総出で参加しても2日でこれだけの建物が建つはずない。
「魔法だよ。魔法を使えばあっという間だからね」
「そうなのか。見てみたかったな、これを建てる様子……」
リーゼが自慢げに言うのに俺は改めてリーゼが準備した商会の拠点を見て感嘆の息を吐いたのだった。
「さてさて! こうしてジンも来たことだし、アルノルト様とニナ様も呼んで開所を祝わないとね! 準備しよう、ジン!」
「おう!」
俺は買ってきた様々な品を紹介の拠点に設置する。
SUVで充電可能な非常用バッテリーを置いてから、事務机を設置し、プリンターやノートパソコンを置く。それからこれだけだと薄暗いので、買ってきたLEDライトの照明を取り付けた。これでかなり明るくなったぞ。
「おおー! 明るいね!」
「だろ? 電気の力ってすげーってわけさ」
部屋が照らされるのにリーゼも大満足。
それから応接用のソファーとテーブルを置けば、とりあえず完成だ。
「あ。それを置くのは手伝うよ~」
「でも、これは重いよ、リーゼ」
「任せて!」
リーゼは俺がSUVに乗せて運んできたソファーに向けて指を振ると──。
「おおっ!?」
ソファーがふわりと浮かび上がり、そのまま商会の建物の中へ。
こ、これも魔法か! 確かにこれがあればすぐに建物だって作れるのかも……!
さて、そんなこんなで家具と備品の設置が完了。
「できた! これで事務所らしくなったな!」
「うんうん。ここからヴォルフ商会が始まるんだねぇ」
俺は満足し、リーゼも感慨深げにしている。
「では、アルノルト様とニナ様をお呼びしよう」
それからお城に使いが出されて、アルノルトさんとニナさんが馬車でやってきた。
「おおお! これは……!」
「室内だというのにとても明るいですね!」
アルノルトさんとニナさんは照明に驚いたようだ。
「どうぞおかけください」
「ふむふむ。この椅子も座り心地がいい。ジン君、これも異世界の品なのかね?」
アルノルトさんはソファーが気に入ったらしい。今までの椅子と言うと木製のシンプルなそればかりだったからね。
「はい。異世界というか、日本の家具です」
「私たちでも買える値段ならば、城にひとつ置きたいから注文したいのだが……」
「もちろん大丈夫ですよ。あとで発注しておきます」
「助かるよ」
ソファーはそこまでの高級品ではなく、一般家庭に置かれるようなものだ。これで満足してもらえるならば、あとでネットで注文しておこう。
「それでは改めまして。こうして皆さんのおかげでヴォルフ商会の事務所の開所でき、いよいよ商会としての活動が本格化します」
俺はアルノルトたちに紅茶とお茶菓子を出して、記念の挨拶をする。
「これからも皆さんがご協力していただければ幸いです。ヴォルフ商会とグリムシュタット村が大きく発展しますことを祈っております」
「おおー!」
そして、リーゼたちからぱちぱちと拍手を受ける。
「うむうむ。このヴォルフ商会がグリムシュタット村の大きな目玉になるといいな」
「そうですわね、お父様。きっとうまくいきますわ」
アルノルトさんとニナさんはそう言って微笑む。
「頑張ろうね、ジン!」
「ああ。これからよろしくね、リーゼ」
こうしてヴォルフ商会の活動が本格化したのだった。
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