驚きの白さと薄さ
……………………
──驚きの白さと薄さ
俺がアルノルトさんに呼ばれたのは、クリストフさんとエリザさんが村を訪れた、その日の夕方のことだった。
リーゼの家でお茶を楽しんでいたら、衛兵が俺たちを呼びに来たのだ。
「何だろうね?」
「う~ん? クリストフさんたちのことで相談かなぁ?」
俺たちは首を傾げながら、徒歩でお城に向かった。SUVはドライブも終わったので、もう地球の方に戻してしまっていたからだ。
お城につくと使用人さんが急いで出迎えに来て、俺たちは応接間に通される。
「やあ、ジン君。急に呼び出してすまない。君に相談があるんだ」
応接間にはアルノルトさんの他にニナさんもいた。
「どうされましたか?」
「うん。まず君に報告すべきことをしておこう」
アルノルトさんはそう言ってお菓子が順調に売れていることを教えてくれた。俺が地球から持ち込んだお菓子は何と王族までもが欲しがる品になっているとか。
「なんとまあ。凄いじゃないですか!」
俺だけだったら決してこうはいかなかっただろう。俺の初期の発想では駄菓子屋レベルのそれだったのだから。
「うん。そうなんだが、そんな状況のときに交易商が来てね。彼らも最初はお菓子の取引を希望したのだが……つり上がった値段についていけない様子だった」
「ああ。では、求めているのは手軽な価格の商品というところですか?」
「そう。あまり高すぎず、だからと言って安すぎず。そういう品はないかな?」
アルノルトさんはそう俺に頼み込んできた。
「う~ん。ちょっと向こうに戻って考えてみます。きっと何かいいものがあるでしょうからご安心ください」
「ありがとう。君には助けられるよ」
アルノルトさんは貴族だが、物腰が低く丁寧だ。
「ジン。アルノルト様とニナ様にも紅茶を紹介しませんか?」
「ん。そうでした。これは安い品というわけではないですが、お世話になっているおふたりにご紹介を」
俺はそれからリーゼと紅茶を入れて、アルノルトさんとニナさんに差し出した。添えるのはお茶菓子のクッキーだ。
「これは……! 何と香しいのでしょう……。素晴らしいものですわ……。このお菓子との相性もばっちりで……」
「これはまた貴族に喜ばれそうだね……」
「ええ。間違いありませんわ、お父様」
アルノルトさんとニナさんはご満悦といった様子だ。
「私は最近ジンとお茶会というのをやっているのですよ。こうしてお茶を味わいながら、お菓子を食べ、雑談をする場で。そういう文化も広げれば、紅茶は売れるのではないでしょうか?」
「そうですわね。貴族同士のお喋りの場には今は大抵ワインでしたが、紅茶と言うのは新しくて流行りもの好きな貴族が飛びつきそうですわ」
そして、そこでニナさんが俺たちの方をにやりと笑ってみる。
「しかし、もうリーゼロッテとジンは親しく呼び合う仲なのですね? 随分と仲良くなったのですね」
「えへへ。それはもう」
ニナさんが指摘するのにリーゼが照れたように頬を紅潮させる。
「え、ええ。リーゼは祖父の恩人でもありますからね。それにいろいろと……」
俺もド直球で指摘されると照れざるをえなかった。
リーゼは俺の祖父の恩人でもあるし、15億円の恩人でもあるし、肝臓が健康に戻った恩人でもある。つまり、俺にとってはもの凄い恩人であり……何より密かに想いを寄せている人だ。
「紅茶というものもできれば買い取りたいと思います。ですが、その前に手ごろな価格で取引で来そうな品があれば是非ともお願いしますね、ジン」
「はい。探してまいります」
さて、こう約束した以上は何か探してこなくてはいけないが……。
果たしてどんな品が喜ばれるだろうか?
* * * *
俺は次の日、市内にある百均ショップを訪れていた。
手ごろな価格で異世界でも喜ばれる品となるとここで探すが一番な気がしたのだ。
「いろいろあるけど……」
スマホカバーや排水溝ネットなんて異世界では無用の品だしな。意外に地球では必要だけど異世界にはいらないという品がある。
「ん? そうだ! これだ!」
俺はそこでぴったりの品を発見した。
それは──。
「リーゼ。これ、どう思う?」
「これは……本なのかな……?」
次の日、俺は買ってきな品をリーゼに見せると、彼女は手に取って首を傾げる。
「違う、違う。これはノートだよ!」
そう、俺が買ってきたのは地球の安いノートだ。
「なんとーっ! ほほう! これはまた凄いものを持ってきたね、ジン! 凄く白いし、もの凄く薄いじゃないか!」
昔読んだラノベで紙を作る話があった。中身は今ではあんまり覚えてないけど、異世界みたいな昔の技術で紙を作るってのはかなり大変らしい。
それが100円で買えて持ってこれるなら、安くて喜ばれるだろう!
「羊皮紙に比べると使いやすいはずなんだけど、試してみてくれる?」
羊皮紙はその名の通り動物の皮で作られた紙だ。厳密には紙ではないそうだが、用途としては紙である。
「ええ。何か書いてみるね」
リーゼは羽ペンを取ってすらすらと文字をノートに記す。
「おおーっ! 書きやすいし、染みたりしないね! これはいいものです!」
リーゼはノートの裏側などを見ながらご満悦。
「このノートは100円──銀貨1枚にも満たない値段だから、クリストフさんたちに扱ってもらっても大丈夫だと思うんだけど、どうかな? こっちで需要はありそう?」
「ええ、ええ。これは実にいいと思うよ。これなら貴族だけではなく、お金のある商人たちも欲しがるだろうしね!」
俺の質問にリーゼは大いに同意してくれた。
「そっか、そっか。よーし、じゃあニナさんたちにこれを見せに行こう」
リーゼのお墨付きを得たところで俺たちはノートを見せにお城へ向かう。で、今日は車でお城へ向かうことに。というのも、アルノルトさんから『クルマというものを見せてくれ』と頼まれていたからだ。
何でもアルノルトさんたちは車の存在はクリストフさんから聞かされて初めて知ったらしく、自分が把握していないものがあるのはちょっと困るということであった。
確かに道交法もないグリムシュタット村で自動車を好き勝手に乗り回すのは問題だろうし、施政者であるアルノルトさんの許可を貰っておこう。
「おお! これがクルマという乗り物か!」
そして、お城につくと今日はアルノルトさんとニナさんが待っていた。
「何とも不思議な……。どうやって動いているのでしょうか?」
「う~む。この乗り物の中に何か仕組みがあるのではないか?」
ニナさんとアルノルトさんはそう言って車を眺めて考えて混んでいた。
「あの、アルノルト様、ニナ様。頼まれていたものをお持ちしましたよ」
「お、おお。すまないね、ジン君。さあ、それについては城の中で話そうではないか」
「はい」
俺とリーゼはノートの束を持ってアルノルトさんとニナさんに続き城の中へ。
実はノート以外にも売れそうな品は持ってきているのだが、今は内緒だ。
……………………
面白いと思っていただけたら評価ポイントやブックマークでの応援お願いします!