表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/44

イン・ザ・ココア・サン・クッキー

 巨大(きょだい)岩石ココア・サン・クッキーにあいた(あな)を通過し、ピック・ロナ・ゼライド・クエン・ヤマメの五人は内部に(はい)()んだ。


 穴のなかは、サン・クッキーの岩石で作られた洞窟(どうくつ)だった。


 現状(げんじょう)、空気は重い。

 (はい)と胃が、もたれそうになる。


 洞窟内(どうくつない)(ただよ)うガスは無味(むみ)……いや、さまざまな味が()ざっている。

 そのため、とくに(ひと)つの味を認識できない。



 そして今、洞窟(どうくつ)()暗闇(くらやみ)である。


 ただし――ここは、すべてがサン・クッキー。

 まわりの岩石の適当な箇所(かしょ)をたたいたり()ったりすれば……しばらくのあいだ、そこが熱を()びて点灯(てんとう)する。


♢♢♢


 五人は洞窟(どうくつ)を少し進んだのち――。

 まあまあ広い部屋(へや)に出る。


 青の空域(くういき)でゼライドの仲間のハンガームーンの面々(めんめん)が、パイなどを無償(むしょう)配布していた体育館……それと同じくらいのサイズだ。


 部屋には複数の椅子(いす)(ひと)つの大きなテーブルがあった。

 ココア・サン・クッキーの岩石を(けず)って作られたもののようで、移動させることはできない。


 各自(かくじ)はテーブルの前の椅子に(すわ)る。

 座面(ざめん)()して光らせたあと、テーブルを手の(ひら)でたたく。


 すると五人それぞれの目の前にあかりがともった。


「では今後の計画を立てましょう」


 金髪(きんぱつ)(おく)()をなでながら、ロナが話の口火(くちび)を切る。


「晴れてわたしたちは、ココア・サン・クッキーの内部に突入(とつにゅう)できました。これも、みなさんのおかげです。心の底より感謝します」


「こっちこそだぜ、ロナちゃん」


 ゼライドが照れくさそうに反応する。


「いろんな体験を()()()()()()()(おれ)もみんなに感謝したい」


「いや、あたしとクエンおじさまは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」


 ヤマメがテーブルに片肘(かたひじ)をつき、ロナを見る。


「確かに、一緒(いっしょ)(たび)するうちに(じょう)()いたよ。でも私情(しじょう)で手をひっこめたりしないかんね?」


「まあ、ヤマメちゃんたちは……それでいいよ」


 ロナは、たじろぐ様子を見せない。


「ともあれ、()()()()()()()たされていません。なんとしても、ココアそのものを固定する『ハンガームーン』を見つけます。ただ……ここまで来ておいて()()ですが……具体的にハンガームーンがココア・サン・クッキーのどこにあるのか――()てが、ないんですよね」


「でかいクギ(がた)鉱物(こうぶつ)を探したらいいんじゃねえの?」


 ゼライドが藍色(あいいろ)(かみ)()らし、やや猫背(ねこぜ)になる。


「ほら、()()()()()()(そう)じて()()()()()()()()細長(ほそなが)くて、片方(かたほう)がぷっくりしていて、もう片方が先細(さきぼそ)りで。……そんでさ、ハンガームーンは(ちょう)巨大(きょだい)なココア・サン・クッキ―を固定するほどなんだから――()()()()()()()()()。つまり、めっちゃ大きいクギを見つければ、それがハンガームーンってことになりそうだよな」


「……ゼライドさんの()うとおりだと思います。そしてハンガームーンがココアの岩石(ない)にあるとすれば、どうやってそこまで到達(とうたつ)するかが問題ですね。不当な掘削(くっさく)は、できませんし。目星(めぼし)が付かない以上、今はココアという岩石の中央に向かって進むのがいいとわたしは考えていますが……」


 ……ロナは考え込む。


 ここでクエンが(くち)をひらく。


「とぼけていませんか」


 現在のクエンは単眼鏡(たんがんきょう)をしまっている。

 (かれ)裸眼(らがん)で、ロナを()すくめる視線を(はな)つ。


立場(たちば)(じょう)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 沈黙(ちんもく)する彼女(かのじょ)に対して、クエンは淡々(たんたん)と続ける。


「お(とう)さんに使命を(たく)されたあなたは……ピックさんやゼライドくんを(たよ)りました。しかし、いくら(てき)がいるとしても政府に知らせないのは、やはり不自然(ふしぜん)。ロナさんの持つ情報は、それほどのものです。本来なら、一番(いちばん)権力(けんりょく)集団に()きつくべき問題と言えるでしょう」


 クエンは……「巨大隕石(いんせき)」や「人類滅亡(めつぼう)の可能性」といった肝心(かんじん)な部分を(かく)しつつ、話を進める。

 ロナだけでなく、ゼライドやピックの顔にも視線を投げる。


「現実にロナさんは、政府に情報を持ち()まなかった。つまり、そうせずとも余裕(よゆう)勝算(しょうさん)があったということ。(てき)(たよ)状況(じょうきょう)にまで追い込まれていなかったということ……だから、ピックさんという腕利(うでき)きの採鉱師マイナーに仕事を依頼(いらい)するだけで済んだのでは?」


「……その余裕と勝算の根拠(こんきょ)として、わたしがハンガームーン探索(たんさく)の方法を持っている可能性が高いとクエンさんは思っているわけですね」


「そろそろ、核心(かくしん)にふれない範囲(はんい)でロナさんの立場を明らかにされても、いいのでは? (ぼく)もヤマメも、あなたの出自(しゅつじ)は知っていますが……ピックさんとゼライドくんは別です」


「言われてみれば、仕事も佳境(かきょう)(はい)るのに、必要以上の(かく)(ごと)は関係にヒビを()れるだけですね……」


 ロナはクエンを見て、目を細める。

 ピックとゼライドのほうにも視線を送る。


「わかりました……。明かせる範囲で話します。()み込みすぎたら、クエンさん……()っていいです」


「無理しないでいいんだからな、ロナちゃん」


 心配そうにするゼライド。

 (かれ)の表情へとロナは(やわ)らかく返答する。


「情報の開示(かいじ)は……ゼライドさんとピックさんに対する信頼(しんらい)のあかしと考えてください」


 椅子(いす)から(こし)を上げ、ロナは立つ。


「――わたしは、あるものの動きを予言する一族(いちぞく)に産まれました」


 彼女(かのじょ)()う「あるもの」とは「星」のこと……。

 だがそこまで明かせば、「巨大(きょだい)隕石(いんせき)」にまでピックたちの考えが(いた)るかもしれないので……()せる。


大昔(おおむかし)、うちの一族は政府に(つか)えていました。しかし政府にとって都合の悪い予言をした者が政府自体に消されて以降、決別しました。政府は、うちの一族(いちぞく)と敵対する暗殺一族(いちぞく)をかかえています。わたしにとっては協力もしたくない……信用できない(てき)なんです」


 ここでロナは言葉を切り、深呼吸(しんこきゅう)して室内の空気を取り込んだ。


「だから政府とは関係ない人に極力(きょくりょく)(たよ)りたかった」


 ひとりごとのようにつぶやいたのち、彼女は続ける。


「ともかく、わたしは父から『情報』と『使命』を受け取りました。『情報』のほうを言ったらクエンさんに殺されますから、こちらは依然(いぜん)として秘密(ひみつ)ですが――『使命』はご(ぞん)じのとおり、ハンガームーンを見つけることです……!」


「ちょっといいか、ロナちゃん」


 小さく手を()げるゼライドに対して、ロナは「どうぞ」と(うなが)す。


「ごめんな、話の(こし)を折って。でも、なんか理解できないんだ。だって普通(ふつう)に考えて『情報』や『使命』を(たく)したお父さんや一族(いちぞく)のみんなと協力するのが、ロナちゃんにとって最善だろ……? なんでロナちゃんは一族(いちぞく)じゃなくて(おれ)らと旅をしようと思ったんだ?」


「みんな死んだからです」


「まさか殺され……?」


「いいえ。わたしを(のぞ)く全員が自死(じし)しました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ