表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/44

死なないための

「――わたしたちも意地悪(いじわる)で言っているのではありません」


 ココア・サン・クッキーの()(ぐち)関所(せきしょ)を守る門番二人が、はきはきとした声を出す。


中途半端(ちゅうとはんぱ)実力(じつりょく)でココア内部に(はい)れば、普通(ふつう)は死にます。この関所をくぐった(さき)のガス・ホイップは、それほどに厄介(やっかい)です。ゆえに試験をおこない……(ちから)なき者をはじくのです」


 ついで門番は、ロナたち一行(いっこう)を別室に連れていく。


♢♢♢


 ロナ、ピック、ゼライド、クエン、ヤマメが連れていかれたのは――。


 明るい光で照らされた、(うす)い灰色の部屋だった。

 正三角形のアース・パイ四枚を組み合わせた、正四面体(せいしめんたい)のかたちである。


 この立体のそれぞれの辺にサン・クッキーがうめ()まれ、発光しているようだ。


「これからあなたがたには、この部屋に()()()()()()もってもらいます」


 門番の男女は交互(こうご)(くち)をひらき、試験の説明をおこなう。


「そのあいだ、正四面体(せいしめんたい)の四つの頂点からガス・ホイップが出現し続けます。種類は、ココア内部に生息する代表的なもの。……ようは、そのホイップたちをすべて処理(しょり)してくださいって話です。ただし、(だれ)一人(ひとり)でも落命(らくめい)しそうになった場合は、わたしたちが助けます。()()()()()()()()()


「すいませーん……」


 ここでヤマメが手を()げて質問する。


「死にそうになったヤツが落ちるのはわかるけど、なんでそいつのせいで全員が巻き()えになるんですかね」


「全員で生き残る準備もせず仲間をほいほい死地(しち)に送る者は、たとえ自分が生き()びることができてもドクズでしかありません。()げ道の多いココア内部に、そんな危険な人物を(はな)つわけには、いきません」


 そう淡々(たんたん)(くち)にした門番は、正四面体の一面(いちめん)(もう)けられた三角形の(とびら)をひらき、部屋の(そと)に出た。


 扉を少しあけた状態で、(そと)から五人に注意点を伝える。


「どなたかが、この扉をあけてもアウトです……。では、扉を閉めて百秒後にスタートですので、できるものなら、ごゆっくり」


 直後、(ゆる)やかに扉が閉じる。


 正四面体(せいしめんたい)の部屋に残されたロナは、まずヤマメとクエンに声をかけた。


「わかっているとは思いますけど、わたしをココア・サン・クッキー内部に(はい)らせないために、わざと失格になるようなマネは……」


「しませんよ」


 ハンドガンと単眼鏡(たんがんきょう)上着(うわぎ)から取り出しつつ、クエンが断言する。


「ゴールに着くまで旅を妨害(ぼうがい)しないと約束していますから」


「あたしもクエンおじさまと同じ立場ね」


 ヤマメが、(みどり)鎖鎌(くさりがま)(かま)える。


「……あと、ロナ。この場ではあんたがリーダーみたいなものだから、そんなにビクビクすることないって。ロナはゼライドくんを(やと)うピックくんの……(やと)(ぬし)にしてお客さまなんでしょ? そんで、あたしとおじさまは……あんたをしばらく監視(かんし)してるだけだし」


 かなりの早口(はやくち)で言いきった。

 そしてヤマメが、声の速さを通常のものに(もど)す。


「そういうわけでロナちゃんさあ……『立ち位置』はどうすんの。この部屋の正四面体を構成するアース・パイは四枚。それぞれのゆかに一人(ひとり)ずつ立ったら、五ひく四で一人(ひとり)(あま)るよね。その人には()(なか)()いてもらうのが、いいんじゃない? ハンガーを使ってさ」


「……うん、全体を見通(みとお)し、状況(じょうきょう)(おう)じて攻撃(こうげき)や指示をおこなえる人が適任だろうね」


 ヤマメにそう伝えたあと、ロナは赤毛の青年に目を向ける。


「その役目を、ピックおじさんにお願いしたいと思います。()()()()()()()()()()()()()()()()()()適宜(てきぎ)、スクイードで味方の攻撃を支援(しえん)し、必要なら回避(かいひ)などの指示も出してもらえますか」


「はい」


 返事をしたピックは、赤いブーメラン・オクトパスを(ほう)り投げた。


 それに二本の足を乗せ、内蔵されたハンガーを刺激(しげき)……。

 正四面体(せいしめんたい)の中心で停止する。


 白いブーメラン・スクイードを軽く飛ばしつつ、足もとのオクトパスをさまざまな方向にかたむける。


 一方(いっぽう)……ロナ、ゼライド、クエン、ヤマメは正四面体を構成する四つのアース・パイに直立(ちょくりつ)した。


 正三角形のパイ一枚(いちまい)につき、一人(ひとり)が立つ。


 四枚のパイが、それぞれに重力を働かせる。

 よって四人の(あたま)が、部屋の空中に()くピックに向けられる。


 なお、(とびら)が設置されているアース・パイの(めん)はゼライドが担当(たんとう)する。

 ゼライドは、ゆかの扉をガスのクッションで固め、(あやま)ってひらいてしまわないよう対策(たいさく)してくれた。


 正四面体(せいしめんたい)(かく)頂点から空気が送り()まれているので、呼吸(こきゅう)支障(ししょう)はない……。


 (ちゅう)(からだ)を回転させながら、ピックが静かに伝える。


(たが)いが互いを助けることになると予想されますが、いちいちお礼や謝罪は言わないようにしましょう。挨拶(あいさつ)最中(さいちゅう)をねらわれて死んでは意味がありませんし……。ともあれ、試験開始のようですね……」


 ピックが言葉を切ると共に、室内に小気味(こきみ)いい(おと)(ひび)く。

 ちょうどそのとき、部屋の四つの頂点からガス・ホイップが排出(はいしゅつ)されたのだ。


 シーラカンス(がた)のホイップ(けい)四体が、(こと)なる頂点から一体(いったい)ずつ……茶色のガスを噴出(ふんしゅつ)させながら姿を(あらわ)した。


 ……それぞれ(ちが)うパイに立つ四人は、全員が(ちが)う頂点のほうを向いていた。

 各自(かくじ)正面(しょうめん)(てき)に専念する作戦だ。


 風車(かざぐるま)と野球ボール(だい)の石……スプレー(かん)のガスボンベ二つ……単眼鏡(たんがんきょう)とハンドガン……(みどり)鎖鎌(くさりがま)……めいめいの得物(えもの)がうなりを上げてガス・ホイップに(せま)る。


 が、シーラカンス型は(みょう)素早(すばや)かった。

 (からだ)(やわ)らかく曲げ、悠々(ゆうゆう)と身をひるがえす。


 結果、クエン以外の三人が攻撃(こうげき)(はず)した。

 しかも四つの(かく)頂点から、十秒もたたずに新たなガス・ホイップが現れる。


 今度(こんど)はアンモナイト型である。

 やはり、(ひと)つの頂点につき一体(いったい)が出現する。


 巻き貝のような(から)防御(ぼうぎょ)しながら、複数の触手(しょくしゅ)()ばしてくる。


「――ロナさん、()がってください!」


 頭上からピックの声を聞いたロナは、ゆかを()って後退する。


 瞬間(しゅんかん)

 ロナの目の前のシーラカンス型ホイップを、白いブーメランが破裂(はれつ)させた。


 ついでピックは、ゼライドにも「()がるように」と指示を出した。

 フリスビーをぶつけて白いブーメラン・スクイードの軌道(きどう)を変え、ゼライドを(おそ)おうとしていたシーラカンス型をも爆発(ばくはつ)させる。


 なおヤマメは……クエンに(おく)れて、単独(たんどく)でシーラカンス型を(かま)撃破(げきは)したところだった。


 そしてアンモナイト型に続き――。

 大量の小型(こがた)イワシのガス・ホイップまでもが室内に出現する。

 イワシ型に関しては一体(いったい)ずつではなく、四つの各頂点から数えきれないほど飛び出している。


「――ゼライドさん!」


 ピックが声を(あら)らげる。


「あなたが担当(たんとう)する頂点はわたしが引き受けますので、大量の(てき)対抗(たいこう)できるホイップを出して四方(しほう)()らしてください!」


「いいよ、ピックくん!」


 うなずきつつゼライドは両手のボンベのダイヤルを回して、ガスを噴射(ふんしゃ)


 そこから出てきたのは、ピラニアだった。

 無の空域の沼地(ぬまち)にいたピラニア型のガス・ホイップである。


 これを自分のまわりに、次々(つぎつぎ)と出現させる。


「さすがにイワシの(かず)には匹敵(ひってき)しないが、四百匹(よんひゃっぴき)ほど出して、各頂点に百匹(ひゃっぴき)ずつ送る!」


 室内の全員に聞こえる声でゼライドがさけぶ。

 しかしゼライドに、アンモナイトのホイップが接近する。


 ピックは手もとに帰ってきたスクイードを、次から次へと出現するイワシのガス・ホイップに向かって投げている。

 イワシ型のガスは容易(ようい)にはじけるものの、(かず)(ちが)いすぎる……。


 それでもピックは、ひるまずにフリスビーをも飛ばして……ゼライドに(せま)るアンモナイト型をけん(せい)した。


 ――と同時に。

 ゼライドの(なな)め後ろから、カマキリの(うで)に似た(みどり)(かま)が飛んできた。


「あたしの鎌、二つなんで! サポートできるなら(よこ)やりも()れるよ!」


 鎌を飛ばしたのは、ゼライドとは(ちが)(めん)に立つヤマメ。

 その鎖鎌(くさりがま)「カマキリ」とピックのフリスビーに挟撃(きょうげき)されたアンモナイト型は爆発(ばくはつ)


 ヤマメはすぐに(くさり)()()って(かま)を回収する。


 その(もど)(いきお)いを利用して――。

 ヤマメ自身の前を(ただよ)っていたアンモナイト型に鎌を直撃(ちょくげき)させ……その(てき)粉砕(ふんさい)した。


 ここで、ゼライドが大声を上げる。


(おれ)も、(かず)がそろったから飛ばす!」


 (かれ)のまわりには、四百匹のピラニア型ガス・ホイップが渦巻(うずま)くように飛んでいた。


 ゼライドは首を大きく回し、正四面体(せいしめんたい)の四つの頂点めがけてボンベから無色のガスを噴出(ふんしゅつ)させた。


 ロナのもとにも、それは来た。

 すっぱいにおいが鼻孔(びこう)をなでた。


 この酸味(さんみ)()ざった臭気(しゅうき)に引き寄せられるように……ピラニア型の()れが百匹ずつに分かれて、各頂点に移動する。


 四つのアース・パイそれぞれの重力に身を任せた(けい)四百のピラニアたちが、各頂点から()き続けるイワシ型のホイップの大群(たいぐん)(おそ)いかかる。


 ピラニア型は()()せたり背後に(まわ)()んだりして(てき)をかみ、イワシ型ガス・ホイップを霧散(むさん)させていく。


 一方、まだ生き残っていたアンモナイト型の一体(いったい)がロナに触手(しょくしゅ)()ばしてきた。


 が、すぐにそれは(しず)んだ。


 上方(じょうほう)から二発(にはつ)銃弾(じゅうだん)が落ちたのだ。


 アンモナイト型の(から)にヒビが(はい)った。

 イカのような弾力(だんりょく)を持つ部分が歪曲(わいきょく)し、はじけ飛んだ。


 ハンドガンを持つクエンが、ロナを助けたようだ。

 ロナは心のなかで礼を言いつつ、得物(えもの)風車(かざぐるま)蹴飛(けと)ばした。


 その羽根(はね)でアンモナイト型を切り()く。


(……クエンさんもゼライドさんもヤマメちゃんもピックおじさんも、(だれ)かのサポートをしながら戦闘(せんとう)をこなしてる。わたしもみんなを助けたいけど、今は変な欲を出さずに自分の担当箇所(かしょ)に集中することが肝要(かんよう)……!)


 自分の立つアース・パイの一面(いちめん)()()め、ロナは目の前の(ひと)つの頂点に視線を向ける。


 ゼライドの送ったピラニア型の動きを阻害(そがい)しないように注意しながら……。

 イワシ型の大群(たいぐん)と、あとから現れたガス・ホイップたちに、野球ボール(だい)の石を投げ当てる。


♢♢♢


 こうして、正四面体(せいしめんたい)の部屋の四つの(めん)それぞれに立つ四人と、中央に()一人(ひとり)は――。


 その「立ち位置」を守りつつ、なかば乱戦(らんせん)とも言える状況(じょうきょう)着実(ちゃくじつ)に切り()けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ