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とある魔法学校の最強聖女  作者: あしなが
フリューゲル潜入編
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売られた喧嘩




「しばらくは療養に専念するとお聞きしていたのに……!」

「先生、ごきげんよう。思ったよりも回復が早かったので、戻ってきてしまいました」


 うふっと微笑む。周囲の人間は皆、顔を見合わせて「アリア・マグライアがあんな風に笑うか?」とざわついていた。笑うだろ!


『思っていたよりも、あなたは他人に成りすますのが下手くそみたいですね』


 フェンリルまで何か言っている。


 こいつ、さっきから……。


 後で窓から放り出してやる。


「そ、そうだったんですか……いやあ、それならよかった。マグライアさんがあんなことに巻き込まれてから、本当に心配だったんですよ」

「あんなこと?」


 訊ね返したつもりだったのに、聞こえていなかったのか。


「とにかくマグライアさんが戻ってきて今日はよき日となりそうですね。さあ、授業を始めましょうか」


 ユーリッヒ・ペカドが頭を掻きながら続けた。


 猫目ボブ女は『命拾いしたわね』と言いたげに、取り巻きと共に離れていく。


「…………」


 アリア……私の前ではいつも笑っていたのに。


 確かに、共に過ごした時間はそれほど多くないが、それにしたって『私の知っているアリア』と『フリューゲルに通っていたアリア』とでは違いがありすぎる。


 何とも言えない気持ちになりながら、すとん、と腰を下ろせば、「さて、それでは皆さん」とユーリッヒが教室を見回した。


「本日はグラウンドにて、魔法実技に伴った魔力学のテストを行います。合同授業となるので時間はかかると思いますが、同じ学び舎で過ごす者同士、他の人たちが一体どのような方法で魔力を調整し、使用しているのか。その目で見ることも、また一つの勉強です。ぜひ確かめてみてください」


 にこやかに提案するユーリッヒに、「先生、質問です」と手を上げるのは猫目ボブ女だ。やたらと出しゃばる娘だ。


「そのようなテストをするのはもちろん構いませんが、中には魔法が使えない生徒がいますよね」


 こちらを蔑むような目でちらりと見て、言葉を続ける。


「その場合はどうするのでしょう? その方は見学になるのでしょうか」

「そうですね、魔力の出力方法についてわからないという生徒は、いつも通り、見て感じたことをレポートという形で提出していただきたいと……」

「ユーリッヒ先生」


 ユーリッヒの言葉を遮り、猫目ボブは立ち上がる。


「この際だからはっきり言わせていただきますが、名門の魔法学校であるフリューゲルで、魔法が使えない生徒が、ただの人でもできるようなレポートを書いて、点数を稼ぐのはいかがなものでしょうか」

「えっと、それはどういう……」

「だってそうでしょう? ろくに魔法も使えないのに、他の生徒たちと同じ評価を受けているだなんて、それこそ本当に努力している生徒に失礼だとは思いませんか?」


「全くその通りよ」「私たちだって努力しているのに」と続くこそこそ話。私の耳にわざと届くように話している。


「フリューゲルに通う魔法師の卵というだけで立派な肩書をもらっているのに……無能であることを恥ずかしく思ってほしいです」


 私を軽く振り返って鼻で笑う、猫目ボブ。……またもアリアを無能と言ったな。


「ですが、そうなってしまうと平等な評価が……」

「平等な評価とは、同じことをして初めてできるものではないでしょうか? だからそういった生徒方も、私たちと同じ魔法学で評価してもらいたいのです」


「そうですよ、先生。正当な評価をしてください」「私達だって必死なんですよ」と続く彼女たちに、ユーリッヒは困った顔をして「そうは言いますが、評価形式は僕の一存では……」と頬を掻いていた。


 ああ、なんだ。どいつもこいつも。


「……先生、わたくしからもよろしいでしょうか」


 そんな騒がしい教室の中、私が手を上げると教室が静かになった。


 ユーリッヒが丸眼鏡をかけ直しながら「は、はい。なんでしょうか、マグライアさん」と続ける。


「私も、そこの猫目……いえ、そちらの方の言うことは一理あると思っています」


 猫目ボブが私を見て、不可解そうに眉根を寄せる。その顔ににっこりと微笑んだ。


「もちろん。困っている方もいるでしょうから、評価形式自体は廃止にしなくてもいいとは思いますが、どちらかと言えば私もレポートはいらない派です」


 長々と文字を書くなんて、それこそ面倒だ。


「えっ……」


 はっきり告げた私に驚くユーリッヒと、「なんですって」と猫目ボブが目を見張る。


「頭を打っておかしくなったんじゃない?」

「自分が魔法を使えないことを忘れたのかしら?」


 ざわざわと訝しむ彼らを横目で見ながら、「で、ですがマグライアさん、あなたは」と動揺しているユーリッヒに「お気になさらないで、先生」と優雅に微笑んでみせる。


「その内、不要だということがわかるはずですわ」


 笑顔の私を、猫目ボブも、ユーリッヒも、少し離れた場所にいるアステルも、クラスメイトたちみんなが戸惑った顔で見ていた。今に見てろ、お前たち。


 アリア・マグライアがどれほど凄い女か。


 私がとことん証明してやる。


『彼女が凄いと言うよりも、ヘスティア様がただ凄いということが証明されるだけでは?』

『うるさい。魔獣のふりをするなら黙って見てろ』


 首根っこを掴んで、無理矢理膝の上に寝かせると、フェンリルは「んにゃ!」と不満そうな声を上げた。


『っ、もう少し優しく掴んでくださいよ!』

『だいたい、馬鹿にされたままで終われるか。アリアは私の友人なのだ』

『聞いてますか?』


 フェンリルを撫でながら、『絶対にアリアを認めさせてやる』と告げれば、腕の中でそいつは首振っていた。


『……全く、大変なことになっても知りませんよ』






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