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とある魔法学校の最強聖女  作者: あしなが
フリューゲル潜入編
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学園でのアリア





 室内を見回す。楕円を描くように、机と椅子が並んでいる。段床式の講義室か、これなら指定の席はなさそうだな。


 適当にどこか座るか、と歩き出したその瞬間、「……本当に生きてたの?」と近くの女子生徒が呟いた。


「本物? 幽霊じゃなく?」

「だってあの時計塔から落ちたのよ? 生きてるだなんて、奇跡以外あり得ないわ」


 確かに、考えようによっては奇跡だな。国一の最高医療機関に運ばれて、レビオスだけじゃなく、フェンリルや私に治療されているのだから。


 まあ、聖女候補第一位のアリアだからこそあり得る話だが、そういった言われ方をするのは些か悪くない。


 うむ、と誇らしい気持ちで近くの席に着けば、「奇跡い?」と心底馬鹿にした声が聞こえた。


「馬鹿馬鹿しいわ。自作自演だって先日から言っているでしょう。要は、自分は選ばれし者だって周りに主張したかっただけなのよ」

「確かに。目立たないと気が済まない人だものね」

「魔法なんて使えないくせに選ばれし者っていう主張だけは一丁前で、本当に鬱陶しいわ」


 なんだと? 魔法が使えない?


 思わず顔を上げてそいつらを見れば、「何よ、事実でしょう?」と言いたげな顔でこちらを睨んでいた。


 アリアの魔力量を知らないのか、こいつら。


『アリア・マグライアの魔力保有量は凄まじいとよく聞きましたが、魔法技術の方はどうだったのですか?』

『……そういえば、見たことがないな』


 ファウナからも、以前、アリアは治療において、大変テキパキしていたと報告を受けたことがある。てっきり、治癒魔法でも使ったのかと思っていたが……。


 何故だ。アリアの魔力量は特異なものだ。それを使いこなすのは時間も必要だろうが、アリアはそんなに不器用なやつだとも思わない。


 悩んでいた魔法式に何か関係でもあるのか……?


 考え込んでいたら、「あら、アリア・マグライア?」と声をかけられた。


「まあ、本当に生きているじゃない。てっきり、塔から落ちて帰らぬ人になったかと思っていたのに」

「…………」


 あっけらかんと失礼なことを言われる。


 なんだ、こいつ。クリーム色のボブをさらりと揺らして、「まさかこんなにけろっとした顔で戻ってくるなんて」とその女は言う。何人かの取り巻きもくすくすと笑って私を見下ろしていた。


 一体どこの誰だ?


 猫目に上がった口角。どこかで見たこと顔だが、思い出せない。


「盗人は神経だけじゃなくて、生命力まで太々しいのね」

「……何?」


 聞き捨てならない言葉が聞こえて、女を見上げる。すると、びくっと肩を揺らしながら「な、何よその目は……」とたじろいでいた。


「盗人とはどういうことだ」

「ど、どうもこうも言葉のままよ。あなた、クリスティーナの魔具を盗んだじゃない!」


 クリスティーナ?


 と、首を傾げていれば、猫目ボブの隣で、花の髪留めで前髪を上げたパーマ頭のオレンジ髪の令嬢が、「酷いわ!」と声を上げた。


「そうやって忘れたふりをするだなんて……あのブレスレッドはおばあさまの形見だったのに!」

「本当に酷い女! あなたが盗んで壊したんじゃない! 魔法が使えないからって!」

「何かの間違いだろ」


 どいつもこいつも。何故、アリアが魔法を使えないと決めつけているのだ。


「とぼけるのも大概になさい! 久しぶりに登校してきたかと思ったら、どうしてそんなに偉そうな態度がとれるの!?」

「コネか何か知らないけど、なんであなたのような無能が聖女候補第一位なのか、さっぱり理解できないわ。やっぱり、先生方と寝たっていう噂は本当だったのかしら。本当に、節操のない下品なおん……」



 な、と猫目ボブが言い切る前に、ガタッ! と、大きく音を鳴らして椅子から立ち上がる。


「お前、今なんと言った」

「え……?」

「無能で? 節操なしで? 下品な女だと? アリアが?」


 私に対してあれほど口うるさく、ファウナの言うことをきちんと聞いて、困っている人がいれば一目散に助けに駆け出すようなあの娘が。


「そんなこと、あるはずないだろ」

「っ、何を言って……」

「訂正しろ、今すぐに」


 強い口調ではっきりと告げれば、周囲の人間が驚いたように目を見開いた。アステルもさすがに無視できないらしく、自分の座っている場所から顔を向けていた。


「さもなくば……」


『ヘスティア様』

『なんだ、今は忙しいんだから邪魔するな』

『申し訳ありません。ですが、今はあなたがアリア・マグライアですよ』

『…………』


 あ、そうだ。と思いながら、フェンリルを見れば、やれやれとばかりに小首を傾げている。


『自我を発揮するのは構いませんが、フリューゲルでは対外的な行事ごとで招待されない限り、生徒や教師陣などの、関係者以外の立ち入りを禁止しています。もしも正体がバレてしまえば、牢に入れられることだってあるかもしれません。そうすれば、今よりももっと窮屈な生活を強いられる可能性もあるでしょう』

『今よりもっと……』

『フリューゲルの中では、外の法も通用しません。あなたが聖女と言えど、例外はないかと』

『……し、しかし、これ以上アリアが馬鹿にされるのは我慢ならない』 

『あなたがそう言うのであれば構いませんが、何もかも無駄になれば、目覚めたアリア・マグライア本人から今度はあなたが馬鹿にされかねませんよ』


 確かに、全くその通りである。


 アリアのことだ。『心配してくれたのはありがたいですが、そのような意味のない時間を過ごすくらいなら祈りに捧げた方がよっぽど有意義ですよ』などと言ってきそうだと思った。


「さ、さもなくば、何だって言うのよ?」


 狼狽えつつも猫目ボブがそう告げたので、私はまた視線をそいつに戻した。


 ……くそ、仕方がない。ここは我慢だ。


「……その、お可愛い顔面に、拳をめり込ませるところでしたわ」

「……は?」


 ふふっと愛らしく笑顔を作れば、困惑したような猫目ボブとよりざわついた周囲。『ぷっ』と笑ったのはそこの黒猫だった。


「あなた……」

「皆さん、すみません~! 遅くなりましたぁ……」


 猫目ボブ女の言葉遮るようにして教室に入って来たのは、ぼさぼさのベージュ頭に丸眼鏡。いかにも不出来そうな男だった。


「それでは席について……あれ?」


 騒然とした教室の中心。そこに立っている私を見て、その男は「マグライアさん! もう復学されたのですか!?」と驚いた声を上げた。今度は誰だ。


『ペカド男爵家のユーリッヒですね。フリューゲルで魔力学に関わる授業を受け持っていると聞いたことがあります』

『やけに詳しいな』

『あなたのお役に立ちたくて、事前に調べてきたんですよ。偉いでしょう?』

『お前はいちいち余計なんだよ』


 しかし、このインチキ魔法師の説明が正しければ、フリューゲルの教師の一人ということか。









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