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とある魔法学校の最強聖女  作者: あしなが
フリューゲル潜入編
5/26

アリアの友人




 ◇



 とは言ったが、まさか。魔獣くろねこの姿でくるとはな。しかもこのピアスを通して、私が大声で言葉を返せないからと言いたい放題だ。フリューゲルから外へ出たら、覚えておけよ。このインチキ魔法師め。


「にゃあん」


 にゃあんじゃない、いちいち可愛い声を出すな!


 首根っこを掴みながら、じいっと睨んでいると「っていうかアリア」と隣にいた男が首を傾げていた。


「お前って、そんな魔獣つれてたっけ? しかもなんだ」


 背中を屈めて、彼は言う。


「よわそー」


 ついでに、ははっと笑う少年に私は目を輝かせた。いいぞ! もっと言え! 貶せ!


 心の中で応援していると、私の手の中にいたそいつは、ざしゅっと少年の頬を引っ掻いた。


「いってえ!?」

「にゃあん」


 白々しく鳴いているそいつをさらに上へと持ち上げて、私は眉を吊り上げた。


「馬鹿! 何をしているフェンリル!」

「フェンリル?」


 引っ掻かれた頬を押さえながら少年が片眉を上げた。


「まさか、その猫の名前か?」

「……あ、ああ。まあ、そうですね。一応……」

「おいおい、いくらなんでもそれはないだろ」

「? どういうことだ」

「そんな偉大な名前、その躾の悪い猫につけるようなものじゃないってことだよ」

「……は?」


 偉大な名前、だと?


「千年に一度の大天才と呼ばれる、この国、随一の魔法師、フェンリル・ダンタリオンと同じ名前だぞ? マジでないだろ」

「……なんだって?」

「それにしたって、すごいよな。あんなに強くて優しくて頭までいいのに、見た目まで超絶麗しいんだから。人気が凄まじいのも当然というか」

「……」


 こ、こいつが……?


 ぎくしゃくとその猫を見れば、「にゃあん」とまたぶりっこしていた。


『そうなんです、わたしは人気者なんです』


 と、ドヤ顔で言っている声まで聞こえて来た。もっと謙遜しろ!


「まあ、美しいといえば、ティア様には勝てないけど」

「……ティア?」


 ティアって、まさか。


 そう思った瞬間、建物の方から鐘の音が鳴った。


「あ、やべ! 時間がない。アリア、寮には用がないなら早く行くぞ」

「ちょっと待て……と言っていますわ~」

「それにしてもアリア、さっきから、なんでそんな変な口調なんだ?」


 やっぱり気味が悪そうに首を傾げるその男の隣に並ぶ。


「だぁから、記憶喪失だと言っていますわ」

「……お前、本当にあのお人よしアリアか?」

「お人よし? やはりフリューゲルでもそうだったのか」

「え? それって、どういう……」


 首を傾げる男に「いや、こっちの話です」と話を流した。


「ところで少年。あとで、ヘスティア・アプロディーテの肖像画が飾ってある場所を教えてほしいですわ」

「フリューゲル聖堂? 行って何するんだ?」

「ちょっと、わた……聖女様の肖像画に用があって」


 不思議そうにする男に、「さ、教室まで連れて案内してくださいな」と笑顔で切り替えれば、「やっぱり変だ」とおかしな顔で見られた。





 ◇


「ここが俺たちの使っている、教室だけど……本当に覚えていないのか?」


 少年に案内されてアリアが通っていたフリューゲルの教室へ辿り着くと、私の腕の中にいたフェンリルが軽く藻掻いた。


『ヘスティア様、いよいよ本格的に、アリア・マグライアになり切らないと、あとで痛い目を見るかも知れませんよ』

「はっ、誰に向かって言っている」

「え? アリアにだけど……」


 あ、と。首を傾げる男を見上げながら、「ああ、えと」と笑顔をにっこりと作った。


「あなた、名前はなんでしたっけ?」

「え、俺?」


 今さら? と言いたげな顔が不満そうだ。


「アステル・ストーム……だけど」

「ストーム?」


 ストーム家は確か、穏健派の侯爵家か。アリアも、なかなかいい相手を友人にしているのだな。


「アリア?」

「なんでもない。これからよろしく、アステル」

「……違和感しかないけど、記憶に障害があるなら仕方ないか」


「まあ、よろしく」ともう諦めたようにアステルは告げると、教室の扉に手をかけた。


「フリューゲルに戻って来れたのも、それのお陰だろうしな」

「え……」

「お前からしたら、不幸中の幸いというか」


 呟くようにして続けるので、「おい、アステル」と続けた。


「どういう意味だ」


 眉根を寄せると、アステルは「え?」と当たり前の顔で私を振り返った。


「その状態なら、何を言われても傷つかないだろって話だよ」

「…………」

「それから」


 少し考えるようにしてアステルは、再び教室の扉に向き合った。


「教室に入ったら、いつも通り話しかけないからな」

「は……」


 両開きの扉を、片方だけ開けて入っていく。いつも通りって、どういうことだ……。


『何か事情でもありそうですね』

「わかっている」


 しかし、不幸中の幸いって……。


 あまり良い予感はしないな。


 アステルの後を追うようにして、足を踏み入れた瞬間、ざわついてた空気が、さあっと引くように静かになった。


 歓迎とは言えない雰囲気に、『挨拶でもした方がいいか?』と心の中で告げれば、『アリア・マグライアなら大人しくしているでしょう』とフェンリルが遠回しにやめておけと言っていた。



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