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とある魔法学校の成り代わり聖女  作者: あしなが
フリューゲル夜会編

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報われない者たち






 再び場面が変わる。


「あなたが悲しんでいる理由を教えてくれる?」

「そ、それは……っ」


 徐に聞こえてきたのは、輪郭がはっきりとしない声だった。


「……ああ、なるほど。愛するおばあさまが……」


 誰だ……?


 クリスティーナの前で誰かが話している。場所はフリューゲルだが、よく見えない。


 声質も靄がかかったように、よく聞こえない。


「そう。それは悲しい出来事だったんだね。このブレスレットはそのおばあさまがくれたもの?」

「はい……」

「そう……少し見せてもらってもいい?」


 クリスティーナがブレスレットを外し、相手に渡した。


「すごいね。この魔具……守護魔法が何重にもなってかけられてるよ。きっときみのおばあさまが、きみのためにかけてくれたものもあるだろうね」

「は、はい! そうなんです! このブレスレットには様々なまじないがかかっていて……素敵な未来を導いてくれると言っていました」

「それは……優しいおばあさまだ」


 ブレスレットについていた魔石がほんの寸秒だけ鈍く光った。


 瞬きをしたら見逃してしまいそうな、一瞬の隙だった。


 今、のは……。


「きっとあなたには、素敵な未来が待っているよ」


 ブレスレットがクリスティーナの手に戻される。


 何も知らない彼女は、そのブレスレットを手首にはめ直していた。


 恐らくこの時だ。


 クリスティーナのブレスレットに呪いがかけられてしまったのは。


「それじゃあ、また。ムーア嬢」


 にこやかな口調だった。誰だ。


 誰なんだ、一体。


 と、その記憶に近づこうとした瞬間、また場面が切り替わってしまった。






「――アリア・マグライア! クリスティーナのブレスレットを盗んで挙句の果てに壊すだなんて、どういうことよ!?」


 猫目ボブの怒声が聞こえた。はっと目を見開く。


「ち、違うんです! 私の話を聞いてください!」


 アリアだ。


 私は食い入るようにして、そちらへ足を踏み出した。


 けれど、実体がない私は、このブレスレットに見せられている〝記憶〟をただ眺めることしかできない。


「何を聞くことがあるというのですか! これは私のおばあさまの、大切な形見だというのに……!」


 ブレスレットについた花弁が少し欠けてしまっている。それをハンカチに乗せながら、クリスティーナが涙ながらに訴えていた。


「盗んだわけではありません、落ちていたところを拾ったので、クリスティーナ様にお返しする予定でした……」

「だけどあなた、このブレスレットを持って、どこかへ行こうとしていたじゃない!」

「それは……っ」


 気まずそうに一瞬だけ俯いたアリアは、意を決したようにして顔を上げた。


「このブレスレットを調べようとしたんです……何やらよくない感じがして……」

「何を訳の分からないことを言って……自身の悪事を煙に巻こうとしているの? どうしてこんな非常識な子が聖女候補一位なのかしら。本当に信じられない、他の候補者を馬鹿にしてるとしか思えないわ!」


 猫目ボブが呆れたようにして、アリアを睨む。アリアは「ち、違うんです。本当に……」と弁明しようとしていたけれど、猫目ボブもその隣にいるクリスティーナも聞く耳を持とうとはしなかった。


「学園側にしっかり突き出しますからね。今に見てなさい……今度こそ追い出してやるわ! さあ、クリスティーナ行きましょう。あとでわたくしが、そのブレスレットを修理してくれる店を紹介するわ」

「ま、待って……待ってください! ……っ、クリスティーナ様! お願いです!」


 猫目ボブに連れていかれそうになったクリスティーナが、渋々アリアを振り返る。


「あなたのその魔具をもう少しだけ私に預けてくれませんか!? もしかしたら呪いがかけられているかもしれないんです、だからっ」

「なん……ですって……よくも……っ」


 クリスティーナがアリアの元へ戻ってくる。そうして、その頬を強く叩いた。


「よくも私の大切な魔具を呪われてるだなんて言ったわね! このブレスレットがなくなって、ただでさえ心細かったのに……盗んだ言い訳が、呪いがかけられてるからって……私のことを馬鹿にするもいい加減にして!」

「っ、そういう……わけでは」

「赤毛で、そばかすだらけだからって、どうせ下に見ているんでしょう!?」


 クリスティーナが唇を噛み締める。


「あなたみたいに聖女候補第一位の恵まれた人には、私の気持ちなんてわからないわよ! これは、おばあさまが私に素敵なまじないをかけてくれた、大切な魔具なのに!」


 クリスティーナが苦しそうにアリアを睨みつける。


「もう二度と顔を見せないで!」


 アリアが恵まれている?


「あんたなんて……っ」


 ふざけるな。聖女候補第一位がなんだというのだ。


「一生嫌われていればいいんだわ!」


 誰も守ってくれやしない、ただの肩書きだというのに。


「ふん、よくわかった? アリア・マグライア。あなたは一生、出しゃばっちゃいけない人間だってこと」

「行きましょう、ハンナ様。こんな子、相手にするだけ時間の無駄ですわ」


 立ち去る二人に対してアリアが「っ待っ……」と手を伸ばしたけれど、ただ空を切るだけだった。


 少しして、アリアは諦めたように手を下ろし、ぎゅ、と拳を握っていた。



 知らなかった。


 こんな風に、惨めに立ち尽くしているアリアがいたことを。


 泣いているのだろうか。


 それとも、ただただクリスティーナたちの背中を眺めているだけなのか。


 私にはわからない。わからないから。


 ただ、アリア、と。


 その肩に触れたかった。






「――ええ、わかっています。お母様、お父様」


 再び場面が変わる。


「ですが、この夜会まで待っていただけますか? 私は必ずや素敵な殿方に見染められてみせますから!」

「この子は……去年も同じようなことを言っていたのに……また期待を裏切らせるつもりなの?」

「いいか? 今年こそ上手くいかなければ、デロル伯爵との婚約を進めるからな」

「は、はい、もちろんです! そういう話でしたから……」


 夜会の前にクリスティーナは一度、家に帰っていたのか。両親らしい男女を相手に、クリスティーナは必死に取り繕っていた。


 確かにフリューゲルに寮はあるが、行事の度に帰宅をする者は少なくないと聞く。


 しかし、デロル伯爵とは……神経を疑う。だって、神殿に多額の金を持ってきて孤児の娘を好んで持ち帰ろうとする、あの成金爺のことを言っているのだろう?


 なかなかえげつない話だ。あの男をいくつだと思っているんだ、この両親は。


 自分たちと大して年の変わらない男に、自分の娘を渡そうとは。


「全く……お前が美しい娘だったなら、王太子殿下にだって気に入られただろうに。一体誰に似たんだか……」

「あら、わたくしのせいだって言うの?」

「そうだろう? お前の赤毛をもらったせいで、こんなにみすぼらしい姿になったんだぞ!」

「それを言うなら、あなたのそばかすだって……自身の顔がそれほどいいと思っているのかしら!?」

「なんだと……! 貰い手のないお前は仕方なく引き取ったわたしの身にも……!」


「お、落ち着いてください、お母様、お父様! 私は必ずやムーア家に繫栄を齎すと誓いますからっ」


 クリスティーナが懇願するように叫んだ。反吐が出そうな光景だった。


「……まあいい。いいか、クリスティーナ。口だけでは何も生まれない。まずは行動に移して、俺たちを納得させることだな」

「ええ、あなたの取柄は女であることなんだから。必ず、身分の高い殿方に見染められてもらうのよ」


 自身の娘を金稼ぎの道具にしか見ていないのが透けて見える。この娘が優しくしてくれた祖母を大切に思うのも、わからないでもなかった。


「はい……お父様、お母様」


 頷くクリスティーナのブレスレットは、随分と黒ずんでいた。


 元は正常な魔具だったものがあそこまで偽魔具として進行してしまった理由は、少なからずクリスティーナの気持ちに左右されている所為もあるだろう。


 心が塞ぎ込むと、全身を巡る魔力も淀む。


 それに影響された魔具はどのみち早めに廃れてしまうものだ。


 遣る瀬無いだろう、亡き祖母も。


 いつまでも幸せにいてほしいと思った孫娘は、利用されて、され尽くして、腕まで失った。


 どこまでも報われなくて、悲しい結末だ。




 ――バキ、バキバキッ……とブレスレットを破壊する。


 すまないな、お前たちの大事なものを壊してしまって。


 すまないな、何もできなくて。


 私は聖女だと持ち上げられるけれど。


 結局本当の意味で、誰も救えないのだ。



 悪魔の叫び声が聞こえる。


 その悲痛な叫びは、


 本当に悪魔のものなのだろうか。


 ブレスレットについた魔石の隙間から、


 黒色の靄が私に襲い掛かりそうになる。


 それを音もなく切り落としてしまえば。


 ぱらぱら、と音を立てて、ブレスレットは涙のように手のひらから落ちた。


 落ちて、落ちて、広がるように転がっていく。


 そうして拾われることもなく、やがて動きを止めると。


 異空間に亀裂が入った。


 顔を上げると、そこから光が差し込んだのが見えた。


 あの眩しい光は、あの少女にとって、希望の光か。


 それとも。










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