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とある魔法学校の成り代わり聖女  作者: あしなが
飛び降り事件編

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とびっきりのプレゼント


 ◇


 夜間合同交流会には、このフリューゲルにいる殆どの生徒が集まるらしい。


 フリューゲルの生徒数は、一学年でも百人を超える。


 五年制ということもあり、五百人以上も集まることを思えば確かに交流しきらないのもわからないでもないが、わざわざこんな交流会など開くこともないだろうに。


 かかっている予算が桁違いすぎて、辟易とする。


 どうせ国も援助しているのだろう。全く、こんなところに金など使っている場合か……。


 やれやれ、と思いながら、フリューゲルの敷地内にある大ホールとやらの建物の前にやってくる。


 すでにホール前は賑わっていて、生徒たちが続々とその集まりに向かっているようだった。


「どの生徒も、すごい着飾っているな……」


 服装やヘアスタイルはもちろんだが、その身体についたアクセサリーも馬鹿にならない値段だろう。


 その様子を遠くの茂みから見ていれば、「お見合いも兼ねていますからね」と私の背後に立っていた男が告げた。


 振り返れば、夜に溶けそうな黒髪を揺らした男が、その赤く光る目で見下ろしていた。


「お似合いですよ、ヘスティア様」

「……思ってもないことを言うな」


 げんなりとした顔をすれば、「本当のことを言っているのに」とフェンリルは続ける。


「適当でいいと言ったのに、こんな大仰なドレスを用意して……どういうつもりなんだ」


 うんざりとしながら、自分の身体に視線を落とす。


 高価なレースがあしらわれた白いドレスには、宝石のように光り輝く守護石が散らばっている。


 よりにもよって守護石とは。宝石の方がまだマシだ。恐らく建物一軒分の価格じゃ済まないだろう。


「言ったでしょう、とびっきりのプレゼントを用意すると」

「限度というものがあるだろう」

「そうは言いますがこの国の大聖女様に粗末な恰好などさせられませんよ。それこそ天罰を下されてしまいます」

「いいか? 今の私は大聖女ではなくアリアだ。だからこのようなドレスを着るのはおかしい!」

「まあ、アリア・マグライアが着るには少々高価すぎるかもしれませんが」

「少々だと?」


 頭がおかしいんじゃないか。普通に皇室に上納するかしないかのレベルだと思うぞ。


「でも、似合っているのだから良いではありませんか」


 にっこりと押し切られてしまう。この男……時折、強引な感じが否めない。


「そもそも、こんなものを用意する金はどこから湧いて来たんだ……」

「もちろん、わたしのポケットマネーです。サイズもぴったりでしょう?」

「……」

「どうしたんですか、その顔は」

「いや、いろいろと引いてるんだよ。なんでサイズまで知ってるんだ……それに金の使いどころも意味不明だろ……」


 狼狽えそうになっている私を無視して「ご安心ください」とフェンリルは続けた。


「わたし、結構なお金持ちですよ?」

「……前々から思っていたが、私は本気でお前のことがわからない。頭は大丈夫か?」


 いくらお金があるからとはいえ、夜会の知らせが届いてから、ものの数日でこのようなドレスが届くとは……。この男の人脈は一体、どうなっているんだか。


「まあまあ、いいではありませんか。教会にいた頃は、あまり派手なものを着ることもなかったのでしょう?」

「それはそうだが、そもそも好きじゃないんだ。窮屈だし、疲れるから……」


 今回はアリアのためだが。それでも早く着替えたい。


「とはいえ、よくお似合いですよ。アリア・マグライアのことが解決したあとも、わたしの家に剥製として飾っておきたいほど」


 また本気かどうかもわからないことを。


「さっき天罰がどうとか言っていた人間のセリフじゃないぞ」


 呆れながら歩き出そうとすると、フェンリルはホールの入り口あたりを指差した。


「ところで、あれを見てください。ヘスティア様」


 そこには、男子生徒にエスコートされながら入っていく女子生徒たちの姿が見える。


「もしかして、誰かのエスコートは基本となっているのではありませんか?」

「……いや、別に一人で入ったって構わないだろ」

「そのような生徒、見当たりませんが……」


 確かに。どの生徒たちも必ずペアでホールの中へ向かっている。


「アステル・ストームを誘わなかったのですね」

「誘えるわけないだろ。あいつも私を避けてるのに」


 はあ、と溜息を吐けば、フェンリルが「とはいえ」と私の顔を覗き込んだ。


「わたし好みで着飾った美しいあなたをエスコートできないというのは残念です。やはり、魔獣ではなく生徒として忍び込むべきでした」

「お前なら、そんなこと朝飯前だろ。あと気持ち悪いことを言うのをやめろ」

「それがそうもいかないんです。わたし、フリューゲルには、一人では入れませんから」

「え?」


 にっこりと微笑んで、フェンリルは私の頬にかかっていた髪を軽く耳にかけた。


 そして、耳につけていた飾りを撫でるようにして、手を離したので、しゃらりと音が鳴った。


「何かあれば、その守護石があなたを守ってくれます」

「……なんで、何かある前提なんだよ」

「揉めごとに巻き込まれるのは得意ではありませんか」


 夜会の行われるホールには特殊な防護魔法がかかっているようで、魔獣の出入りができないと通達されている。


 私自身が、もしも完全に魔獣頼りの魔法師だったならば、夜会の参加は気が進まないだろう。


「安心しろ、お前の石を使うことはない」

「頼もしい限りです」


 月明かりを背に、フェンリルが告げる。この男、常々思っていたが、人と敬っているようで小馬鹿にしている。


「本当だぞ? お前などいなくても、私は上手くやる」

「はいはい、わかっていますって」


 フェンリルが私の手を取りながら、「それでは、ヘスティア様」とそれを口元に持っていく、と。


「お気をつけて」


 手の甲に柔らかな感触がしたと同時に、そのままフェンリルは姿を消した。


 すごく自然にセクハラをされてしまった。






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