表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある魔法学校の成り代わり聖女  作者: あしなが
フリューゲル学食編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/38

危険な約束



 ◇



「ビスケットですか? わたしへのお土産は」

「不満を言うなら没収だ」

「そんな! 酷いことを言わないでください。あなたからの初めての贈り物だと言うのに……」

「事あるごとに気味の悪いことを言うな。贈り物ではなく、ただのついでだ」


 全く、と言いながら、鏡の前に立ち、アリアから自分の姿に戻る。


 そんな私の姿を見ながら、フェンリルは紙で渡したビスケットをハンカチに包み直していた。


「何かありましたか」

「は? なんで……」

「あれほど楽しみにしていた学食に行ってきたのに、お声が沈んでるような感じがしたので」

「…………」


 察しの良さに腹が立ち横目でそいつを睨むと、得意気に微笑まれた。なんだ、笑い方まで猫になったのか、こいつは。


「……苛々しているんだ」

「苛々、ですか?」

「こんなふざけた環境にいながら、どうしてアリアは私に相談しなかったのか。もしも塔から自ら飛び降りたのであれば、そうなる前にどうして私を頼らなかったのか。もし頼っていれば少しはマシだっただろう、馬鹿な娘だ……と初めはそんな風に、アリアに苛々していた」


 そんなに頼りなかったか。


 そんなに信頼がなかったのか。


 心を打ち明けるに値しなかったのか、私は。


 そう思っていた。


「だが、私はわかっていなかった。あいつは、ただ私に迷惑をかけたくなかったのだ。自分が苦しもうと相手の幸せを願うような、そういう娘だとわかっていたはずだったのに」

「…………」

「それを改めて思い知っただけだ。そうしたら、自分に苛々が止まら……」


 なくてな、といいかけたところで、頭の上に手のひらが乗った。


 は、と思った時にはなでなで、と頭を撫でられる。


「……おい、なんだこの手は」

「苛々しているというよりも、落ち込んでいるように見えたので」


 にこっと笑顔を作るフェンリルを睨み上げれば、「もしかして、労りはいりませんか?」と当然のことを告げた。


「余計なことをするな。子供じゃあるまいし」

「子供でなくとも、頭を撫でられるのは悪い気がしないでしょう?」


 大きな手が頭の上を行き来する。


 そういえば、誰かに頭を撫でられたことなど、生まれてこの方一度もない。


 だからだろうか。確かに優しく撫でられる感触は。


「まあ……」


 悪くはない、と言いかけて、はっとしながらそいつの手を払った。


「いや、調子に乗るな!」

「あ、残念。あなたの髪は柔らかくて触り心地が良いのに」


 まさか手懐けを失敗するとは、と言いたげなフェンリルに。


「お前のその長い髪を燃やして触り心地をよくしてやろうか、変態め」


 と返せば、


「やめてください、今が最高なんですよ? わたしの髪は。ほら、見てください。毛先までとぅるんとぅるん」


 などとよくわからないことを言っていたので無視しておいた。


「しかしアリア・マグライアもすごいですね。こんなに懐かないあなたの心をここまで揺さぶるなんて」

「……お前、人のことを猫か犬だと思っているのか」

「俄然興味が湧いてきました」

「おい、アリアに手を出したら許さないからな」


 もしもそんなことをしたら、本当の本当に燃やしてやる。


「出しませんよ、わたしはどちらかというと、もう少し破天荒な強い人が好みなんです」

「それは……」


 フェンリルを見上げると、その赤い目を細めて、に、と微笑んでいる。先ほどの得意げな微笑みが消え、今はなんだか怪しげな笑みをしていた。


 そんな彼の顔を月明かりが照らし、肌の白さを際立たせている。


「意外な趣味だな。ゴリラでも好きなのか、お前」

「ああ……まあ、そうですね。美しいゴリラが好きなのかもしれません」

「……趣味は人それぞれだからな」


 変態には癖ありの趣味があるだろうから、あまり突っ込まないであげよう。


「さ、風呂に入って寝るか。お前はもう先に寝てもいいぞ、どうせ猫の姿に……」

「ならなくてもいいですよ? その場合はあなたの隣に」

「寝かせるわけないだろ、外で寝ろ」


 即答しながら告げると、「わかりましたよ、本当に冷たいんですから」とフェンリルは猫の姿になって、ベッドの上に寝転がっていた。


「おい」

『硬いのは嫌なんです。場所を取らないんで、寝かせてくださいよ』


 全く……。


「蹴り飛ばしても知らないからな」


 そう忠告してあげたのに。







 朝になって。


「おはようございます、ヘスティア様。ぐっすり眠られたようで何よりです」


 笑顔で私の隣で横になっているフェンリルの頬に、私の足の裏で蹴られた痕と小さな怒りマークがついていた。


「お、まえ……どうして隣で寝ている!」


 急いで身体を起こすと、そいつは肘を立てて、その手のひらに頭を乗せていた。


「横になったのはさっきですよ。あなたがあまりにもわたしを蹴り飛ばすので、腹が立って元に戻ったのです」

「腹が立ったって、仕方がないだろ、狭いんだから……」

「いいえ、猫のわたしは場所をとりません。それにあなたの枕元で眠っていたのに、あなたの寝相が最悪過ぎて、回転しながらまるで玉蹴りのように蹴り飛ばし、わたしを床へ落としたのです」

「そ、そんな酷い話が……」

「あるんですよ、残念ながら」


 うるさい男だなこいつ。そもそも事前に言っていたじゃないか。蹴り飛ばしても知らないって。


「お前が忠告を無視したのが悪いだろ……」

「まさか実際に蹴られるとは思わないじゃないですか。あなた、本当に聖女ですか? もう少し周りのものを労わってくださいよ。わたし、あなたのせいで歯をやられたかと心配で……頬だってこぉーんなに赤くなって」

「ああ、もう! 朝からうるさいやつだな。わかったよ、詫びに何でも一つ願いを聞いてやるから、ぐちぐち言うのをやめろ!」

「本当ですか? 聖女様に二言はなしですよ?」


 がばっ! と起き上がり、私と視線を合わせるフェンリル。相変わらず圧迫感がある。


 立てた膝の上に頬を乗せ、「本当に何でも叶えてくださいね」とあざとい微笑みを朝から見せられて、ああ、早まったかも知れないと思った。


 何でも、なんて言うべきではなかったな。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ