第6章:議会の混乱と日本の来訪
1853年10月、アメリカ合衆国、ワシントンD.C.。
ペリー提督が日本との交渉を終え、艦隊が帰国してから数ヶ月。サスケハナから送られた報告書と協定書が議会に届いたその日、アメリカの首都は未曾有の混乱に包まれた。
下院議事堂では、議員たちが顔を真っ赤にして叫び合っていた。
「ペリー提督が何だと!? 関税ゼロの貿易協定だと!?」
南部の綿花農家を代表する議員、ジェームズ・ハモンドが書類を叩きつけた。
「我が国の綿花産業が潰れる! 日本なる国が『自動車』や『電子機器』を押し付けてくるだと? そんな物、我々に必要ない!」
対する北部工業派の議員、ウィリアム・スワードは反論した。
「いや、この協定はチャンスだ。報告書によれば、日本の技術は我が国を百年は超えている。彼らの品物を取り入れれば、産業が飛躍するぞ!」
「百年超えているだと? 馬鹿げてる! ペリーは我々を売った裏切り者だ!」
議場は罵声と怒号で埋め尽くされ、議長のハンマーが何度も鳴らされたが収まる気配はない。
上院でも状況は同様だった。ミラード・フィルモア大統領は、閣僚会議で頭を抱えていた。
「ペリーの全権委任を認めたのは我々だ。だが、関税ゼロとは…彼は日本に何を見たのだ?」
海軍長官が報告書を読み上げた。
「提督によれば、日本の軍艦は我が艦隊を一瞬で沈め、空飛ぶ機械は我が国の上空すら監視可能だそうです。逆らえば戦争も辞さないと」
大統領は呻いた。
「戦争だと? 日本がそんな力を持つなら、我々に選択肢はないではないか…」
混乱が収まらぬまま、11月初旬、衝撃的な出来事が起きた。
東海岸、ニューヨーク港に、巨大な鋼鉄船が現れたのだ。海上自衛隊のイージス艦「あたご」を超える規模の船で、「海上保安庁」と書かれた白い船体が静かに停泊した。さらに、空からは轟音と共に「飛行機」と呼ばれる機械が飛来し、港の上空を旋回した。
市民たちはパニックに陥り、港に集まった群衆が叫んだ。
「何だあれは!? 海の怪物か!?」「空に鳥が飛んでるぞ!」
船から降りてきたのは、日本の外務省職員・田中と、数人の制服姿の男たちだった。彼らは英語でこう告げた。
「我々は日本政府の使節団です。ペリー提督との協定に基づき、貴国との交渉を進めるため来ました。議会と大統領にお会いしたい」
港の警備隊は武器を構えたが、飛行機が低空で通過し、轟音を響かせると、誰もが手を止めた。あの機械が攻撃を始めたら、ニューヨークは一瞬で壊滅するだろう。
外務交渉と承認への道
ワシントンに急行した日本使節団は、大統領府でフィルモアと対面した。田中が穏やかに切り出した。
「大統領閣下、ペリー提督との協定をご存知ですね。我々はCPTPPに基づく自由貿易を求めます。関税ゼロで、貴国の綿花や木材を輸入し、我が国の自動車や電子機器を輸出します。互いに利益になるはずです」
フィルモアは苦々しく応じた。
「利益だと? 我が国の産業が混乱する。関税を維持する権利はないのか?」
田中は微笑みつつ、机に小さな箱を置いた。ボタンを押すと、光る板に映像が映し出された。それは、日本の東京だ。高層ビル、電車、アニメに興じる若者たち…。
「これが我が国の実態です。そして、これが我々の力です」
次の映像は、海上自衛隊の演習だった。ミサイルが海を切り裂き、遠くの標的を瞬時に破壊する。
閣僚たちが息を呑む中、田中が続けた。
「我々は戦争を望みません。貴国と協力したいだけです。協定を承認していただければ、技術支援も可能です。貴国の港や道路を近代化し、生活を豊かにしますよ」
フィルモアは目を閉じ、長い沈黙の後、呟いた。
「我々に選択肢はないな…ペリーの報告が真実なら、日本を敵に回すのは愚策だ」
大統領は決断を下した。
「議会を説得する。日本との協定を承認しよう。他に道はない」
数日後、議会は再招集され、日本使節団が直接演説を行った。田中の流暢な英語と、飛行機の実演(議事堂上空を低空飛行)が議員たちを黙らせた。
「我々は友として来ました。協定を結べば、貴国は繁栄します。拒めば…その結果は想像に任せます」
反対派の声は萎縮し、賛成票が過半数を占めた。1853年11月15日、ペリーの協定は正式に承認された。
だが、議場を出た議員たちの間では、不安が広がっていた。
「日本がこんな力を持つのなら、我が国の独立は保てるのか?」
「ペリーは英雄か、それとも我々を売った男か…?」
一方、港に停泊する日本の船から、最初の「自動車」が陸揚げされた。市民たちが驚きと好奇心でそれを見つめる中、アメリカの歴史は新たな道を歩み始めた。




