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月桜学園シリーズ  作者: 月影 紗夜
一巻 私がモテるとかありえない
8/18

自分を守れない奴は誰も守れないよ

放課後になり、アイドル部に着くと小夜君が


「七夕さん、今日もよかったら放課後、話さない?」と聞かれ頷くと喜んで


くれた。風神君はまだ来ていないようだ。遅いなと思っていると楓君がやって来て


「大変!颯君が女子に怒鳴り散らしているんだよ!」と言ってきた。


もう、嫌だ。なんでいつもこうなるの?お願いだから風神君、やめて。


それじゃあ蛍と同じだよ。呼吸がおかしくなっていく私に小夜君が気付き、


「落ち着いて!ゆっくり吸ってゆっくり吐いて」とゆっくり言ってくれた。


徐々に呼吸は治まっていき「風神君を止めて」と言うと「櫻羽先輩と朝影さんが止めに行ってくれているよ」と言われる。

そこに朔もやって来て「風神の奴、どうなってんだよ。あれ止めるとか無理あるぞ」と言いに来た。


私は「行って来る」と言うと二人同時に「危ないからここに居て」と言われるが私は部室を飛び出す。

怒鳴り声が聞こえる方に走って行く。

現場に着くと私はありったけの声で「風神君‼やめてっ‼」と言った。

すると彼は止まり「でも、こいつらお前の事、散々悪く言ってたんだぞ?」と言って来る。

私は「私の事は良いから!そんなの慣れっこだし傷ついてない!

でも、風神君がそういう事すると苦しくなる!

同じ事、繰り返したくない!」と言うと風神君は渋々女子から離れて帰って行った。


私達もサッと帰る。

でも、帰り際…聞こえたんだ。「デビル様って怖い」


「皆に言いふらしちゃおうよ。あいつはひどい奴だって」「ねー」


違うのに、風神君は優しいのに…。

自分の悪口を言われるよりも辛かった。


部室に着くと皆、深刻そうにしている。

風神君は「ムカつく」と言っている。


小夜君は「ほっとくしかないんだよ」と呟いた。


櫻羽先輩は「皆、冷静になろう」と言った。

朔は「俺、先帰っとく」と言い去る。


楓君は「なんでこうなるんだろ」と溜息交じりに呟く。


私は「もういいから」と言うと

「夏純ちゃんって、自分の事、大事にしないよね」と櫻羽先輩が言った。

は?と思っていると「まるで、自分のせいで誰かが傷つくのを恐れているようだ」と続けて櫻羽先輩は言う。

私は黙り「それが何よ」と言うと

「もっと自分を大切にしてほしいな…。自分を守れない奴は誰も守れないよ」と彼は答えた。

私は「いいでしょ。私だけ傷ついて皆に傷が付かないなら、

それが一番いいんだから」と言うと風神君に

「誰も傷つかないのが一番だろ」と言われた。

その言葉は私に重くのしかかる。分かっている。

でも、この世界はそんなにきれいじゃない。

皆が幸せになれるような甘い世の中じゃない。


結局、誰かが苦しむんだ。

なら私は苦しむ側でいいと思うのはダメなの?


私が幸せになる事で誰かが不幸になるなら私は不幸でいい…。


その時、先生がやって来て「風神、ちょっと来てくれ、七夕さんも」と言われた。


着いて行くと先生は「単刀直入に言う。七夕さん、嫌がらせを受けているのならその悪口を言っている奴らを教えてくれないか?」と言ってきたのだ。


私は、仕方なく口を開く。瑠璃ちゃん、私は木村さんと呼んでいる。


彼女は可愛くて優しいと男子は思っているらしい。

だが、女子の中では皆を虐げる王女様のような人。

自信があってクラスの中心で皆が気をつかっている。


私の事を酷く嫌っていていつも陰で悪く言っている事。

話し終わると先生は、

「今まで、気付けなくてごめんな」と言った。

先生は悪くないのにね。


でも、優しくされるとどうしても涙が零れてしまった。


風神君がハンカチを顔に投げつけて来るかと思いきや押し付けて来た。


ちょっとは成長したじゃん…?

私が泣き終わると先生は「今日はもう五時前だから帰ろう。先生達でなんとかして頑張るから、七夕と風神は気にするな」と言い去って行った。

私は部室に戻ると小夜君と一緒に帰る。

今日も月桜公園に来た。


二人でブランコに座って空を眺めている。

私はこの時間が心地よかった。


無言だけど全然、気にならないこの感じが。

小夜君は無表情になるとこう言った。


「七夕さんは、自分が幸せになった時、誰かが不幸なのが嫌なんだよね。

僕もそうだよ。自分が不幸になって誰かが幸せになれるなら、それでいいと思ってしまった事がある。

でも、これが大きな間違いでさ…自分が幸せになって不幸になるのは自分に関係ない。

もしくは、君の不幸を望むような最低な奴らなのさ。

そして、幸せになるのは君の大切な人。

君を大切に想ってくれている人なんだよ。

それでも、君は不幸を望むのかい?」と言われ彼が何を伝えたいのか分かった。

でも、と思っていると「少しでも多くの人が幸せだったらいいじゃん。

君が自ら不幸を選択しなくていいんだよ。

だって、僕は君が幸せだと笑ってくれたら嬉しい。

幸せになれるんだ。風神だってそう思っている。

それでも、君は不幸を望むのかい?

他でもない自分で大切な人を傷つけるのかい?

櫻羽先輩が言ってた事の意味が分かる?」と言った。思い出す。


さっきの櫻羽先輩の言葉を『自分を守れない奴は誰も守れないよ』と言っていた。


黙る私に小夜君は無表情のまま「まぁ大体幸せってなんだろうって感じだよね」と言いブランコに立つと漕ぎ始める。

そして、漕ぎながら「僕は今、この瞬間が幸せだよ」と言った。

目を丸くする私に「七夕さんは?」と聞かれて考える。


少しオレンジがかった青空の下、二人で黙ったり一方的に喋ったりするこの時間。


私は「幸せだよ」と答えると「じゃあ、こういう事だ。自分が幸せな時は相手もきっと幸せだと思っているんだよ」と小夜君は言った。

「えっ?本当に?」と聞くと「それで、もし不幸ならその人は君が大事じゃないんだ」と小夜君は言った。

驚く私に「って事でもう六時十分だ。夕焼けが綺麗だね」といつもの小夜君だ。


いつもってなんだろう?

小夜君は微笑んでいても無表情でも小夜君なのに…。


小夜君はブランコから降りると「七夕さん、帰ろうか」と言った。


公園への出口の小道を歩きながら彼は言う。

「また明日もここで話そう」


『また明日も』その言葉は私の心に嬉しさを感じさせた。

魔法みたいに。


私が幸せだなって思っていたら小夜君が「僕、七夕さんと居ると幸せ」と呟いた。


息をのんでいるともう家に着いていて「また明日」と言って彼は帰って行った。


寂しいな、もっと話したい。


気づけばそんな不思議な感情が生まれていた。



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