だって、大好きだったんだよっ!
家に帰ると一人だった。涙が零れる。やっぱ怖いよ。
人の優しさに触れるたびに私は寂しくなる。
だって、一人きりの時、思い出してしまうから。彼らの事を。
私は朔に謝りに行く事を思い出す。
そっと家を出て朔の家のインターフォンを鳴らす。
朔が出てくる。
そして「なんだよ?」と聞かれて「今朝はごめん」と言うと朔は「別に気にしてないから」と言うけど絶対気にしている。
顔を見れば分かる。いつもより口がへの字だし目つきも鋭い。
ムスッとしている。
私は「本当にごめん!許して」と言うと「じゃあ付き合ってくれよ」と朔は言う。
「何に?」と私が聞くと「恋人になってくれない?っつってんの」と朔は答えた。
息が止まる。気づけば「いやだ」と言っていた。
こんなにはっきり言うつもりじゃなかったのにどんどん口から言葉が溢れ出てくる。
「今朝、言った事はほんと。私の為に朔が無理するの、嫌なの」と言うと朔が「じゃあ俺、カッコよくなるけどいいのかよ?」と聞いて来る。
「好きにして」と私が答えると「んだよ…。関係ないみたいな顔しやがって。俺の気持ち分かって言っているのかよ?」と朔が言う。
私は「分かるわけないじゃない。言葉にしなきゃ伝わらないの」と言うと朔は
「じゃあ全部、話してやるよ。
恋だと気付いたのはお前と兄貴が付き合った後だった。
今更だよなって諦めていたんだ。
そんな時、女子の嫌がらせをお前が受けているの見て俺、兄貴に言っちゃったんだ。
『お前のせいで夏純が女子から嫌がらせ受けてんだけど?
夏純を守れないなら別れちまえばいいんだ』って。
そうしたら、あいつめっちゃへこんでた。
そして『でも、俺から言うのは嫌だって』言ったんだ。
俺は兄貴と夏純の距離が出来てチャンスだって思った。
上手くいって嬉しかった。
でも、それって最低じゃん。兄貴を陥れただけじゃん。
だから、夏純に『そういう所が嫌』って言われた時ばちがあったんだと思った。
でも俺…兄貴と違って意地悪だから優しくねぇから夏純に嫌って言われても離れるの嫌なんだよ」と言った。
「何それ」と私が言うと朔は「ごめん」と呟く。
私は深呼吸してから「分かった。許してくれなくてもいい。だけど、これからも私の傍に居て欲しい。
だって…朔が居ない晩ご飯とか想像しただけで嫌だもん」と言うと彼はクスっと笑って「へいへい、作ってやんよ」と言って私の家に来た。
今日はササッと出来る味噌汁と昨日の米の残りと魚だった。和食だー!
朔の作ったものはなんでも美味しい。
多分、私は朔が好きなんだ。
この意地悪なフリした、根の優しい彼が。
風神君の事を思い出す。
あんな自分勝手な奴、私は初めて見た。
だけど…何かが引っかかる。
あれは、本当に風神君なのかな?小夜君みたいに無理してないかな?
『お前が地味?他の女ならともかくお前は綺麗だろ』と言った風神君の声が頭に反響する。
彼は、可愛いじゃなくて綺麗って言った。
どういう意味なのかな?
きっと彼が言うのだからお世辞じゃないの分かっている。
だからこそ意味不明。
こんな地味でなんの取り柄もない私が綺麗だっていう事が。
別に風神君の事を意識しているとかそんなんじゃない。
風神君はだって、私の大嫌いなタイプなんだから。
昔は好きだったタイプだけど。
でも、今と昔は違う。今は、もう違うんだ。
だから、なのに風神君の事ばかり思い出してしまう。
『人の気も知らずにっ!』と怒鳴られた事。
泣きそうだった。
悲しみが怒りになったんだよね。じゃあ、私が悲しませたんだよね。
櫻羽先輩の事はまだまだ分からない。
だけど、これから分かっていくのかな。
楓君はちょっと掴みにくいんだよね。
あんなにカッコ良いのに隠している。
前髪を伸ばしてマスクを付けて…。
でも、アイドル部ではマスクは外している。
前髪も目にかからないようにセンター分けにしているし…不思議な人だ。
めっちゃきれいなのに…。まるで、自分の姿を隠しているみたい。
登下校なんてフードと帽子被っているし…まるで不良だよ。
まぁ制服をちゃんと着ているからギリ不良じゃないけどね。
蛍…もう会えないのかな?朔に聞いてみる?でも、それってなんか嫌だ。
どうせなら私の力で見つけたい。
でも、どうやって?聞くのが一番だよね。
私は勇気を出して口を開く。「あのさ」朔が「ん?」と聞いて来る。
なのに…声が出ない次の言葉が言えない。震えが止まらない。
朔は「体調悪いならさっさと寝ろよ」と言い「じゃあまた明日」と言って帰った。
違うのに…蛍が今、何しているのか聞きたかっただけなのに…なんでなの?
震えはなんとか治まった。でも、胸が痛い。
また、聞きそびれてしまった。
蛍はどこの中学に行ったのかな。今も隣の家に居るのかな?ってなんで嫌いなタイプの人の事ばかり考えているのよ。
もう、忘れてしまえば楽なのにな。
忘れてしまいたいな・・・本当に忘れたい?
蛍と過ごしたあの日々を?
あの不器用な仕草も行動も言葉も忘れたくないよ。
だって、大好きだったんだよっ!
えっ?違うよ。今はもう嫌いなんだって。
蛍の事なんて嫌いなんだって!
あれなんでだろ?涙が零れてくる。
私、きっと好きになっちゃダメな人を好きになったんだ。
私にとって蛍は特別だったんだ。