僕が君に恋を教えてあげるから
放課後になりアイドル部に行く。女子のひそひそ声が聞こえる。
「ねぇ知ってる?アイドル部のマネージャー七夕さんなんだって」
「まじ?ないわー。絶対あたしの方が可愛いのにね」
「そうだよ。絶対、瑠璃ちゃんの方が可愛い!」
息が詰まる。やっぱりそうだよね。
私なんかアイドル部に相応しくないよね。
でも、だからってなんで見ず知らずの奴らにあんなふうに好き勝手、言われなきゃいけないの?
あの時だってそうだよ。
あんた達みたいな人が居なかったら私、今も蛍と居れたのに…。
なんてね、それはただの八つ当たりだね。
部室に着くと風神君が待ち構えていた。
「はい?」と言うと「よお」と言う。
「何?」と言うと「お前ってさ、時雨と付き合っているのか?」と聞かれる。
「付き合ってない」と言うと「じゃあなんで、登下校も夜ご飯も一緒なんだ?」と聞かれる。
「幼馴染だから」と答えると「時雨はお前と付き合いたいんじゃね?」と言われる。
当たっているから反論できない。っていうかこいつ無礼すぎるでしょ。
「風神君には関係ないでしょ⁉」と言うと「あるに決まってんだろ!お前ってさ、ほんと人の気も知らずにっ!」と怒鳴られる。
気づくと私は泣いていた。
「もうほんと意味わかんないっ!そっちこそ人の気も知らずにっ!
私はずっと必死なの!ハブられないように頑張っているのに邪魔しないでよ!
自分達が人気だっていう自覚があるなら地味な私の事も気づいてよ!」と私は泣き叫んだ。
風神君は「お前が地味?他の女ならともかくお前は綺麗だろ」と言った。
は?こんな時になんなの?と思っていると「俺はさ、お前が―」何か言いかけた風神君の後ろから櫻羽先輩がひょっこり現れる。
そして、「早く上がりなって」と言われる。
風神君、なんて言おうとしたんだろう?
部室に入ると小夜君が居た。
こっちを見て微笑みながら「玄関でめっちゃ言い合いしてたね」と言われる。
「うるさかったよね、ごめん!」と言うと「全然!悪いのは風神だから」と言う。
私は笑って「風神君は悪くないよ」と言う。
だって、本当にそうだから。
朔の事もあってカッとなっちゃったの。
そこに楓君もやって来て「夏純ちゃん。遅れてごめん」と言う。
私はホッとする。楓君は私の味方だから。
その時、小夜君がそっとこっちに近づいて来て「今日の放課後、部活終わった後、ちょっと話したいんだけど」と言われ頷いてしまう。
どんどん朔から離れていく。本当に謝れるかな?
部活が終わるのが五時。
そこから小夜君と喋ったら何時かな?
ちょっとって言ってたから五時半までには終わるよね。
風神君がこっちを睨むように見ている。
もうなんなのあいつ!と思っていると
「さっきは…悪かったな」と言われて私も慌てて「私こそ、ごめん」と言った。
気にしてたんだ…と今更気づいた。
櫻羽先輩が「夏純ちゃんってさ、好きな人とか居るの?」と聞かれて「いないです!」と言うと「ふーん」と言っている。
部活動は刻一刻と過ぎていって帰る時間になる。
私は小夜君と二人で歩く。
女子に見られたらきっとまた陰口…言われるんだろうな。
まぁ今更だけどさ。
小夜君は月桜公園で止まった。小道に入って行く。
もう日が沈み始めた。
もう九月も終わりが近づいている事に今更気づく。
夕焼けが綺麗だな。
この公園はいつも空が綺麗なんだよね。
っていうか小夜君の話ってなんだろう?
小夜君は深呼吸すると口を開き
「七夕さん。僕の、昔話…聞いてくれるかな?」と言ってきたのだ。
「えっ?いいよ」と私が答えると
「これは、僕がまだ小学生だった頃の話なんだけどさ。
僕って可愛いしカッコいいじゃん?
だから、いつも皆にチヤホヤされていたんだよ。
学校一の人気者だった。皆、僕を見て天使様だなんて言ってたんだよ。
正直、嫌だった。
まるで、見せ物になったみたいで生きている心地がしなかった。
だけど、僕は穏やかで優しい事を求めれられているから必死に皆の天使であり続けた。
ずっと、苦しくて、辛かった。
でも、七夕さんに出会って変わったんだ。
七夕さんは僕達を普通の男子と同じように見てくれる。
だから、きっと風神も七夕さん以外ありえないって言ったんだと思う。
だからさ、何か悩んでいるなら話、聞くよ?」と言ってきた。
私は気づくと「小夜君の素がみたい」と言っていた。
彼は「えっ?」と呟いた後「いいけど」と言い急に、表情が無くなった。
きっと作ってくれていたんだね。
私は今朝の出来事と、私の過去についてゆっくりと泣きながら話した。
話し終わるともう五時半だった。
「時が経つの早いね…」と私が言うと小夜君は「門限何時?」と聞いて来る。
「六時半だけど」と言うと「六時半までに家まで送るからまだ、傍に居て」と言ってきた。
息が止まる。
こんな事、言われたら誰だって意識しちゃうよ?
彼は「どうした?」と無表情で聞いて来る。
いつもと雰囲気が違いすぎるよ…。
だけど、嬉しい。
私の前だけ見せてくれているのかもなんて思ってしまう。
そんなわけないのにね…。
小夜君は「七夕さんは、きっと恋を知らなくてもいい。
僕が君に恋を教えてあげるから」と爆弾発言をしてきた。
「はぁ⁉」と言うと「ドキッとした?」と言われる。
いつもの小夜君だった。
彼は「やっぱこっちの方がしっくりくる」と言い
「だけど、たまにはさっきみたいになってもいいかもね。
七夕さんの前でだけだけどね」と言ってきた。
小夜君と居るとそれだけでドキドキする。
鼓動が早くて、心臓もつかなー?
なんてとぼけないとほんとに緊張する。
彼が呟くように「時雨君の事、そんなに気にしなくてもいいんじゃないの?」と言ってきた。
私は「でも、朔は私が辛くてどうしようもない時にずっと傍で、味方でいてくれた。
今更、それをなかった事になんて出来ないよ!
私の事、あんなに大切にしてくれるの朔だけなんだよ」と言うと小夜君は「僕も七夕さんの味方だし、とても大切に想っているよ。
でないと、部活の後まで一緒に居ないし、こんなに自分を曝け出さないんだけど?」と言う。
えっ?小夜君そんな事言うの?やっぱりこれって・・・いやいやそんなわけない!
二人で他愛のない話をしているうちにどんどん日は暮れて一番星が見えた。
もう六時十五分。私は、小夜君と一緒に公園を出る。
小夜君は本当に私を家まで送ってくれた。
別れ際に「また明日」と小夜君は言った。私も手を振る。