あの不器用さが大好きだった
私は恋なんてした事ない。好きになるってどんな気持ちなんだろう?
地味で出来損ないの私でも持てる気持ちなのかな。高望みじゃないかな?
それに、私は別にモテたいなんて思っていない。モテれば辛いだけだから。
昔、友達の男子に告白された事がある。小3の夏だった――今日は夏祭り!
楽しみだなー。あいつと行くの楽しみー!慣れない浴衣を着て下駄も履く。
髪も結って簪をさして家を出るとあいつが迎えに来てくれていた。
ルンルンしながら二人で夏祭りの場所に着く。「夏純。浴衣めっちゃ似合っている」とあいつは言ってくれた。少し赤くなる頬に気づきながら「ありがと」と答えた。本当にあっという間で楽しくて綿あめも美味しくてかき氷が歯に染みたりした(笑)
花火が上がった時は息が止まったかと思うほど綺麗だった。もう終わりかと思うと
寂しかった。帰り際にあいつは急に手を掴んできて「夏純。好きだ」と言った。
「えっ?」と思わず聞き返すと「付き合ってほしい」と言われた。
あいつの事は普通に好きだったし(友達としてだけど)オッケーしてしまった。
あいつの名前は時雨 蛍。私の一個上のクールな男子。
朔の兄だ。学校一のモテ男だった。だから、私はいじめられた。
蛍と付き合ったから。私は学校全員の女子を敵に回してしまったんだ。
蛍はすぐに気づいた。そして、いじめている奴らに怒った。
彼女らはあんたのせいで私が怒られたとエスカレートしていった。
次第に学校に行くのが嫌で、嫌で仕方なくなった。そんな時、私に手を差し伸べてくれたのは、朔だった。あいつじゃなくて朔だった。私の心を助けたのは朔だ。
「学校が嫌なら行かなくていいんじゃね?小学校は成績、関係ねぇから。一緒に
月桜学園、受けようぜ。俺と一緒にあいつらから逃げよう」と言ってくれた。
あの言葉に私はとても救われた。蛍とは気づけば疎遠になっていった。
きっと私が好きだったなんてあの時だけの気の迷いだったんだよ。
あんな嘘に振り回されたとかほんと私ってバカみたいだね――そして、今に至る。
だから、私にとって恋愛は本当に怖い。蛍が今どこで何をしているかも知らない。
もう友達にすら戻れないんだ。蛍はカッコ良かった。私の好きなタイプだった。
でも、今は私の嫌いなタイプだ。私は今、穏やかで優しい人を好んでいる。
イケメンじゃなくていいから。人気者じゃない方が嬉しいから。
だって、人気者と一緒に居たらまたハブられて無視されて最悪だから。
正直、友達も今はいらない。作ったら最終的に幻滅されるのがおちだからさ。
そうやって嫌われて生きていくのが私の人生なんだよ。それが嫌だから逃げた。
ただそれだけなのに胸がチクチクと痛むのはどうしてだろう。
あいつに会いたい。あの、バカで本当は繊細でクールなフリした意地悪な奴に。
朔に言えばすぐに会えるのは分かっている。だけど、そんな勇気はないの。
蛍の不器用な笑顔が好きだった。あの不器用さが大好きだった。
優しさも、接し方も、話し方も、表情も、全て不器用だった。
でも、手先は器用なのよ。別れを告げたのは私だった。蛍は何も言わなかった。
「そう」と一言呟いてあっさり受け入れた。それが、悲しかったのを覚えている。
連絡先さえ交換していなかった事に離れて初めて気が付いた。
涙が気づけば零れていた。自分の部屋で一人になるといつもこれだ。
今日は、中々止まりそうにないなー…。全部、あいつらが悪いんだ。
風神君が変な事、思い出させるから。涙が止まらなくてベランダに出ると、
星空が輝いていた。その時、隣の家のベランダから彼が手を振って来た。朔だ。
朔はすぐに泣いている私に気が付いて「どした⁉何があったんだ?」と聞く。
黙っていると「今からそっち行く」と言ってフワッとベランダを飛び越えて、
私の所に来た。えっ?と思っている間に抱きしめられていた。
ドキドキする。さっきまで悲しかったのに彼に触れた瞬間、吹き飛んでしまう。
まるで、魔法みたいだね。「なんかドキドキするから離れてよ」と私が掠れる声で
言うと彼は「嫌。なんか離れたくなくなった」と言ってベランダで押し倒される。えっ⁉となっていると星空が視界に映る。彼が抱きしめているから体は痛くない。でも、心臓はもう壊れそうなくらいだよ。必死に星空を見て気を紛れさせる。
なんでこんなにドキドキするのよ⁉相手は朔だよ。ただの幼馴染なのに…。
ただの?本当にそうだろうか?私は彼に救われた。辛かった時、助けてくれたのは彼だ。でも、それとこれとは別だよ‼ほんとにどういうつもりなの朔。私は、
「遊びなら本当にやめてくれる⁉最低だよ‼」と私が言うと朔は仕方なさそうに「遊びなわけねぇだろ」と言い真剣な顔で「この際もう正直に言う。俺はお前が、
夏純が好きだ。結婚を前提に付き合いませんか?」と言ってきたのだから私は、
ポカンとしたまま、「考えておきます」と言った。彼は颯爽と自分の部屋に戻った。本当に何だったんだろう?まだ頭が整理できていなくて理解できない。
えーと何々・・・「は?えぇー⁉ど、どうしてー⁈」と叫んだ。
親たちに「うるさい」と怒られたのであった。