彼は風に乗る鳥みたいだ
雪桜島に着き、バスを降りる。暑い島だ。ヤシの木が生えている。
なんか南国の島に来たような気分になる。雪空町と全然違う!
雪空はむしろ北国って感じだったもの。
自分の部屋に行き、休憩する。翠ちゃんが「朝影さんって好きな人居るの?」と
楓に聞いている。楓はさらりと「夏純が好きだけど?」と言う。
翠ちゃんは驚き、笑い出した。そりゃそうだよね。私も、冗談がきついと思う。
楓が「本気だから!楓は夏純のknightなんだから」と言う。
私と翠ちゃんが固まると「やっと分かったようね」と勝ち誇ったように言う。
ふと颯の事を思い出し、また胸が締め付けられるような想いになる。
どうしてなの?私、颯の事…。分からない。でも、もしかして…って思った。
その時、颯からLINEが来る。【北の塔で今日の夜の十一時に待っている】
どうしたのかな?と思いつつ返事が出来ない。今朝の事を思い出してしまう。
翠ちゃんが颯を好き。だから、行ったらダメなような気がしたの。
これ以上、友達が居なくなるのは嫌だから。
スマホを自分のベッドに置いて楓達と雑談をする。ごめんね、颯。
宿泊棟は東にある。北の塔に行くのってちょっと遠い。
十五分くらい歩かなきゃ行けない。食堂で夜ご飯を食べ、お風呂に入る。
明日の島の散策、楽しみだなと思いながら寝る準備をする。
もう十時だった。十時半には就寝だから早く電気消さなきゃ…。
颯はどうやって十一時に北の塔に行くつもりなのかな?見回りの先生は?
翠ちゃんが「風神君って誰と同じ部屋だったかしら?」と聞かれ
「天海君と誰だったかな?」と私は言う。
気付けば皆、寝ていた。私は眠るまで颯がずっと心配だった。
北の塔に行ったのかな?――廊下が騒がしい。目が覚める。
先生達の声が聞こえる。「北の塔で火事があったらしい」
「本当に?でも、関係ないんじゃないの?」
「今は皆、宿泊棟にいるしな」
北の塔で火事?嘘、でしょ。時刻は深夜二時。もう、帰ったよね?
心配で仕方ない。先生達はどこかに消えて行った。
颯に電話を掛けるが繋がらない。深夜だからかもしれないけど…。
天海君に電話すると繋がった、颯は?と聞くと北の塔に結構前に行ったと言う。
怖い。もしも颯に何かあったらと思うと心臓がおかしくなる。
私は気づけば部屋から抜け出していた。隠れながら北の塔に向かう。
全速力で行く。着くと火が上って行っている。
塔の前の池に飛び込む。体中びしょびしょだ。
でも、これでちょっとは火傷を防げるよね。
私はぬれたタオルを口元に巻いて走って行く。
今にも壊れそうな階段を駆け上がる。颯が居なくなるなんて嫌だ。
やっと仲良くなれたのに…。このまま、気まずいまま終わるなんて嫌。
屋上に着き扉を開けると颯が倒れている。近くに行くと寝ているようだ。
私は揺さぶり起こす。「このままじゃ私達、死ぬよ⁉」と言うと颯は飛び起き、
「飛び降りるか?」と言ってきた。はぁ⁉と思っていると「俺の運動神経なら上手く着地できると思う」と彼は言う。
私は「怖いよ!」と言うと
「この火の中には突っ込めたのに?」と言われる。っ!確かにそうだけど!
私、高い所は苦手なんだよっ!彼は颯爽と飛び降りようとしている。
置いて行く気⁉と思っていると「俺が先に落ちるから、俺が着地してから合図したら飛び降りろ!」と言われる。
「無理だよ‼」と言うと
「でぇじょうぶ!俺が絶対、守るから」と言われる。
信じていいのかな?
信じるに決まっているじゃん!颯を失うくらいなら自分が傷ついてもいいと思った。だから今、私はここに居るのよね。私が頷くと彼は飛び降りた。
まるで、彼は風に乗る鳥みたいだった。
彼はバシャンと池に着地した。水しぶきが上がり彼はサッと立ちあがる。
そして、ブイサインをして来る。私も勇気を出して飛び降りる。
このまま死んでもいいと思えた。彼が生きているだけで私、幸せなの。
不思議だよね。こんな気持ち、知らない。今までは怖かった。
でも、今は怖くないよ。私、きっと――




