表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/55

エピローグ


 アーメント侯爵たちの謀反騒動は皇宮内に瞬く間に広がり、皆が動揺し大騒動となった。

 当然、トランジ王国側は無関係だと主張している。

 だが、前時代の悪政を正そうと動いていた者たちによって証拠は押さえられており、言い逃れできない状況であった。


 その中には、現アーメント侯爵とトランジ王国側との不正取引を先代アーメント侯爵に気づかれたため、事故に見せかけて殺害したことも判明したのだった。

 先代アーメント侯爵ほどの魔力の持ち主でも、さすがにトランジ王国の魔術師が関わっていては避けようがなかったのだろう。

 他にも現アーメント侯爵の余罪は多くあり、死罪は免れないようだ。

 今後はトランジ王国側の責任と賠償を求めた交渉となることが確実だった。


 とはいえ、皇宮内の者たちはそれらの過去の悪行やトランジ王国云々よりも、クロディーヌがレオルドを――皇太子を略取しようとして捕らわれたことのほうが衝撃だったらしい。

 だが公正に裁かれることを目的とした公開裁判で、クロディーヌは己の不満を喚き散らした。


「どうして私がこんな目に遭わないといけないの!? 私は皇妃になるべきだって、みんな言ってたじゃない! ルシエンヌなんて皇妃に相応しくない、ただ子ども一人産んだだけだって! 陛下に愛されているのは私なのに!」


 公の場で髪を振り乱し泣いて暴れるクロディーヌをおとなしくさせるために、衛兵は苦労したようだ。

 その姿を目にして、当初は何かの間違いではないかと思っていた者たちも、自分たちが信じていたものが嘘だったと気づき、反省することになった。

 そして反省もしない者たちは、アーメント侯爵や他の反逆者たちの罪が暴かれていくとともに、また新たな噂を始める。


 ――そういえば、殿下のお世話を甲斐甲斐しくなさっているというわりに、毎日華やかな催しに出席されていたわよね。

 ――俺は最初からおかしいと思ってたね。皇宮内を歩くときだって、ずいぶん偉そうで使用人が姿でも見せようものなら無礼だって怒鳴り散らしていただろう?

 ――私も同僚も態度が悪いって物を投げつけられて、危うく解雇されるところだったのよ? 

 ――皆はずいぶん崇めているようだったから言い出せなかったけど、もっと昔から……そうお妃候補のときから意地の悪い方だったわ。


 などといった話があちらこちらで交わされるようになっていた。

 同時に、ルシエンヌはレオルドの母親としての献身的な姿が称賛されるようになり、さらには人事改革を行ったことにより、威圧的な上長から解放された使用人たちから圧倒的支持を得ている。


「みんな勝手すぎますわ! ルシエンヌ様は昔から変わらず、ずっと素晴らしい方ですのに!」

「ほんと、そうですよ! 最近お仕えすることになった私でもすぐにわかるほど、皇妃様はお優しくて素敵な方ですのに!」


 最近の噂について、リテや他の侍女たちが怒りながらルシエンヌの支度をしていく。

 ルシエンヌは何と答えればいいのかわからず、苦笑するだけで誤魔化した。

 そこにレオルドの訪問が告げられ、小さな足音とともに可愛い顔がひょこっと覗く。


「わあ! かあしゃま、きれ~です!」

「ありがとう、レオルド。あなたもとってもかっこいいわ」


 ルシエンヌが正装姿の小さな息子を褒めると、レオルドは嬉しそうに頬を赤くする。

 その可愛さにその場の者たちがきゅんきゅんしていたが、一番に心を鷲掴みにされたルシエンヌはレオルドに駆け寄り抱きしめたくなる衝動を必死に抑えた。

 なぜならルシエンヌもまた正装し、かなりゴテゴテと飾り立てられているからだ。


 今日はクレイグの即位三周年を祝う式典が開催される。

 即位式のときは、先代皇帝の喪中ということもあり、華々しいものではなかった。

 そのため、祝賀会とともに、皇太子であるレオルドのお披露目を盛大に行うのだ。

 ルシエンヌが公の場に出るのも久しく、皆がこの日をかなり前から待ちわびていた。


 ただし、即位三周年祝賀というのは名目で、このたびの謀反騒動による人々の不安を払拭することが狙いだった。

 皇宮内の噂はいつも王都へと広がり、国中へ伝わっていくものである。

 この三年で改革を行ってきたクレイグやその側近たちは、先代皇帝時代からの旧弊な体制を刷新し、新しい時代の幕開けを知らせるとともに、国民に希望を与えるために式典を開催することにしたのだ。

 それには、皇妃であるルシエンヌと才能ある皇太子レオルドの存在が不可欠であった。


「――本当に私でいいのか不安だわ……」


 国民の期待を一部とはいえ背負っていると思うと、ルシエンヌは思わず弱音を漏らしてしまった。

 それを聞いたレオルドが、リテたちよりも先に叱るように言う。


「かあしゃま、ぼくはかあしゃまがいいんです。みんなもいっしょ。だって、かあしゃまはとってもやさしくて、あったかいですから!」


 レオルドの言葉に、リテたちがうんうんと頷いている。

 ルシエンヌは励ましてくれたレオルドにお礼を言おうとして、ついふふっと笑ってしまった。

 むうっと眉を寄せた顔は父親にそっくりで、喜びが幸せとともに溢れてしまったのだ。

 レオルドは不本意そうに唇を尖らせる。


「違うの、レオルド。あなたを笑ったわけじゃないの。励ましてくれて、ありがとう。すごく嬉しいわ」

「でも……」

「そうね。笑ったのはよくなかったけれど、あまりに幸せすぎて我慢できなかったの」

「しあわせ、ですか?」

「ええ。レオルドがあんまりにも父様にそっくりなお顔だから、とっても素敵だなって思ったの」

「とうしゃまにそっくり……」


 ルシエンヌの説明を聞いて、レオルドは一度ゆっくり繰り返すと、嬉しそうにえへへと笑った。

 再びルシエンヌやリテたちはその愛らしさに胸を押さえて一緒に微笑んだ。


「でも、とうしゃまは、ぼくがかあしゃまにそっくりってよろこんでくれます」


 恥ずかしそうに言うレオルドのいじらしさはさらなる破壊力をもって、ルシエンヌたちの心を撃ち抜いた。

 リテも他の侍女たちも両手で口を押さえたり、深呼吸したりと忙しない。

 ルシエンヌもついに耐え切れなくなって、屈みこんでレオルドを抱きしめた。


「かあしゃま、どしたですか?」

「レオルドが大好きすぎて、抱きしめたいの」

「ぼくもだいすきです」


 えへへと笑うレオルドの声が耳元でまた聞こえ、ルシエンヌは抱きしめる腕につい力を入れてしまった。

 すると、レオルドがきゃっきゃっと楽しそうな悲鳴を上げる。


「かあしゃま、くるしいです」

「――では、私がレオルドの代わりになろう」


 突然クレイグの声が割って入り、驚いたルシエンヌからレオルドはひょいっと奪われてしまう。

 あっと思ったときには立たされていて、クレイグに抱きしめられていた。

 足下ではレオルドがクレイグのズボンを引っ張っている。


「とうしゃま! ずるいです!」


 音もなく登場したクレイグの肩越しに、静かに部屋から出ていくリテたちの姿が見える。

 リテたちには後でまたドレスや髪を整えてもらわなければと思っていると、クレイグはルシエンヌの頬に軽く口づけてレオルドを抱き上げた。

 レオルドは満足げな嬉しそうな声で笑う。

 ルシエンヌは恥ずかしがる間もないほどの幸せな展開に、胸がいっぱいになってしまった。

 そのとき、大きな鏡に喜びに満ちあふれて笑う自分の姿が目に入る。

 ルシエンヌの頭には代々皇妃に受け継がれるティアラが輝き、先代皇妃のオレリアを思い出して目を細めた。

 今、クレイグとレオルドと並ぶ自分を見ると、両親だけでなくオレリアにもこの姿を見せたかったと切実に思う。

 

「ルシエンヌ? 大丈夫か?」

「かあしゃま?」


 ルシエンヌが泣きそうになっていることに気づき、クレイグとレオルドが心配して顔を覗き込んでくる。

 父子のよく似た顔には先代皇妃の面影があり、ルシエンヌは嬉しくなって微笑んだ。


「あまりにも幸せだから、ちょっと感傷的になったみたい」

「……そうか」

「かんしょうてき?」


 ルシエンヌがそう答えると、クレイグは優しく答え、レオルドは可愛く首を傾げる。

 改めてルシエンヌが鏡に向き直ると、クレイグもレオルドもその視線を追った。

 大きな鏡に映った三人の姿は幸せな家族の肖像そのもの。

 クレイグもそのことに気づいたのか、鏡の中で温かなまなざしを向けられる。


「かあしゃまも、とうしゃまも、にこにこです」

「レオルドもにこにこね?」

「はい! ようせいさんがぼくのおねがいをきいてくれたので、いっぱいしあわせなんです」


 レオルドが父と母の顔を交互に見ながら嬉しそうに言う。

 ルシエンヌも二人を優しく見つめて言えば、元気な返事とともに嬉しい言葉が返ってきた。


「ありがとう、レオルド。おかげで父様も母様とレオルドがいてくれて幸せだ」


 クレイグまでレオルドに続くと、ルシエンヌにさらに寄り添いキスをする。

 途端にレオルドが歓声を上げ、ルシエンヌとクレイグは愛する息子に両側からキスをしたのだった。


 その後、親子三人で皆の前に姿を現した皇帝一家は幸せに満ち溢れており、誰もが喜び祝福の声を上げた。

 やがて〝魔力酔い〟の治療方法が確立されるとともに、魔力の強い者が多く生まれるようになり、帝国はかつてないほどに栄え、次代へと引き継がれていったのだった。








 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 評価、感想など、とても励みになりました。

 おかげさまで、なんと! こちらの作品『奪われた愛しの我が子を取り戻したら、夫の溺愛が始まりました。なぜ?』の書籍化が決定いたしました!

 ありがとうございます!!

 レーベル名など続報は追ってお知らせいたします。

 何より、クレイグからの溺愛がまだまだ足りないので、番外編として更新いたしますので、よろしくお願いいたします。

 ひとまずは、キリのいいここまで・・・ということで、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読ませていただきました、面白かったです クレイグは物語前半までダメダメだったけど周りの環境もあったし 真実に気づいてからは真摯に謝った上で必死に挽回しようとも頑張ってたのでまぁお幸せにって感じかなぁ
エピローグ読了! めでたいわー レオルドきゅん、キュンキュンだわー おふたりもしゃーわせで、3人が相乗効果でふわふわなのでふっわふわ! かんけつおつ!しょせきかおめ! しゃーわせなお話をあざした…
素敵な物語をありがとうございました。 毎日 更新してくださったこと とても有り難く、物語の中に 浸り ワクワク感を持続したまま読ませていただけました。 書籍化の事 おめでとうございます。 番外編もたの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ