05 クリスマス
好きな気持ちを抱えながらも告白出来る訳もなく時間は過ぎていた。
だが、時間の経過の分だけ仲は良くなっていたように思えていた。
そんな中迎えた一年生の冬休み。
クリスマスで賑わってる街をプレゼントを探しに一人散策していた。
「……何て言って渡せばいいんだよ」
自分に突っ込みながらも、とりあえずは買ってから考えようという計画性のなさ。
それが故に色々な店に寄っても何を選んでいいか分からず、なかなか見つけられないでいた。
少ない小遣いで買える物はたかが知れてる。
それでいて役に立つ物をあげたい。
結局、僕が選んだ物は膝掛けだった。
確か職員室で使ってた先生の膝掛けはだいぶ使い込んであった記憶がある。
どうせなら日常で使える物がいいと考えた。
クリスマスの当日になったらどうにか渡せばいいやと楽観的に考えていた。
先生の喜ぶ顔を浮かべながら。
◇ ◇ ◇
「そう言えばさ、橘、この間男と歩いてるの見たぜ」
部室で着替え中に聞こえた友達の言葉にショックを受ける。
「マジ? 彼氏か?」
「っぽいな。男、いるんだなー」
冷静さを保ちながら、会話に参加出来ずに耳を傾けることしか出来なかった。
しゃべったら余計な事を口にしてしまいそうで……。
先生に彼氏がいないと聞いたのは夏だった。
あれから時間も経っている。
好きな人が、彼氏が出来てもおかしくないだろう。
僕が仲良くなれたと思っていたのも所詮生徒のレベルの話しに違いない。
勝手に浮かれてた自分が恥ずかしくなっていた。
「どんな奴だった?」
「普通のサラリーマンかな。年下っぽかったかも」
聞けば聞く程空しい。
先生への片思いも、気持ちを伝えることなく終わってしまうのだと思っていた。
◇ ◇ ◇
――クリスマスの当日。
部活の練習の前に誰もいない職員室に入ると先生の机の上にそっとプレゼントの包みを置いた。
捨てられるはずもないプレゼントは先生の為に買った物だ。
やはり先生に貰って欲しかった。
「あ、沢田君。ちょっといい?」
部活が終わった後に先生に呼び止められる。
「先帰ってるぞ」
「ああ、いいよ」
先に帰る友達を横目に先生の元へ近づく。
もしかしてプレゼントに気づいてくれたのだろうか?
しかし、あの包みだけ見て僕と分かるはずはない。
「何ですか?」
「ねえ、もしかして机の上にこれ置いてた?」
それは確かに僕が置いたプレゼントの包みだった。
どうして僕だって分かったんだろう。
「バレちゃった。クリスマスだしね。先生には世話になってるから」
素っ気ない口調になってる。
彼氏のいる人に、こんなことしたのが恥ずかしい。
やはり渡さなければ良かったと後悔した。
「ありがと! いや〜ん、もう! 嬉しいな。クリスマスにプレゼントなんて!」
意外にもはしゃいで喜ぶ先生の姿があった。
それはいつものおどけてはしゃぐ先生だった。
「でもさ、先生は他にも貰う相手いるでしょ?」
「いないよ、そんなの。何言ってんのよ」
「えっ? だって彼氏と歩いてる所見たって」
「彼氏? 誰が?」
「先生」
「あはは。いないよ。何と勘違いしてるのよ」
笑いで一蹴する先生に、友達から聞いたこの間の一件を話した。
「あー、そっかそっか。なるほどね。あれは弟よ、弟」
「弟?」
「そう。弟」
一気に体の力が抜けていくのも一瞬、まだ望みがあることにすぐに力が湧いてきた。
「へえ〜、彼氏と勘違いしてたんだ」
「だよね。よく考えれば先生に彼氏なんか出来ないよね」
――ビシッ!
「失礼ね! 沢田君はー」
先生のいつもの突っ込みが頭を的確に捕らえるが、全く痛みは感じない。
「先生。それより何で俺だって分かったの?」
「んー……。何となく?」
プレゼントしたのが僕とすぐに気づいてくれて嬉しかった。
「開けていい?」
「いいよ。大した物じゃないけどね」
「気持ちが嬉しいのよ」
本当にまだ望みはあるのだろうか。
先生と生徒の関係を超えることが出来るのだろうか。
本当は僕の気持ちに先生はもう気づいているんじゃないだろうか。
気にすることはたくさんあったけど、今は忘れていたかった。
「ブランケット? ありがとう。大切に使わせてもらうわ」
その言葉だけで僕は満足出来る。
「私、何も返す物ないなぁ。後で絶対返すからね」
「そんなのいいよ」
プレゼントに喜ぶ先生の笑顔が僕の何よりのクリスマスプレゼントだったと思う。
もちろん、そんなこと言えないのだけれど……。
「んっと……。メリークリスマス、先生」
「うん。メリークリスマス。沢田君」
来年のクリスマスは一緒に過ごしていたい。
そんな思いを心の中で僕は願っていた。
誤字報告して下さった方、お陰で直せました。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました(*^^*)