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02 彼女

「お茶でいい? 冷たい物の方がいいかしら?」


「あ、お構いなく」


 見るからに古くて、しかも小さなアパートに一人暮らし。

 先生とはいえ若い女性。

 こんな所に住んでると知った時は意外だった。

 しかし、近くにコンビニやスーパーがあり買い物には苦労しなさそう。

 それでいて周りは静かで家賃も安いらしい。

 住めば都とはこのこと。

 案外悪くない住み心地だと聞いていた。


「フンフン♪ フ〜ン♪」


 鼻歌を歌いながらお茶を用意する先生。

 帰って来たばかりのようで、まだ着替えもしていない。

 学校で見たスカートとブラウス姿のまま。

 同世代の女子には感じることのない大人の色気が出ている。


「お待たせ。喉渇いてると思ったから冷たい物にしたわよ」


「うん。ありがとう」


 腕捲くりをした腕からはしなやかな手。

 近くで見ると白いブラウスから、うっすら下着のラインも見えている。

 そんな目で先生を見るのはいやらしいかもしれない。

 しかし、学校でも僕と同じような目線で見てる奴がいるかもと考えると、どうしても嫉妬心も出てしまう。


「どうしたの?」


「な、何でもないっす」


 そんな小さなことでイチイチ目くじら立てると、また子供扱いされるのは分かっている。

 ついこの間まで一介の生徒でしかなかった。

 先生と対等に一人の男として、彼氏として付き合って行くことを決めたばかりだったはずなのに……。


「ちょっと、今日は……」


「分かってるけど」


「勉強するって言うから呼んだのに」


「でも、ちょっとだけ」


 だいたい先生が悪いんだ。

 そんな無防備な格好でいるんだから。

 軽く抵抗する先生の手を振り解き、唇を重ねる。 

 キスをしてしまえば先生も応じてくれる。

 唇を離すと、先生の目が潤んでいた。

 

「あんまり見ないで。恥ずかしいでしょ」


 照れて俯く先生のかわいらしい表情に思わず僕の方も顔がニヤけてしまう。

 以前は、あいつらにも先生の色っぽい仕草やかわいらしい姿を知って欲しいと思っていた。

 でも、今はもう誰にも知られたくない。

 先生がこんな顔をすることを……。

 僕以外の誰にも見せたくないと思っていた。


 ――ポカッ!


「何笑ってるのよ」


「何でもないよ」


 笑ったつもりはなかったが、勝手に顔が緩んでいた。

 笑った僕が気にくわない先生は照れ隠しに頭を叩いてくる。


「勉強するって言ったでしょ」


「ちゃんとします! 分かんないトコあったら教えてよ」


「いいわよ。ちゃんとするのよ」


 先生の顔もようやく笑顔になっていた。

 約束通り、先生に言われた通り苦手な数学の勉強に励んでいた。

 テーブルに座った向かい側で先生が僕を眺めている。

 先生の顔もどこか満足そうに見えるのは気のせいじゃないだろう。

 その証拠に途中で手が止まると先生が喜んで教えてくれた。

 苦手とはいえ、この状況ではさすがに勉強もはかどるというものだった。


「あー、もう……」


 途中、先生がテーブルに伸ばした手の上に顔を乗せながらため息をつく。


「どうしたの?」


「学校でもこうしてちゃんと教えてたのに……」


「まだ言ってるの?」


「だってね、すぐキスしてくるんだもん」


 頬っぺを膨らませた先生が目を細くして僕を睨んでいた。

 時場所問わず、キスをせがむ僕に文句を言っている。

 確かに強引にやり過ぎてしまった感は反省しなければならない。

 何せ人に知られてはいけない関係なのだから。

 それにしてもずいぶん甘えた口調で接してくるようになった気がする。

 何だかそれが嬉しい。


「先生がさ、その……かわいいのが悪いんだよ」


 恥ずかしい台詞に言い返して来ないが口元は緩んでいる。

 嬉しいのが表情から見て取れていた。


「嘘ばっかり」


「本当だって」


「……ありがと。そんなこと言ってくれるの真一だけだよ」


 照れながらでも、真剣に言ってる僕の言葉に嘘はない。

 それを知ってか先生も本気に受け取って照れていた。

 こういう言葉に言われ慣れてない先生はすぐに顔に出る。

 純情というか、素直というか。

 この辺がかわいらしい一面でもあった。


「私達は恋人……なんだし。別にキスくらいいいんだけどね。でも、そればっかりに夢中にならないでね」


「分かってます」


 先生に怒られるのも仕方ない。

 この頃会う度に触れ合いを求めてしまう。

 恋人同士になれたことに浮かれていた。

 先生はそれを心配しているのだろう。

 それを払拭するかのように、勉強もちゃんとやって見せていた。


「そろそろ帰ります」


「そうね。もうこんな時間」


 あれから一時間以上が経った頃だ。

 周りもだいぶ暗くなり、僕は帰り支度を始めた。


「じゃあまた。明日学校で」


 そう言って玄関を出ようとしていた。


「あ、真一」


 呼び止める先生の声に振り向いた。


「嫌いって意味じゃないからね」


「?」


「キスするもだけど、真一もってこと」


「?」


「さっきの話しの続きよ」


 まだ気にしてた。

 僕はそんな風に受け取ったりしてない。

 学校での凛々しい姿と違って、そんなことをウジウジ考える先生のギャップにまた笑いが込上げていた。


「人が真剣に話してるのに笑わないでよ」


「ごめん。でも、おかしくってさ」


「どうしても先生と生徒ってのがまだ頭にあるんだよね」


「それは仕方ないよ」


「でもね、私……真一のことホントに好きだから」


 先生の思わぬ言葉が照れ臭い。


「お、俺も先生が好きだよ。」


「知ってる」


 微笑み返す笑顔でお互いの気持ちは確認出来ていた。


「周り大丈夫?」


「大丈夫。バレたら大変なのは俺も分かってるよ」


 周りをよく確認してから先生のアパートを後にした。

 正式に付き合い出して、まだ数ヶ月。

 先生と生徒なのは間違いないが、ちゃんと恋人関係を築いてたと思う。

 禁断の関係にも思える中、少しづつだが確かに愛を育んでいた。

 未だに信じられないけど現実だった。

 先生が僕を意識してたのは実はかなり前からだった。

 僕の方はもっともっと以前から。

 出会った頃から先生は僕にとって気になる存在だった。

次回から過去話が少し続きます。

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