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19 さよならも言わずに……

「橘先生は一身上の都合で退職されました」


 新学期早々、僕の耳を疑う言葉が飛び込んでいた。

 依願退職。

 先生は健康面を考慮して学校を急遽退職したと言う話しだった。


「先生っ!」


 ホームルームが終わると、僕はすぐに担任の元へ駆け寄る。


「後で」


 それだけ言うと周りの目を気にしながら担任は僕の肩を叩き、その場を立ち去ってしまった。

 頭がこんがらがっていた。

 退職した責任は僕との関係にあるのは、どう考えても明白だ。


「橘の奴、生徒に手出したらしいな」


 ――!!


 先生の辞めた理由がはっきりしていないはずなのに、そんな噂が立っていた。

 いったいどこから出て来たんだろう。


「淫行教師ってか?」


「よくやるね」


「物好きっているんだな」


 先生を悪く言う噂に腹腸が煮えくり返る。


「沢田ー!」


 勝手に先生の話題で盛り上がってる連中の一人が僕の元へやってきた。


「お前だろ? 橘の相手って?」


 肩に腕を回し、見下したような笑みを浮かべて笑ってくる。


「仲良かったもんな、お前。なぁ、やったりしたの?」


 ――ボカッ!


「痛ってぇ! 何すんだよっ!」


「うるせーんだよっ!」


 初めて人を殴った。

 それから殴り合いをしたらしいが、全く記憶はなかった。

 拳が痛い。

 そして、顔や体に痛みが感じる。

 同じように殴られたんだろう。


   ◇   ◇   ◇


「理由はだいたい分かった。お前も傷ついてたんだろう」


「それよりも先生……」


 担任に生徒指導室に呼ばれたが、喧嘩や怪我よりも先生のことが気になっていた。


「もし噂がPTAや世間に広まったら、それこそ学校を巻き込んでエライことになるかもしれない。お前も分かるだろ?」


 確かにそうだ。

 現に一部だが、噂は尾ひれをつけて生徒の間に広まっていた。


「橘先生な、学校やお前を守る為に学校をお辞めになられたんだ」


「俺を守る為って……」


 淫行教師のレッテルを貼られても、先生は本当は学校に残るつもりだった。

 しかし、もしそうなった場合、非難の的はいずれ僕にも飛び火する。

 噂が大きくなる前に先生は僕を思って辞めることを選んだ、と言う。

 すべての責任を自分が被って……。


「何で……。何でそれが俺の為になるんだよ」


 相手に怪我をさせた僕は三日間の停学を命じられた。

 しかし、そんなことは最早どうでもいい。

 僕は先生のアパートへ走っていた。


「……どうして」


 いつも行ってた先生のアパートは鍵が閉められ、住んでる気配がない。

 もう先生はいない。

 僕はどうしていいか分からず、その場に立ち尽くしていた。

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