17 暴かれた関係
すべてが順調に進んでると思っていた。
先生との関係も、将来へ夢も見えてきた。
僕は希望に満ち溢れていたんだ。
「沢田。明日ちょっと学校に来い」
夏休み中にも関わらず、突然の担任から呼び出された。
呼ばれた理由は、だいたい予想がついている。
夏休み前の進路希望の提出だろう。
先生には相談して、体験学習も受けたが担任への提出を出来ないままでいた。
◇ ◇ ◇
「先生、進路のことですが、実は――」
「いいから、ちょっと来い」
次の日、学校に着くと担任の険しい表情にただならぬ空気を感じる。
連れられて来られたのは校長室だった。
校長はもちろん、教頭に加えて先生も待ち構えていた。
嫌な予感が頭を過ぎる。
「沢田君だね。ちょっと良からぬ噂が耳に入ってきてね」
重苦しい雰囲気の中、校長が口を開く。
「君と橘先生のことだけど……」
ため息をつく校長。
「個人的に橘先生の家に出入りしてるって話しを聞いたんだが本当かな?」
予想をしてなかったといったら嘘になる。
ここに呼ばれた時点で察しはついていた。
汗が吹き出る。
何と答えていいか分からず、僕はただただ戸惑っていた。
「あの……いえ、それは……あの……」
返事に困る僕を見た校長や教頭は、やっぱりと言った表情で顔を歪める。
「生徒から情報があってね。そうか……。本当だったか」
いったい誰が僕と先生のことを?
いつ見られたんだろう?
考えても誰か想像出来ない。
気の緩みのせいだ。
調子に乗ってた罰だ。
知られたこと、見られたことは間違いないだろう。
先生はあれだけ注意してた。
きっと僕だ。
「申し訳ございませんでした」
一歩前に出た先生が深々と頭を下げた。
「この件は、すべて私に責任があります」
「先生!? 違うよ、俺だって――」
「いいから黙ってなさい」
どうしていいか分からず、しどろもどろな僕を先生は一喝する。
僕とは違って凛とした表情で校長や教頭に向かっていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「沢田!」
取り乱した僕を制した担任の先生が、興奮した僕を校長室から無理やり連れ出した。
「落ち着け」
「落ち着けって言われたって! いったい誰が俺と先生のことを……」
「……ちょっとここで頭冷やしてろ」
怒りの矛先は学校に報告した奴のことだった。
しかし、そんな怒りは少し時間が経つと治まっていく。
それよりも気にしなければならないのは先生の処遇だった。
僕は校長室に戻らなければならないと思い立った。
「沢田」
戻って来た担任の先生が僕の腕を引っ張る。
「とりあえず帰っていいぞ。夏休みももう終わるからな。しばらく家で大人しくしてるんだ」
「帰っていいって。あの、橘先生は?」
「いいから今日は帰れ」
どうなってしまったかも分からず、ただ家に帰ることを命じられた僕は仕方なく帰路につく。
腑に落ちない気持ちを抱えたまま、僕はその夜、先生のアパートへ出向いた。
呼び鈴を鳴らすと、部屋の向こうから聞こえる足音。
先生も戻っていたのに、ひとまずホッとする。
「先生」
「何してるの。さっきあんなことあったばかりでしょ?」
ドア越しに会話する先生の声は怒ってるようにも聞こえる。
「いや、だって……」
「大丈夫よ。心配しないで。今も会ってたってことが分かったら、それこそ大変なのは分かるでしょ?」
「そうりゃそうだけど……」
「ちょっと怒られただけよ。ホントに心配しないで。ね、真一」
先生の優しい言葉に、どうにか落ち着きを取り戻す。
「……しばらく会わない方がいいわね」
先生の言葉の意味はさすがに理解出来ていた。
先生と僕はいったいどうなってしまうんだろう。
すべてが順調だと思っていた昨日までが嘘のように崩れていた。