13 通じた想い
「あ〜あ、ケーキ潰れちゃったわ」
「さっき落としちゃったからね」
抱きついた時、持ってたケーキを落としてしまった。
近くの公園の椅子に座って確かめると、せっかくのケーキが半分潰れてしまっていた。
自動販売機で温かいコーヒーを買ってくると寒い夜空の下で僕と先生は乾杯した。
「せっかくだから、ここで二人で食べましょう」
そう言うと潰れたケーキを二人で頬張り始めた。
この寒空の下でいったい何をやってるんだろうか。
「真一君に告白されてから、毎日真一君を目で追うようになってたわ」
「ホントっすか」
「ええ。ふふふ。好きって告白されたら、やっぱり気になっちゃうわよ」
先生は自分の気持ちを語り出していた。
「でね、夏合宿中に真一君が斎藤さんから告白された話しを聞いた時、実は焦ってたのよ」
「えっ? 嘘だ。でも、何で?」
「だって……。やっぱり私なんかよりも同じ年代の子と付き合った方がいいに決まってるもの」
「そうとは言い切れないでしょう」
「そうかもね。でも、真一君はずっと私を見ててくれてるって自信もあったわ」
「そうなんど」
「あの時、あのままキスされたらもっと早く自分の気持ちにも決心がついてたかもしれなかった」
「あの時?」
「真一君ったら意外と奥手なんですもの」
肝試しの時のことだ。
「それから膝怪我して保健室で抱きしめられた時も」
「ああ、あったね」
「今思えば、もうあの頃から私は真一君のことが好きだったんだわ」
あまりにも饒舌に語る先生の一言一言に、僕は照れるだけだった。
「さっきね、急にいなくなっちゃって、どうしようかと思ったのよ」
「黙っていなくなる訳ないでしょう」
「でも、びっくりしたわ。いつか本当に私の前からいなくなってしまったらって考えちゃった」
寒さを忘れる程話しに夢中になっていた。
「……本当に私なんかでいいのかしら?」
「もちろんです! だって俺はずっと先生のことが好きれ※?#!」
「もう! 肝心な所で噛まないでよ」
逸る気持ちと寒さのせいで口がうまく回らなかった。
ぬるくなったコーヒーをゴクっと一口飲むと改めて先生の顔を見つめる。
「ずっと先生のことが好きでした。今も大好きです。だから、俺と……俺と付き合って下さい」
「……はい」
キチンと了解の返事をすると、先生は深々と頭を下げた。
頭を上げると先生の顔は笑みで溢れていた。
ケーキを食べ終えると先生をアパートまで送って行く為、帰路につく。
「寒いわね」
「そうっすね」
「寒いわねっ!」
「……そうっすね?」
しつこく言う先生に違和感を感じていた。
ムッとした顔付き。
ため息を付くと先生は黙って手を差し出した。
「……鈍感なんだから」
小さな声で呟く先生の声。
でも、怒ってない。
繋いだ手は力強く握られていた。
照れ臭くて、嬉しくて、帰りの道はあっという間に過ぎてしまった。
「じゃあ、これで」
「ええ。送ってくれてありがとう」
送り届けると先生にお別れの言葉をかけるが、なかなかその場から離れなれない。
先生はもう僕の彼女なんだ。
多少自信の付いた僕は先生の肩に手を乗せ、キスを迫っていた。
――パカッ!
「痛っ。え?」
「こんな所でキスなんかして、誰かにみられたらどうするの?」
「あ、そっか」
先生のチョップが頭を直撃していた。
浮かれるあまり、調子に乗り過ぎた行為を反省する。
叩かれた頭を痛そうに触ってる僕を先生は笑って見ていた。
先生は周りを見渡していた。
誰もいないことを確認してる。
「ごめんなさい。痛かった?」
「大丈夫で――」
心配そうに先生が僕の頭を撫でるように触った次の瞬間だった。
先生の顔が僕の目の前に迫っていた。
一瞬重なる唇と唇。
時間にしたら数秒足らずの出来事だ。
「おやすみなさい、真一」
そのキスの話しに触れることなく、先生は駆け足でアパートの自分の部屋へ戻ってしまって。
僕は呆然としながら立ち尽くしていた。
「やっ……たぁー!」
家までの道のりを走り出していた。
先生と想いが通じ合えた。
手を繋いだ、キスした、付き合うことになった。
すべてが嬉しくて、ただただ思い切り走っていた。