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10 僕の気持ち

「何て返事しようか迷ってるんだよね」


 僕は正直に先生に話した。


「斎藤さん、いい子よ。真一君とならお似合いに思えるわ」


 それは本音だろうか。

 先生の気持ちはどうなんだろうか。

 あれから僕は少しは男として見られるようになったんだろうか。

 先生は僕のことを少しは考えてくれたのだろうか。

 色々な疑問が頭の中に巡っていく。


「……」


「……」


 会話は止まってしまった。

 虫の声だけが耳に入る静かな夜道に逆戻りしていた。


「私なんか好きになるより、ちゃんと同年代の子と恋愛した方が真一君の為にもいいと思う」


 どのぐらい歩いたんだろう。

 ようやく先生が発した言葉は、僕に好意を寄せてくる女の子を薦める言葉だった。

 それだけ聞いても先生の気持ちは分からない。

 以前言った、僕に対しての微かかもしれない気持ちは変化してない、という意味だろうか。

 それが知りたいのに、先生は決して自分のことを話さない。

 ズルイ言い方に聞こえてしまった。


「どうしたの?」


 前を歩いてた僕が立ち止まると、必然的に後ろを歩いてた先生も立ち止まる。

 振り向くが暗くて先生の顔はよく見えなかった。


「先生の本当の気持ちは、それなんですか?」


 顔が見えない分、大胆に聞くことが出来た。


「え? 私の気持ち……」


「そうです」


 表情は汲み取れないが、顔を反らした様子だけは分かる。


「わ、私は……」


 言いづらそうに先生は下を俯いた。


 ――ガサガサッ……


「きゃ!」


 突然草むらから聞こえる物音に先生が悲鳴を上げる。

 驚いた先生は目の前の僕に体を寄せていた。

 両手を僕の胸に当て顔を埋めている。

 すぐに物音はしなくなったが、怖がりな先生は抱きついたままだった。


「何でもないと思うよ」


「本当?」


 先生の体の温もりが伝わっていた。

 僕は突発的に先生の肩を抱いていた。

 しかし、先生も何も言ってこない。

 しばらくの間、暗闇の中で先生を抱きしめていた。


「……」


「……」


 埋めてた顔が動く。

 先生の方を見ると目が合う。

 暗闇だが、今度は近いせいか先生の顔がよく見える。

 真剣な表情で僕を見ていた。


「先生」


「……だ、だめよ」


 小さな声で呟くと先生の顔に僕は自分の顔を近づけていた。

 キスしようしてた。

 拒まれたら止めたと思う。

 だが、言葉では“だめ”と言ってるのに、先生の体は抵抗も嫌がりもしてこなかった。


 キスしていいんだ。


 そう思った僕はそのまま先生へ近づく。

 唇の先が微かに触れた。


 ――キャー!


「あっ」


「えっ?」


 遠くから聞こえる誰かの叫ぶ声。

 どうやら後ろから歩いてきたペアの声だった。

 驚いた僕と先生は顔を見合わせると、噴き出してしまった。

 抱き合ってた体が自然と解けていた。


「い、行きましょう、真一君」


 照れ臭そうに先生が促す。


「はい、そうですね」


 返事をすると、僕と先生は再び歩き出した。

 僕も先生も何も話すことなくまた無言で歩くだけだった。


「……ごめんなさい」


 ゴール付近で先生が呟いた。

 何に対して謝っていたんだろう。


「えっ? 今何て言ったんですか?」


 僕は聞こえないふりをして聞き返して。


「え? あ、うん。びっくりしたねって」


「そうっすね」


 いつもの笑顔で僕を見ていた。

 さっきの出来事が夢のように思えた。

 僕の腕には、まだ先生の温もりが残ってる。

 唇が微かに触れただけのキス。

 あれはキスと言えるのだろうか。

 キスと呼ぶには程遠いかもしれない。


   ◇   ◇   ◇


「ごめん。俺、他に好きな人がいるんだ」


「……そうなんですか」


 次の日、僕は瞳からの告白を断った。

 こんな気持ちで付き合うことは瞳にも失礼だ。

 何より、先生が好きで仕方ない自分の気持ちに気づいてしまった。

 瞳からの告白は先生への気持ちを再確認させてくれた。


「先輩の気持ち、好きな人に届くといいですね」


 瞳の最後の言葉は僕に元気を与えてくれた。

 ゆっくり先生の気持ちを待っていよう。

 先生の気持ちが変わらなかったら仕方ない。

 振られたら仕方ない。

 それでも俺が先生を好きな気持ちは変わりないのだから……。

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