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5-9

空栖視点です。

※グロテスクな表現が出てきますので、苦手な方はご注意ください。

 弥胡(やこ)神力(しんりき)で起こした三回目の爆発を合図に、空栖(からす)は都からの援軍を率いて出陣した。阿凛(ありん)たちは姿くらましをかけた上で別経路から進攻し、弐泰(にたい)の屋敷で空栖たちと合流する手筈となっている。


 赤地に黒い烏の旗印と、深紫の錦に金の絹糸で梟を縫い取った皇帝直属の「帝軍」の旗印をはためかせながら、瓦礫の山と化した街中を駆け抜けていく。


 皇帝は帝軍を派遣することによって、この度の侵攻が皇帝の意に反するもので、第二皇子の凶行を赦さず、皇帝自ら処罰するという強い意志と誠意を、逆賊である第二皇子派と江吏族(えりぞく)双方に示す狙いがある。聖域から敵の一派を(くだ)しつつ南下してきた空栖たちの合流を待って、満を持しての進攻である。


 街中で出くわした敵兵を薙ぎ払い、蹴散らしながら猛然と進んで行く。


 弐泰の屋敷へ近づくにつれ敵の数は増えていった。矢、炎の砲弾や氷の刃が降り注ぎ、瞬間移動や念力での攻防が繰り広げられる。神力の炎が建物に燃え移る心配がないため、野外での戦闘は空栖の最も得意とするところだ。先頭で馬を駆りながら、炎を駆使して歯向かう敵を蹂躙してく。


 空栖は馬上から声の限り叫んだ。


「我は第一皇子春宮(はるのみや)! 皇帝陛下の勅命により、反逆者どもを討ち取りに参った!」


 空栖と帝軍の旗印を見た第二皇子派の兵士たちは目に見えて怯んだ。彼らは所詮、「蛮族に襲われ重体に陥り、捕虜として囚われている第一皇子を救出に来た」という建前しか聞かされていなかったのだろう。自分たちこそ正義だと信じていたのが一転、重体のはずの第一皇子と帝軍が攻め込んできて、自分たちこそが逆賊として認識されている事実を突きつけられたのだ。


 敵は一気に混乱に陥った。連携は乱れ、攻撃にも隙が生じる。


「皇帝陛下に叛意なき者は速やかに投降せよ! 攻撃するものは反逆の意ありと見て成敗する!」


 ひとり、またひとりと武器を放り出して地に額づく者が現れる。


「ええい、あのような戯言に耳を貸すな!! 偽者に決まっている!! 何をしている、殺せ! 命令違反で処罰されたいか!!」


 屋敷の付近を護っていた小隊長が額に青筋を浮かべながら捲し立てた。彼の傍らで地面に叩頭していた若い男の兵士が顔を上げる。


「で、ですがっ、深紫を使うことができるのは、陛下以外にいらっしゃいません!」


 深紫は皇帝以外の衣類や旗に使用することはもちろん、許可を得た職人しか染色することを許されない禁色だ。違反しようものなら一族郎党連座で磔となるため、おいそれと偽装に手を出す者はいない。


 空栖は馬上から容赦なく小隊長の首を刎ね飛ばした。それは血しぶきを上げながら放物線を描いて地面にぼとりと転がり落ちる。


「ひっ!!」

 兵士は顔面蒼白になりながら、慌てて地面に額を擦りつけた。


「弐泰殿と夏宮(なつのみや)は何処じゃ?」

「え、江吏族の長は、地下の座敷牢、殿下はさ、最上階の奥の部屋にっ!!」

 空栖は刀の露を払うと再び馬を走らせた。



 空栖たちが弐泰の屋敷の前に突入すると、別の方向から突入してきた阿凛たちが合流して姿くらましを解いた。


「我らは誇り高き江吏族の戦士! 棟梁弐泰の奪還に参った! 正義は我らの手にあり!」


 阿凛が声高く叫ぶと、追従した江吏族の戦士たちから地を揺るがすような雄叫びが上がる。

 空栖は正面入り口を塞いでいた敵兵と切り結びながら横目で阿凛を見る。


「阿凛殿、弐泰殿は地下に囚われておる! 私は最上階の夏の元へ参る故、そちらはお任せした!」

「承知しました! 神々のご加護を!!」


 空栖は鍔迫り合いの末、交戦相手を弾き返す。敵はもう一人の兵士を巻き添えにしながら正面の扉に叩きつけられ、地面に尻もちをついた。空栖は二人を斬り捨てると、扉を蹴破って屋敷内へと突入した。


 投降を呼びかけつつも、応じないで攻撃してくる者たちを次々に屠っていく。空栖の神力は屋敷が炎上する危険があることから使えないが、風の神力を操る側近が攻撃できているところを見るに、屋敷全体には力封じがされていないようだ。もっとも、力封じは諸刃の剣で、自分たちも神力や神通力(じんつうりき)を使用できなくなるので、弐泰たちのいる地下にのみかけられているのだろう。


 階段に到達すると、冬成(とうせい)が前に出た。瞬間移動で上階から鎌鼬(かまいたち)を放ってくる神力使いの背後に回り、袈裟懸けに刀を振り降ろす。別の側近が空栖を風の結界で護りつつ最上階を目指した。


 斗貴(とき)が潜伏していると思われる部屋の前に辿り着くと、冬成が勢いよく扉を開け放った。


「夏!」

 空栖が踏み込むと、そこはもぬけの殻だった。 


 部屋の奥に置かれた寝台の褥には皺が寄っていて、触ると仄かに温かい。火鉢の炭もまだ火がついていることから、つい先ほどまでここにいたことは間違いなさそうだ。


 警戒しつつも室内を捜索し、誰も残っていないことを確認する。


「夏のやつめ、逃げおおせたか……」

 空栖は舌打ち混じりに呟いた。


 すでに四辻(よつじ)ら第二皇子派の貴族たちは捕らえられている上に、今回の交戦で第二皇子派の兵士たちにも皇帝が斗貴の討伐を命じたことが知れ渡った。彼の逃亡を手引きし、尚且つ匿う者は限られてくるだろう。


 空栖は冬成を振り返る。

「直ちに第二皇子夏宮を追跡せよ!」 


 主を失い、反逆者の汚名を着せられることを恐れた第二皇子派の兵士たちはあっけなく投降していった。

 それから間もなくして弐泰と彼の側近たちは阿凛によって救出され、東風野(こちゃ)奪還は一日で成されたのだった。

ちなみに、皇帝の名は福朗ふくろうといいますが、皇帝の名前を呼べる人は存在しません。

神波国かんなみのくにでは代々、皇帝の息子たちに鳥の名前をつける習慣があります。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

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