表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/103

4.5-2

空栖目線です。

更新が遅れてしまいました 汗)

今まで書き溜めていた分を全てアップしてしまったため、ちょこちょこ続きを書き進めております。

 ダウィルが怒髪天を突く勢いで江吏族(えりぞく)の宿泊施設を飛び出していってから、空栖(からす)は速やかに準備を整え、冬成(とうせい)と、ダウィルの事情を知っている数名の側近を伴って後を追った。現在も意識不明の重体を装っているため、第二皇子派に見つからないよう、阿凛(ありん)の側近に光属性の神力で姿くらましをかけてもらい、更に黒い頭巾を被って顔を隠して念を入れている。


 ダウィルは嵐の如く、というよりは実際に嵐になって猛進したため、なぎ倒された木々を辿って半刻ほど瞬間移動で転移を繰り返し、聖域全部を見渡せるほど高い崖の上に降り立った時だった。


 突如として漆黒の夜空が鉛色に光り、いつの間にか立ち込めていた分厚い雲の表面に細かいヒビが入ったかのように、黄色味を帯びた稲妻が走った。それとほぼ同時に轟いだ雷鳴に鼓膜がビリビリと振動する。


 空栖たちの立っている位置から離れた場所の上空には巨大な雲が渦巻いていた。それは何の前触れもなしに地上へ向かって細い尾を伸ばし始める。地表に到達すると、まるで生き物のようにぐんぐんと成長し、巨大な竜巻になった。稲光が周囲を昼のように照らすたび、無数の黒い米粒のようなものが、螺旋状に舞いながら上空へ吸い上げられていくのが見えた。


「あれは……」


 愕然としたような冬成の声が聞こえた。お互いに姿くらましを施してあるせいで姿は見えないが、すぐそばに立っているのは気配でわかる。


 彼が二の句を継げないでいると、視界の右端で爆炎が上がった。まるで大きな獣が飛び跳ねながら移動しているように、離れた場所で次々と中・大規模の爆発を引き起こしながら、徐々にこちらの方へ向かってくる。

 それに呼応するかのように、幾筋もの稲妻が天を裂く。絶え間なく続く落雷は、まるで鉛色の絹に縦縞の模様を入れたようだ。


 恐らくだが、竜巻と雷はダウィルによるものだろう。この距離では目視できないが、大粒の雹も降り注いでいるに違いない。この世を地表ごと剥ぎ取って天へ還さんとする様子は、お気に入り(やこ)を取り上げられた彼の怒りを如実に表している。

 そしてあの爆炎はあの火の荒神の所業だろう。空栖の知る限り、ダウィルに火の副属性はなかったはずだ。


「二柱の荒ぶる神々が地上を蹂躙しておる……」


 空栖は唇を噛んだ。

 雷鳴、爆音、風声の全てが混じり合い、自分の発する言葉さえ聞こえない。


 猛々しく人に災いをなす神――荒神。

 通常ならばどこか飄々として傍観者に徹しているダウィルも、執着対象の弥胡が他の神に油揚げよろしく攫われたとなっては、怒りに我を忘れても不思議ではない。それほど神の執着とは凄まじいものなのだ。むしろ今まで弥胡が虐げられていたのを平然と見ていた彼の反応の方が、空栖の目には異様に映っていた。


 この世のものとは思えない光景に凍り付いたようにその場に佇んで四半刻も経った頃だろうか。突然、赤、青、緑、黄色の光が宙に集まり、互いを追いかけるように旋回し始めた。どんどん間隔を狭めていき、四色が混じり合ってひとつになった瞬間、強烈な閃光を放って爆ぜた。空栖は咄嗟に顔を背け、両腕で目を覆った。爆発の中心からこの崖まで相当な距離があるというのに、地に足を踏ん張っていなけば吹き飛ばされそうなほどの風圧が押し寄せる。


 耳を聾していた轟音が止んで、空栖は恐る恐る目を開けた。聖域は先ほどまでとは打って変わって静まり返っていた。夜を照らしていた稲光が消えたので周囲の状況を確認することはできないが、自分たちの中に怪我人が出なかったことは僥倖だった。


「しかし、神の怒りとは聞きしに勝るものじゃったな」

 深い溜息を吐きながら呟くと、冬成も堅い声で応える。

「誠に、生きた心地がいたしませんでした。……ところで殿下、これから如何いたしましょう?」

「これ以上追跡しようにも、ここから何処へ行ったかさっぱり分からぬしな。……とりあえず、先ほどまで争っておった現場まで行ってみるか」


 一同が瞬間移動で転移しようとした時、側近のひとりが声を上げた。


「殿下、何者かが接近して参ります!!」


 全員に緊張が走る。側近が示した方を見やれば、鮮やかな緑色の光がこちらへ近づいてくるのが見えた。近づくにつれて、それがダウィルの瞳だと分かった。


 ダウィルは空栖たちの目の前に降り立った。感情の昂りからか、彼の両目は松明のように辺りを照らすほど炯々と輝いている。腕にはぐったりした様子の弥胡を抱えているのを見て、空栖は唾を呑んだ。


「ダウィル殿、弥胡(やこ)は無事か?」

 彼はそれには答えなかった。

「空栖。この先、岩場に大きな縦穴が開いていて、地下の洞窟へつながっている。――そこに斗貴(とき)がいるよ」


 言いながら、最後の爆発があった方へと顎をしゃくる。聞きなれた能天気な声は鳴りを潜め、憤りからか、胃の腑を抉るような冷たさを孕んでいた。


「夏……愚弟が?」

 ダウィル以外の全員が息を呑んだ。


「安心して? 殺してはいないから。空栖があいつを成敗しないと意味がないでしょ?」

「――かたじけない」

「でもね」

 ダウィルは空栖の返事を遮るように続けた。

「次はないよ。もしまたこの国の誰かが僕から弥胡を奪うようなことがあったら、地の果てまで追いかけてそいつを殺す。都が滅ぼうが、国が滅ぼうが、僕の知ったことじゃない」


 その表情の抜けた落ちた顔に、ゾッと背筋が粟立った。


「……っ、肝に銘じる」


 空栖がやっとそれだけ絞りだすと、ダウィルは興味を失ったように宙に浮かび上がる。そのまま驚異的な速度で飛び去り、あっという間に姿が見えなくなった。


「……何と言うか、お変わりなられましたね」

 震える声で冬成が呟く。

「ああ……」


 北江偉(ほくえい)に同行するようになってから、弥胡と接する時間が各段に長くなったせいだろうか。それまでも、彼は確かに弥胡を気に入っていた。幼子が気が向いた時に玩具で遊んでいたような態度だったのが、ここ最近では狂愛じみた執着へ変わった。

 親が子を愛しむ情よりもねっとりしているが、男女の艶めいたものともまた違う。まるで弥胡は己の身体の一部だとでも言うような、奪われたら生きていけないという必死ささえ感じるのだ。


 空栖は考えることを放棄して首を振った。彼らの間に何があったのかは当事者にしか分からないし、知りたいとも思わない。それよりも、今は目先のことに集中する必要がある。


「冬成。ダウィル殿が申しておった洞窟へ向かう。皆も用意せよ」

「御意」

 一同は声をそろえて承諾した。

誤字脱字は見つけ次第修正していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ