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2-14

 休憩を挟んで、午後からは精気の扱いについての指導が始まった。

「本来でしたら、あなたと同じ体質である天招(あまね)の一人が指導するのが一番理にかなっているし、効率も良いのですが、何せ天招は数が少なく多忙です。わたくしは知識だけはありますから、代わりに指導をいたします」


 通常、修行は訓練所で行うようだが、補魂(ほこん)を自在に行えるようになるまでは、桜香(おうか)の部屋でこっそり練習するらしい。


「本日は手始めに、精気の吸引を自らの意志で操る術を学びましょう」


 桜香が最初に教えてくれたのは、自分の精気の流れを把握することだった。これには山小屋で九重(くのえ)が教えてくれたことが大いに役立った。既に精気の吸引を自力で制御することはできると言うと、桜香は目を丸くしていた。


「まあ、それは良い師についていたのですね。では、力封じの制御を外して、実際にどの程度のことができるのか、確認してみましょう」


 桜香が弥胡(やこ)の腕輪に触れると、途端に呼吸が楽になったような、全身を締め付けていたものから解放されたような感じがして、思わずほうっと息を吐いた。

 しかし、それと同時に桜香の好奇心が流れ込んできたので、慌てて吸引を制御する。


「力封じの腕輪は上長が触れると制御を解除できる仕組みになっています。脱着しない分便利でしょう」


 桜香は弥胡の様子を見て、頬に手を当てて首を傾げた。

「……今、自分で精気の吸引を制御している状態ですか? 制御を解除し、わたくしの精気を引き込んでみてください」


 弥胡は軽く息を吐いて気合を入れる。目を瞑り、ゆっくりと制御を解除すると、体内に弥胡のものより温度の低い精気が流れ込んできた。


 弥胡はぐっと眉間に力を入れる。桜香が三世代目の神力使いだからなのか、九重の精気より不快感が少ないような気がするが、やはりダウィルの心地よい精気には程遠い。

 ものすごい勢いで身体の中心に熱が集まって来て、呼吸が上がる。


「今が、無意識でわたくしの精気を取り込んでいる状態です。この感覚を覚えていてください」


 言うやいなや、衣擦れの音がして、冷たくてなめらかなものが弥胡の手に触れた。数拍遅れてそれが桜香の手であることに気付いた頃には、既に精気が濁流となって身体の中心に押し寄せてきていた。


「んっ!?」


 頭から滝の水を被っているかのような感覚に身を捩るが、桜香は弥胡の手をしっかり握って放さない。

「このように、身体の一部が触れていると、吸引する量が増し、効率よく精気を体内に引き込むことができます。どの程度取り込むかも調整が可能なので、訓練していきましょうね」


 全身に鳥肌が立って集中が乱れる。血潮が全身を駆け巡り、桜香の言葉を理解するのが困難だった。

 桜香の手が離れると、弥胡は床に両手をついてぐったりと項垂れた。


「み、皆、こんなに辛い思いをして、精気を吸引しているの?」


 肩で息をしながら、掠れた声で問うと、桜香は首を横に振った。

「皆、というのは語弊がありますね。他者の精気を吸引し、己の力とできるのは、補魂だけです。ですので、わたくしにはできません」

「そ、そうなの? じゃあ、力の使い過ぎで精気が減ったから、他の人から補充するって訳にはいかない?」

「不可能ですね」


 補魂の性質がない者が、他者の精気を自分の体内に引き込むことはできない、では、その反対はどうなのだろう。


 ――『自分の精気を誰かに渡すなんて、できん』

 精気を送ろうとする弥胡に、九重は死の床でそう言っていた。


 神通力(じんつうりき)使いが念視をする際に、対象の肉体に精気を流しても記憶を拾うだけで、その精気が対象者の甕を満たすことはできない、ということなのだろう。


 喉の痛みを堪えながら、途切れ途切れに確認すると、桜香は首肯した。

「その通りです。補魂の性質を持つ者だけが、他者の精気を己のものとして再利用することができるのですよ。昨日も説明した通り、通常、生き物の甕にはしっかりと蓋がされたような状態なので、いくら外から精気を注いだとて、蓋によって弾かれ、甕の中に入ることはありません。あなたの甕には蓋がないようなもので、言い方は悪いですが、異常体質です。生物の理を覆すようなことなのですよ」


 自分は通常では考えられないような体質なのかと、どこか他人事のように感心する。

「――よろしいでしょう。では、次の段階に行きましょうか」

長くなってしまったので、ここで切って、続きは明日投稿します。

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