第五話 「重なる運命」
────「宿屋」
────【勇者♀目線】
どうしてだろう。
先程まで、絶えず会話していたリンくんなのに。
いざとなると私の胸の鼓動が激しくなった。
「こんな感じでいいかな?」
私は宿屋の部屋のベッドの上に仰向けで寝ている。
そして身に着けていた下着を側の机の上に置いた。
お腹の上には、お供のリンくんが乗っている。
今から、汗まみれの身体を綺麗にしてもらう為だ。
「えっと…これは、ミレーズさんの強いご希望で、ボクがお身体を綺麗にさせて頂くだけですので…。」
あくまで…私からの依頼なので、同意のもとだ。
「大丈夫だよ?私、余程なことされない限り、怒らないから。だから、リンくん?ちゃんと…隅々まで綺麗にしてね?」
勇者をしていると、皆に見張られている感が強い。
羽目を外した行動も非常にしずらいのだ。
本当は私も反省会で騒ぎたいが、人目が怖いのだ。
酒場を貸切に出来れば良いのだが、お金がかかる為なかなかそういう訳にもいかないのが現実だ。
だから、私はストレスや鬱憤が溜まってきていた。
「では…ミレーズさん?いきますよ?」
──バヂュンッ…!!
「ひゃっ?!」
楕円に近い形状だったリンくんの身体は、大きな音を立てると潰れたように液状化した。
意識しない身体の部位が触れられ思わず声が出た。
「リンくん…?隅々まで…宜しくね?」
──ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…
まずは私の手脚を綺麗にするのであろう。
リンくんの身体は四つに分裂してしまった。
すると、ゆっくりとそれぞれ手脚へと這い始めた。
「リン…くん…?ゆっくり…なんだね…。」
──ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…
無言で私の手脚を覆ってしまった。
気付いたのだが、身体を這いながら吸引していた。
リンくんの這った後はスッキリしているのだ。
「ありがとうね?私の手脚スッキリしたよ?」
凄く丁寧で…奴隷時代のスライムとは大違いだ。
だけど、あの乱暴にされる感じが実は好きなのだ。
期待していたのとは違って裏切られた気分だ。
でもまだ、手脚なので…淡い期待を持っている。
──ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…
分裂していたリンくんの身体が集まり始める。
あっという間に私のお腹の上でリンくんに戻った。
これからが私にとってのメインディッシュなのだ。
リンくんはどんな風に綺麗にしてくれるだろう?
私としては乱暴に身体の奥まで綺麗にして欲しい。
「ねぇ…リンくん?乱暴にしても良いからね…?」
────【魔王♂目線】
全く…。
勇者とあろう者が、スライムに懇願するとは…。
ボクはミレーズをおもちゃに出来ると喜んでいた。
だが…手脚を綺麗にしている際に気が付いた。
他の女達とは違い何か様子がおかしい。
過去に、スライムに堕とされた事があるのだろう。
ボクが這い回るのを全身で悦んでいるようなのだ。
これからボクは、ミレーズの身体を覆うつもりだ。
大体、首の辺りから下腹部までを予定している。
その際のミレーズの反応が楽しみではある。
「お願いします…。リンくん…♡早く来てぇ…♡」
ボクに手招きをしながら、おねだりまでし始めた。
従順なおもちゃに堕とすまでが愉しいのだが…。
堕ちている状態では焦らすくらいしか手はない。
──ポヨンッ!!
「えっ…?」
ミレーズのお腹の上でボクは跳ねて見せた。
その様子を不思議そうな表情でミレーズは見守る。
──バヂュンッ!!
跳ねた勢いのまま、ボクは身体を液状化させた。
「なになになに…?!」
突然のボクの行動に驚いたミレーズが声をあげた。
そのままミレーズの身体に向かいボクが降り注ぐ。
あっという間にミレーズの身体はボクで覆われる。
「あ…っ♡リンくん…♡はぁっ…はぁっ…。」
何かを期待するかのようにミレーズは声をあげた。
気にせずボクは、ミレーズの汗ばんだ身体を、ゆっくり焦らすように綺麗にし始めた。
あれ?
ミレーズの身体を綺麗にしていてボクは気付いた。
身体から発している魔力が何故だか凄く懐かしい。
この世界で魔力は、人格や魂に依存している。
故に二人として同じ魔力は、あり得ない。
「リン…くん?どうしたの…?早く…続きを…。」
感じ取った魔力について、ボクは思い出していた。
その為、ミレーズの身体を綺麗にする動きが止まってしまっていたようだ。
あぁ…。
そうだ、この懐かしい感覚。
今、久しぶりに触れて思い出した。
正直、まだボクは信じられずにいた。
この魔力…。
絶対に忘れてはいけない、最愛の妻のものなのだ。
「ねぇ…?リンくん??どうしちゃったの?」
まだボクが人間で、勇者だった頃…。
アイシェスという名の幼馴染の妻がボクには居た。
後にも先にも…ボクの妻はアイシェスだけだ。
魔王になる事を決め、彼女と娘を残して去った。
生活するには一生困らないお金や財宝を渡して。
風の噂で、娘が結婚したと言う話は聞いたが、妻の話は全くと言って良いほど耳にしなかった。
存命と思われる間、手下達には、絶対に妻と娘には手を出さないように厳令を敷いていた。
それから、数千年以上は経っている。
だが、一度たりとも妻のアイシェスや、娘のリンシェナの魔力には遭遇した事がなかった。
それがだ…。
今、息を荒くして恍惚とした表情で、ボクにおねだりしているミレーズが、妻の生まれ変わりだと言うのか。
ボクのミレーズをおもちゃにする計画は、白紙撤回せざるを得ない。
数千年ぶりに、偶然にもめぐり逢えた妻だ。
今度こそ、本気で愛し抜きたい。
まぁ、スライムの身体なのだが…。
────【勇者♀目線】
──ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…
動きを止めていたリンくんがやっと動き出した。
でも…何故か身体の外側ばかりを綺麗にしてくる。
身体の中を…乱暴に奥まで綺麗にして欲しいのに。
──ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…ヂュッ…
「リン…くん?身体の…隅々まで綺麗にしてね?」
普通、スライムなら容赦なく胎内まで入ってくる。
なのに、リンくんは紳士的でそんな感じじゃない。
あまりに焦ったくて、思わずお願いしてしまった。
「えっと…。あのぉ…ミレーズさん?ボクとしては、隅々まで綺麗にさせて頂いているつもりなのですが…。」
いやいやいや…。
まだ私の身体の中…綺麗にして貰ってないから。
リンくんに、そう言ってしまいそうになった。
「じゃあ…。リンくん?ここと…ここは…?まだ…だよね?」
私は下腹部の二箇所を…分かりやすく指差した。
「あ…。そこは…。ボクはミレーズさんの恋人ではないので…入るのはちょっと…。なので、綺麗にすることはできません。」
その言葉を聞いた瞬間、私は絶望で一杯になった。
気持ち良くして貰えると、私は心待ちにしていた。
リンくんに身体を綺麗にして貰っている間ずっと。
それも…一言であえなく打ち砕かれてしまった。
でも…恋人なら良いってこと?
ふと言われた事を思い返した。
リンくんなら…スライムだが恋人にして良いかも。
一秒でも早く…気持ち良くして貰いたかった。
もう、手段なんか選んでいる場合じゃなかった。
「リンくん!!」
「はい?」
「今から…リンくんは、私の恋人だよ??」
「えっ?!」
「これは…ご主人様からの命令だから!!早く…ここ♡と…ここ♡…の中っ♡奥まで…念入りに綺麗にしてっ…♡」
「はい…。ミレーズさん、分かりました…。」
────【魔王♂目線】
図らずも…アイシェスと恋人同士になれた。
これでアイシェスの記憶が蘇ると嬉しいのだが。
「あのね…?ミレーズって呼んで欲しいな…。」
「じゃあ…ミレーズ?いくよ…?」
そう言うとボクは、ミレーズの身体の中にゆっくりと自分の身体を入れた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ…♡」
ミレーズが待ってたかのような雄叫びをあげた。
ボクは構わず…身体の中を綺麗にし始める。
すると、そこでミレーズが奴隷時代に受けたと思しき、痛々しい傷痕を見つけてしまった。
居ても立っても居られないボクは魔法を唱えた。
「治療!!」
すると、みるみる傷痕が消えていく。
見つけられて良かったとボクは内心、喜んだ。
だが、ふと気づいたのだ。
自分はスライムの身体だということを。