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第四話 「可愛いお供」【魔王♂目線】


────「宿屋」


 はぁ…。

 溜め息しか出来ない。

 それもその筈だ。

 魔王だったボクは、スライムの中に入れられた。

 手下による反逆だった。


 そんな時だ。

 勇者がボクを討伐しに、居城の部屋へ入って来た。

 これ幸いと飛びついたのが終わりの始まりだった。


 色々ありその勇者のお供となったボク。

 因みに勇者は女で、ミレーズと呼ばれていた。


 ミレーズはボクの居城から、付近にある温泉で有名なイウェラの村への道中もずっと、ボクを抱きしめ続けていた。

 しかも、うっとりとした表情で見つめてくる。


 先程、宿屋に入る前にミレーズは仲間から、反省会をするから酒場に行こうと誘われていた。

 だが、きっぱり断ると宿屋の借りている部屋へボクを抱えたまま入ってしまった。


 「私には、リンくん居るから良いよねー?」


 ──ムギュウッ…


 思い切りミレーズはボクを抱きしめてきた。

 ミレーズの胸がボクの身体にめり込む。


 「ちょっとだけ…ベッドの上でいい子にしてて?」


 そう言ってボクをベッドの上にそっと置いた。

 するとミレーズは防具の留め具に手をかけた。


 ──パチンッ…!パチンッ…!

 ──ドサンッ…!!ガチャンッ…!!


 床へと防具や武器が乱雑に脱ぎ捨てられていく。


 「ちょっとうるさかったかな?大丈夫?」


 目の前にはきわどい下着姿になったミレーズ。

 ゆっくりとベッドの上に寝そべった。

 そして、ボクに手を伸ばすと抱き寄せてきた。


 「はぁ…。可愛すぎて困るねぇ…キミは。」


 恍惚とした表情でボクを見つめてくる。

 人間でスライムに欲情した話はあまり聞かない。

 勇者なのに、なる前は奴隷だったと聞いたが…。

 ボクの姿、そんなに可愛いものだろうか?


 ──ムギュウウウウ…


 また強く抱きしめてきた。

 今度は下着姿の為、ほぼ直接身体に密着状態だ。

 なかなか、ミレーズの身体は触り心地が良い。

 ただ、身体中に無数の生々しい傷が見える。

 奴隷時代に受けた傷であるのは何となく分かる。


 「ねぇ…リンくん?」


 ミレーズに声を掛けられたのでふと表情を見た。

 今までの恍惚とした表情から一変。

 真剣な表情だったのでボクは身構えてしまった。


 「何でしょう…。」


 「リンくんは…さ?好きな相手って居るの?」


 は?

 好きな相手だ…?

 やはりミレーズは変わっている。

 ボクに目をつけたのだろうか。

 勇者時代には妻が居た。

 魔王になってからのボクは妻を作らなかった。

 都合の良いおもちゃを取っ替え引っ替えしていた。


 ミレーズは、ボクのおもちゃになるのが丁度良い。

 

 「い…いないですけど、急にどうしました?!」


 迫真の演技をした。

 おもちゃに出来るか出来ないかの瀬戸際なのだ。


 「そっか、なら良かった。」


 ボクへの風向きはバッチリのようだ。


 「え?!ど…どういう意味ですか??」


 「あのね?私達って…魔王さん追いかけて世界各地行くじゃない?だから、好きな相手がもし居たら、寂しい思いさせちゃうよって言っとこうかなって。」


 全く、回りくどい聞き方をする。

 これでミレーズはボクのおもちゃはほぼ確定だ。

 そこでボクは、追い込みを掛けることにした。


 「あの…ミレーズさん?」


 可愛い表情ではなく、困った表情で話しかけた。

 いきなりそういう表情をすれば焦るだろう。


 「え?!リンくん、どうしたの?」


 真剣な表情だったミレーズが焦りの表情に変わる。

 ミレーズは目で上の方を見て何か考え事を始めた。


 「あ、ミレーズさん?深刻な話ではないので、リラックスして聞いてくだい!!」


 緩急をつけてミレーズを揺さぶった。

 これでも真面目にボクの話について来れるか。

 それが気になったのだ。


 「良かったぁ…。」


 「あの、ボクの身体って何色に見えてます?」


 これは真面目な話で、自分の色がよく分からない。

 スライムで黒色など見たこともないのだ。


 「えっ?!透き通った黒色に見えてるけど…?」


 どうやらボクの勘違いではないようだった。

 スライムの身体へ、人格排出された魔王のボクが入ったから進化でも遂げたのかもしれない。


 「そうなんですね。自分の身体の色ってあまり意識して見てなくて…。」


 話の共感を得ようと、ボクは言葉を必死に選んだ。


 「それにしてもね?黒色のスライムって私、初めて見たよ?」


 ああ。

 何千年も生きてる魔王のボクもだ。

 こんな話題だが話は自然と続いている。


 「ボクも見た事ないので、きっと突然変異だと思います。」


 「あのね…?リンくんが嫌じゃなければなんだけど…。」


 ん?

 嫌じゃなければ?

 何かのお誘いだろうか?


 「はい…。何か…怖いなぁ…。」


 「私の身体、綺麗にして欲しいな…?なんて…。」


 やった!!

 ミレーズはボクのおもちゃに出来そうだ。

 だが、直ぐにはいそうですかと言うのもあれだ。

 焦らして更に揺さぶりを掛けることにしよう。

 

 「へっ!?こ、ここ…温泉が有名な村なんですよね…?確かに…スライムで身体を綺麗にするお店もあるみたいですが…。」


 如何にもボクが身体目当てではないと思わせる。

 その為、温泉が有名な村であると主張してみせた。

 その上で、スライムの店についても示唆した。


 「リンくん…?ダメ…だよね?」


 ミレーズは引き下がらないようだ。

 しかもジッとボクに物欲しそうな表情でだ。

 ここまでグイグイくる女は初めてかも知れない。

 ボクは新しいおもちゃを得られることに興奮した。

 ミレーズが誘ってきているのだ。

 今後どうなろうとも双方の同意の上ということだ。


 「うーん…。まずは温泉、一緒に入りませんか?」


 散々悩むようなそぶりを見せ、温泉を提案した。

 即答してしまうと脈がないように見えかねない。


 「そうだよね!!温泉、一緒に入ろ!!」


 未練たらたらの表情のミレーズは説得力がない。


 ──ガバッ!!


 ミレーズは急に勢いよくベッドから飛び起きた。

 そして、ボクをベッドの上にそっと置いた。


 「どうしようかなぁ…。これ羽織ればいい?」


 は?

 唖然とした。

 これから、温泉まで行くのだ。

 宿屋から歩いて、数分はかかる。

 それなのに、長めの丈の外套のみを手に取った。

 一般人なら良いかもしれない。

 だが、ミレーズは勇者だ。

 せめて防具を纏い直すか、私服に着替えるべきだ。


 「ええええ!?ダメですよ!!下着の上にそれ一枚だけですか!?」


 思ったことをとりあえず口から出して伝える。

 だが、ボクの言葉を無視し外套を羽織ろうとする。


 ──ポヨンッ…!!


 ボクはベッドの上から飛び降りた。


 ──グィッ…グィッ…


 そして、ミレーズの足元に近づいて外套を引いた。


 「リンくん、ダメ!!引っ張らないで?」


 「だって…勇者様の羽織っている外套の下が実は、そんなあられもない格好だとか、あり得ないですよ?」


 きわどい下着姿の上に長めの丈の外套。

 完全に売女のする格好だ。

 勇者に似つかわしくない格好は、必ず噂話になる。


 「でも…私さ?今まで、ずっとこの格好で外を出歩いてきたんだけどね…?」


 はぁ…。

 全く…開き直られても困る。

 現在では注意するお目付け役が居ないのだろうか。

 直ぐ勇者が交代する影響で廃止されたのだろうか?

 既に、どこかで噂話になっているのかも知れない。


 「はああああ!?あり得ないですよ!!ミレーズさんは勇者様だという自覚、持ってください!!皆さんの憧れの的なんですからね??」


 今まではどうかは知らない。

 でも、ボクが正すことは正さないといけない。

 これで勇者の自覚をもってくれると良いのだが…。


 「ま…まぁ、そうなんだけど…。汗まみれの身体に着たくないんだよね…。」


 確かに、正装するなら一度汗を流しておきたい。

 汗まみれという理由であれば、綺麗にすればいい。

 ボクの温泉に入ろうという話から、戻ってきた。

 ミレーズをおもちゃにしろという天命だろう。


 「あぁ!!ミレーズさん…スミマセン。汗まみれだから、ボクに身体を綺麗にして貰いたかったんですか?」


 ボクはミレーズにトドメの一言を告げた。


 「うん…。実はそうなんだけど…。リンくんは嫌だよね…?」


 あっさり認めた。

 綺麗にして欲しかっただけじゃないのか?

 そう突っ込みたかったがやめておく。

 ミレーズ自身から志願しているのだ。

 ボクのおもちゃになることを。


 「別に…嫌ではないですよ。ミレーズさんはどうしたいですか?」


 ボクからの誘いじゃない。

 ミレーズの意思を聞くまでだ。


 「リンくんに身体綺麗にして貰いたい!!その後…一緒に温泉も入りたいな?」


 ミレーズは自ら同意した。

 しかも温泉まで要望してきた。


 さて、これから毎日が楽しみだ。

 ゆっくりミレーズをおもちゃにしていこうと思う。

 まずは、どうするか。

 ボクなしでは生きられなくでもするとしようか。

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