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君の持つそれが花束だった頃。

作者: 葉月 楓羽

「明日戦争が起こります。」



そんな天気予報じみた予報があればよかったのかもしれない。



----------------------------------------------------




「私たち、別れよう。」


絃芭(いとは)は苦しい胸の痛みと罪悪感とに呑まれながらそう告げた。



「ごめんね、私の進路の関係で。


知っての通り、志望校の偏差値がとても高くて…。


とてもじゃないけど、学力が全然足りてないから、集中しないとなの……。」



心の中で「ごめんなさい、ごめんなさい」と何回も何回も繰り返しながら言った。



陽葵(ひなた)は何も悪くなかった。


そう、悪くなかったのに…、



「そっか、分かった。


僕の方こそごめんね。


勉強、がんばってね。」



優しさが痛かった。


優しさが苦しかった。



泣かないつもりだったのに、その優しさで、泣いてしまった。



「ごめんね、本当にごめんなさい。」



そう言い残して、逃げ出すようにその場を去ってしまった。



----------------------------------------------------



戦争が始まったのはその翌日だった。



前兆が全くをもってなかったといえば嘘になる。


しかし、まさかこんな急に戦争が始まるとは、誰もが思ってもみなかった。



もう学校に行く必要はなくなった。


勉強をする必要もなくなった。



男子生徒のほとんどは戦争に駆り出され、女子生徒はその手当などに当たった。



今まで絃芭が頑張ってきた意味さえ、もうなくなってしまった。



あぁ、何のために別れたのだろう。


ほぼ1日中、そんなことを考えていた。




陽葵の訃報が届いたのはその日の夜だった。



陽葵は戦場でふとした瞬間にぼんやりとしてしまったらしい。


敵軍は、それを見逃さなかった。


仲間が気付いた時にはもう遅かった。


敵軍の腕前は確かだった。両目の間の鼻の上には綺麗な丸い焼跡が貫通していた。



私のせいだ。


とっさにそう思った。



私が昨日、振ったせいで、ショックによりぼんやりとしていたんだ。


ごめんなさい、ごめんなさい。


もう届かないとわかっていてもそうつぶやかずにはいられなかった。


ごめんなさい、ごめんなさい。




もしも明日――今となっては今日――戦争がはじまると知っていたのなら、こんな理由で別れてなかったのに。




「ねぇ、君の持つそれが花束だった頃。」


そうつぶやきながらナイフを掲げた。



――君の持つそれが花束だった頃。――


右手に銃を持った陽葵の残像がそうつぶやいた。



そうね、幸せだった頃。



目を、ぎゅっとつぶる。






君の持つそれが花束だった頃。



すぐ、花束を持って迎えに行くね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 人との別れ、また本人達ではどうにもならない事態、後悔、とても切ないです。 [一言] 拝読させて頂きありがとうございます。
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