四夜目 1
運転手に揺り起こされて目が覚めた。
大きく伸びをした後、痛む体を動かしながら車を出る黒士。
草原の真ん中に止めたパトカーから、むき出しの土が二本、轍のように続いている。
これでは廃村ではなく遺跡である。
この地図で合っているのかと不安だったが、とんだ無駄足だったらしい。
跳津を起こした運転手が、地面から石を拾って草原に投げた。
トプン
顔を見合わせた黒士と跳津が運転手に向き直った。
「ご覧の通りです。 恐らく、草原の中に底なし沼があるんでしょうね。 一歩でも踏み外したら最後、私ゃ怖くてこれ以上行けませんよ?」
険の入った顔で淡々と語る運転手。
「分かった。 轍は安全らしいから、徒歩で行く事にするよ。 ありがとう」
このまま引き返すと思っていた運転手は一瞬ポカンとして、観念したように首を左右に振る。
運転手はパトカーに積んだ荷物の搬出は手伝ってくれたものの、きびすを返すような勢いで運転席に座った後は、轍をなぞるように慎重な運転で去った。
後に残された黒士と跳津は、二人では抱えきれない荷物を前に困っていた。
「とりあえず、荷物はこのままにして歩こう。 轍に沿って歩くだけだから迷う心配は無いし、村の道路だとしたら、どこかの建物に続いている筈だ。 少し歩いて何も無かったら、最悪ここで一泊だな」
荷物の山からテントと寝袋を取り出して、黒士が言った。
轍を歩く事一時間。
神社らしき立派な建物が見えた時は、心底ほっとしたものだった。
時計を見ると、午前九時近く。
轍もいつしか車が安全に運転出来る幅になっており、境内を借りたらUターンも出来るかも知れない。
すがる思いとはこの事だ。
二人は足取りも軽く神社へと歩くのだった。