三夜目
戸渡村と書かれた書類を手に黒士が警察署を訪れたのは、次の日の午後だった。
「これが手がかりですか、良く見つけましたね」
跳津が率直な感想を述べた。
「先輩のデスクには都市伝説やら土着の民話やらが平積みされているから、何か手がかりが無いかと探していたらビンゴだったよ」
そう言いながら、江戸時代の隠れ村や廃村を一覧にした資料を見せる。
一通り目を通した跳津は、赤線で引かれた箇所に注目した。
戸渡村……江戸時代、伊賀甲賀の抜け忍達が移り住んだ隠れ村。 徳川幕府により忍者達が「お庭番」と呼ばれた頃、一部の抜け忍達は雑用などを替わる事を条件に許される。
戸口を渡り歩く事から、彼等は『戸渡』と呼ばれ、廃村を転々とする事で今でも隠密として暗躍しているという。
「ああ、これ知っていますよ。 杉沢村とか犬鳴村とかいう心霊スポットで実際に現場を訪れた奴等がヒドい目に遭うというアレですよね。 朝帳ジャーナルが発信源って事は信憑性がありますね」
上ずった声の跳津から資料をひったくる黒士。
「未整理の書類から信憑性の高い話題を引っ張り出して、さらに図書館や地元の人から聞き取り開始。 編集長のOKを貰った後に現地調査して写真やら現地の人 (出来れば本人)から事実を引き出して、という一連の流れをすっぽかして行くしかないんだ。 正直ダメモト」
お手上げとばかりに肩をすくめる黒士。
「それでも手がかりが無いよりマシですよ。 そこへ行きましょう」
「お前は良いのか? 長丁場になるんだぞ」
「今更言う事ですか。 俺もヤバいんだから付き合いますよ」
近くでカップヌードルをすすっていた覆面パトカーの運転手が、「えっ俺も?」という表情を浮かべてこっちを見た。