二夜目 3
留置所の中、パイプ椅子に座っていた国士の元へ、二人の男が訪れた。
警察の制服を着た男が、ぎこちなく鍵を外し国士を外に出した。
「この度は大変失礼な事をしました」
「君は新人だろ? 俺を騙るバカがたまに出るから、これが普通の手順なんだ。 気にしないでくれ」
そう言いながら外へ出た国士は、もう一人の男にカバンを見せ呟く。
「これだ」
もう一人の男、因幡 跳津がカバンを見て頷いた。
カジュアルな服装に着替えた国士と跳津は、覆面パトカーに乗った。
コンビニの前で降り、買い物をした後、徒歩でアパートへと向かう。
築30年程のボロいアパートだが神奈川県警が管轄しており、管理人を始め住人は警察関係者という筋金入りの建物だ。
終戦時代のGHQが利用していたこの建物は、外見に反して設備が整っているので国士は良く利用させて貰っている。
管理人に挨拶を済ませた後、二階にある指定された部屋に入り、改めてカバンの中身を並べる国士。
厚紙に破いたハガキを貼り付けたものを取り出して、賞状のようにゆっくりと跳津に差し出す国士。
「これが送られて来たハガキだ。 編集長が破いた直後に鈴の音が聞こえた。 その夜、編集長が夢の中に現れた鬼に右腕を切られたそうだ」
そう言いながら、医者のカルテをコピーした紙を手渡す国士。
「四十四針か、かなり派手にやられたんですね」
「その割にはダメージが無かったらしく、昼に編集長が出社した。 どう考えても警告だな」
国士の言葉に頷く跳津。
「今の所、被害を受けたのは編集長ただ一人だ。 ハガキを破いた張本人だからというのが自然だが、俺と先輩も鈴の音を聞いているんだ。 ただで済むとは思えない」
「その割には危機感を感じないんですけど。 これで遊ぶとか、さすがは大黒様」
半ば呆れ気味に厚紙を無造作に放る跳津。
チリーン
硬直したまま、顔だけゆっくりと見合わせる二人。
「大黒様、これですか?」
ゆっくりと頷く国士。
ここで悪趣味な悪戯をするような男ではないと分かっている跳津が、諦念のため息をもらす。
「ひょっとして、俺もですか?」「悪いな」
笑みを浮かべ、何を今更とでもいうように手をヒラヒラさせる跳津。