二夜目 1
次の日、編集長は午前中に来なかった。
編集長が破り捨てたハガキを厚紙に貼り付け、何か手がかりは無いかと調べたものの、一般的に売られている官製ハガキにボールペンで書かれている、ごく普通のハガキだという事が分かっただけだ。
「編集長、何かあったんでしょうか。 先輩は分かりませんか?」
「ああ、俺達は何も無かったけど編集長はハガキを破り捨てた張本人だよな。 で、鈴の音は俺達三人だけしか聞こえなかったらしいからな」
そう言いながら茶をすすった進悟は、国士の後ろにいた編集長に気付いた。
プーーーーッと盛大な霧吹きを国士に向かってぶちまける。
「ちょ、先輩、茶を吹き出さないで下さい」
飛び退きながら後ろを振り返る国士。
「お前達は見なかったのか?」
右腕に包帯を巻いた編集長が幽霊のように立っていた。
若干ビビりつつも声をかける国士。
「編集長、何かあったんですか?」
「その様子だと、お前達の方は大丈夫だったらしいな」
おぼつかない足取りで自分の席にたどり着くと、倒れるようにどっと座る編集長。
「夜中に鈴の音が聞こえてな、目を覚ますと見知らぬ村にいた。 そこで鬼に切られて、このザマだ」
包帯が巻かれた右腕をゆっくり上げて答える。
「手首辺りから肘にかけてスッパリだ。 四十四針も縫ったが綺麗に切られたおかげで、逆に直りが早いそうだ」
顔を見合わせる国士と真悟。
「それって見せしめって奴じゃないですか? ほら、死、呪、死って意味だとか」
真悟の失言に固まる国士。
「お祓いに行ってくる」
顔面蒼白になった編集長が慌てて外に出た。
「先輩、今のはさすがに軽率だったんじゃないですか? 編集長、かなり焦ってましたよ」
ああ、済まんと呟く先輩。
ヤバそうなハガキを考えなしに破く編集長も軽率だと思うがな、とぼやきつつ、ふと国士の方を振り向いた。
「国士、確かお前、ネットゲーマーだったよな? 何とかならんか?」
「いえ、ネットゲーマーは何でも出来るって訳じゃないんですけど。 まあ、出来るだけやってみます」
そう言いながら椅子から立ち上がる国士。