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呪殺夢  作者: FROGGER
21/22

三ターン目

 国際テロリスト『斑の蠍』のホバークラフトは、海に到着した後、全長50メートルの輸送船に収納された。


 この船自体が『斑の蠍』の移動拠点として利用されているらしい。


 本拠地はイタリアにあるという話だが、バブル期に突入してからは日本にも進出していると聞く。


 昼夜を問わず賑わっている規模の港を避け、あえて河口付近の小規模な場所を選んでいるのは、この船が『斑の蠍』だという事を秘匿する意味もある。


 陸路と海路を同時に利用出来る利点は、こういう時(・・・・・)にも役だってくれている。


 ホバークラフトから降りた黒士達は、テロリスト達と別れ、外へと出た。




 照明が、おぼろげながら船のシルエットを形作る深夜。


 港の駐車場にたむろする黒士達に近付く殺気があった。


 「じいさんか?」


 瞬の声に、鬼が止まる。


 「こうするしか、無かったのかよ」


 首肯する鬼。


 「呪殺夢の事は調べた。 不完全な儀式のせいで、戸渡は滅びる事になるだろうって、そんな馬鹿共の心中に付き合う義理はもう無いだろ? なあ、もういいだろ!?」


 懇願に近い瞬の叫びに対し、一歩ずつ近付く鬼。


 (それが答えだってのかよ!)


 覚悟を決め、ゆっくりと構える瞬の前に立ちはだかる黒士。


 「お前、何やってんだ。 どけ」


 瞬の声を無視し、右手を上げる黒士。


 それを合図に、サーチライトが一直線に伸びる道路を照らし出す。


 唖然とする中、響く爆音。


 輸送船から一台のスポーツカーが現れた。


 「こ、これは」

 「ランボルギーニ・カウンタックLP500S」


 カウンタックは、サーチライトをなぞるように道路を走り去る。


 いや、一台だけではない。


 輸送船からスポーツカーが次々と現れては走り去っていった。


 「エスパーダ、ウラッコ、シルエット……」


 車が通過する度、詠唱をそらんじるように車名を言う黒士。


 車は、道路の道半ばに停車し、証明に照らされ、まるでモーターショーのよう。


 「世界は、いや、日本は、これ程豊かになったんだ。 みんな、あなたたちのおかげだ。 ありがとう」


 会釈をする黒士達を前に、ポカンとする鬼。


 「この車は、日本人が作ったのか?」


 「いや、これはイタリアのランボルギーニ社が作ったスポーツカーだ。 日本は」


 そう言って再び右手を上げる黒士。


 それと同時に、一台のスポーツカーが船から出る。


 「日産フェアレディZ」


 流線型をした独特のフォルムに息を飲む鬼。


 「日産は、愛知機械工業が自動車の部品メーカーとして再出発した会社だ。 『愛知航空機』と言えば分かるな?」


 黒士に振り向く鬼。


 「そうだ、お前の愛機『零式三座水上偵察機』の生まれ変わりだ」


 「焦土と化した日本が、これ程の物を作れるまでになったのか」


 懐かしむような視線でフェアレディZを見る鬼は……


 「気を付け!」


 不動の姿勢を取る。


 信じられないといった視線を向けたその先には、男がいた。


 「久しいな、貴様」

 「隊長!なぜここに?」

 「俺もいるっスよ」




 それは奇跡だった。 大戦中に戦死した筈の搭乗員達が、ここにいるなどと。


 黒士の方を振り向く鬼。


 「靖国神社から借りて来たんだ」


 懐から位牌を取り出す黒士。


 「しかし、俺は……」


 戸惑うように視線をそらす鬼に向かって、跳津が右手を差し出す。


 その手に握られている位牌に、目を見開く鬼。


 「それは俺の位牌! 底なし沼に捨てられた筈なのに、なぜ?」


 「潜って取った」


 さすがの鬼も唖然としている。


 「潜って、って何だ?」


 「『目的の為なら常識を選ばない』、それが俺達ネットゲーマーです」


 鬼は、考えるのを辞めた。


 位牌を瞬に手渡す跳津。


 そのままフェアレディZに乗る瞬と黒士。


 「センパイは、運転が上手いんだ。 任せてもいい」

 「そういう事だ」


 隊長達は、黒士の持つ位牌に消える。


 「『三羽鴉』復活だ。 早くしろ」


 感極まった雄叫びを上げつつ瞬の持つ位牌に消える鬼。




 フェアレディZの加速に叶う者は、あまりいない。


 ほぼ独走状態になり、そのまま富士山へと続く道を突き進むZ。


 追従するスポーツカーなど目もくれず、一直線に坂道を駆け上がる。


 そのまま上へと天高く……




 高く…




 高く

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