二ターン目
村外れに佇む、古ぼけた寺の前に二人が近付く。
「ここが戸渡の本拠地だ」
うち捨てられた寺は植物に浸食され半ば朽ちかけており、遠目にはさほど大きく感じない。
「ここからだと分からないが、一段下がった半地下の構造になっているんだ。 本堂は当時のままなんだぜ」
床は一部割れているけどな、とつぶやきつつ歩き続ける瞬。
鳥居をくぐる寸前、トウガシンが瞬の前に手を突き出して止めた。
「いるぞ」
トウガシンの声に観念したのか、灯籠の陰から一人の男が歩み出る。
目を見開く瞬。
「じいさん!」
「こいつが『鬼』か?」
トウガシンの言葉に頷く瞬。
立ち止まる二人に向かって鬼が歩き出す。
挟み撃ちにしようにも、今更動くのは自殺行為だ。
臨戦態勢を取りつつ、どのような攻撃にも対処出来るよう相手を伺う二人。
あと一歩で間合いに入るというタイミングで動いた。
兎が足踏みをするような勢いで水たまりを蹴る瞬。
バシャという音と共に、水しぶきが鬼の目に向かう。
鬼が消え、たった今鬼がいた場所に数本の手裏剣が襲いかかった。
灯籠に菱形の穴が穿たれ、ゆっくりと割れる。
(水しぶきに紛れて攻撃する『水面切り』が効くとは思ってないさ)
問題はどう避けたか、だ。
相手の行動によっては、勝負が決まる。
トウガシンに向かって行く鬼の跳躍に、迎え撃つ体制を取る。
あと少しの所で、トウガシンのナイフが消えた。
(スペツナズナイフ!)
ギリギリまで引きつけ、相手が攻撃する瞬間の油断を突いた攻撃は、確かに有効打になり得ただろう。
普通の相手ならば。
「逃げろ!」
瞬の警告は、遅かった。
鬼は、右手の人差し指と中指だけでスペツナズナイフの刀身を受け、そのまま斬りかかる。
必要最低限の動きで相手の攻撃を受け反撃する、『刺指白羽取り』
「トウガシン!」
叫ぶ瞬の方を、ゆっくりと振り向く鬼。
トウガシンは、ピクリとも動かず、首筋から間欠泉のように吹き出る血飛沫で服を染めていく。
鬼が一歩踏み出した時、瞬は後ろに引きずられていた。
「センパイ、大丈夫ですか?」
救出用ワイヤーで引きずられる瞬に、ホバークラフトに乗った黒士が手を貸しながら尋ねる。
「俺は大丈夫だ。 トウガシンは」
言葉を詰まらせる瞬。
「今回、俺等の犠牲はヒドかったけど、自業自得なんだろうな」
呆けたように黒士を見る瞬。
「呪殺夢ですけど、あれを調べたら、ネットゲームの中でもその話題で持ちきりだったんだ。 情けない話、俺達も納豆ゲーマーと同罪なんですよ」
「それでいいのか?」
瞬の問いに失笑する黒士。
「いい訳無い。 今の所、後始末出来るのは俺達しかいないようだから、迷惑千万だがやってやりますよ」
頼もしげに答える黒士。
立ち去るホバークラフトを見やる鬼の視線を感じながら、心の中でため息をはいた。