一夜目 1
朝帳ジャーナル……村が発行している総合情報誌で、地方色を持ち味に観光案内やら県内ニュースで無難に続いている本誌だが、時々行われるゲリラ配信的な特集記事が本誌の魅力である。
実はこの某県、いわく付きの土地が点在しており、その手の話題には事欠かない。
近年、超常現象の被害が激減したのは、この朝帳ジャーナルのおかげだとする説もある程だ。
それなりの評価を得たのは良いが、噂が全国に広まり発行部数が伸びるにつれ人手が足りなくなってくる。
追い打ちをかけるように県庁に村が統合される事になった時、朝帳ジャーナルは県が発行する総合情報誌に吸収合併する形で廃刊する案が浮上した。
このやっかみにキレた村長が先頭になり村人達から署名を募り、村役場跡が朝帳ジャーナルの事務所として引き継ぐ形となったのだ。
独立と言えば聞こえは良いが、村の期待を一身に背負った形で再出発した朝帳ジャーナルは責任重大である。
前途多難の船出になった本誌が一縷の望みとして、都市伝説に頼るのも無理は無い。
かくして、独立初日に出社した編集者達は、事務所の扉を埋め尽くすハガキの山を呆然と眺める事になる。
「先輩、燃やしますか?」
バイト初日、何とか事務所に入った新人が言った。
廃刊になると聞いた朝帳ジャーナルに就職した先輩からの要請で急遽バイトする事になったが、まさかここまで大盛況だとは。
「それは俺も考えた。 とりあえず落ち着こうか」
倉庫から持ってきた空ダンボールを組み立てながら先輩が言った。
手慣れた感じから、これが朝の光景なんだなぁ、と感じる新人。
「面白そうな話を見つけたようだな新人。 見せて見ろ」
振り向くと、編集長と書かれたプレートを付けた初老の男が立っていた。
周りの人達が一斉に挨拶した所を見ると、彼が編集長なのだろうと分かる。
ふと、編集長が言っているのが、自分の右手に握られたハガキの事だと気付いた。
(俺、何でハガキを持っているんだ?)
不審に思いながらもハガキを確認する新人。
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ねぇ、こんな話、知ってる?
鈴の音で目覚めると、いつの間にか見知らぬ村にいるらしいんだ。
良くある話じゃん。 夢から覚める夢ってさ。
でも、そこには鬼がいるらしいよ。
その鬼に襲われた傷は、本当に目が覚めても残っているって話だよ。
それでさ、その鬼に殺された奴、朝には無残な死体になっているんだってさ。
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「なんだ、いきなり当たりを引いたのか。 さすがは真悟の推薦した奴だな。 その調子で頼んだぞ、バイト君」
編集長に肩を叩かれ、焦りつつも「大田 国士」と書かれたタイムカードを押すバイト君だった。