一ターン目
ホバークラフトから、小銃を持った男が数人降りてきた。
「これであいつらに……」
「一矢報いるか? ひよっ子ども」
真悟が振り向くと、そこには戸渡を従えた長がいた。
「なぜ、こんなふざけたマネをした!」
「呪殺夢は、既に無用の長物と成り下がった。 そうであらねば困るのじゃよ。 手の平で踊っておれば良いものを、余計な事をしおって」
「ご神体が国に徴収されたのは、渡りに船だった訳だ。 それをセンパイのじいさんが奪還した事が気に入らなくて嫌がらせをし続けた、か」
黒士が、憤怒の形相で長を睨む。
空気が瞬時に凍り付く。
紛れもない殺気に、テロリスト達が動く。
逃げ遅れた戸渡が数人、小銃の斉射に打ち倒されたが、大半は霧に包まれるように消えていた。
「ちっ、逃がすか」
毒づきながら追いかけるテロリスト達に続く真悟。
「ここに逃げた筈だ」
恐らく村で一番大きい屋敷の中に駆け込むテロリスト達。
「待て、これは罠だ」
真悟の警告は、気色ばむ彼等には届かない。
追いかける真悟の目前で小規模の爆発。
まあ見てな、とばかりに軽く手を振って煙の充満する室内に躍り込むテロリスト達。
「まるで特殊部隊だな」
手際の良い進入に舌を巻きつつ進入しようとした真悟が……
暗転
発砲音の後、沈黙が続く。
(言わんこっちゃない)
心の中で毒づきつつ、地べたに伏せる真悟。
暫くして、周りが元の明るさを取り戻した。
「ライトアップされて忘れていたぜ。 今はまだ夜だったな。 照明を消した瞬間に奇襲をかける『闇鴉の術』とはな」
「恐れ入ったぞ」
真悟が声の方を振り返ると、屋敷の入り口に佇む一人の男がいた。
手練れと感じたのか、長達の姿は消えていた。
「逃げ足の速さは戸渡の十八番か。 敵に回すと厄介なんだよなぁ」
そう言いながら男に近付く真悟。
「あんたも忍者か?」
首を横に振る男。
「俺は、北朝鮮の工作員だった」
思わず動きを止める真悟。
「まあ、今はテロリストをやってるがな。 裏切りに慣れすぎてマヒしているクチだ」
そう言いながら真悟と向き合う男。
「お前は俺だ、真悟」
引きつっていた顔がゆるむのを感じつつ。
「瞬。 俺の本名は、戸渡 瞬だ」
「俺の名前は、トウガシンだ」
二人は、握手した。