五夜目 6
「呪殺夢の起源は諸説あるが、俺が知っているのは平家と共に壇ノ浦へ沈んだ悪夢が具現化したという話だ。 まあ、それはどうでもいい。 問題は回避手段が無いって事だ。 夢の中で暗殺されるんだ、たまったもんじゃないだろ?」
自嘲気味に笑う真悟。
「この呪いの恐ろしい所は、集団を対象に出来る事だ。 とある合戦の前に使ったら、相手が半数になっていた話すら伝わっている。 これがあるから戸渡が滅ぼされなかったと言っていい。 一人でも生き残っていたら、こっちがヤバいという抑止力だったんだ。 『呪殺夢』は」
どこか遠くを眺めるような目で呟く真悟。
「俺のじいさん、戦争の時に、徴兵で外国に行ったんだ。 その時な、村のご神体を盗んで行ったんだとさ」
瞳に険が入る。
「それからは地獄よ。 抜け忍の家族がどうなるか、想像出来るか? 俺が人身御供になったから見逃してくれたようなもんだが、結局ちりぢりになっちまった。 もう二度と会えないんだろうな。 すべては、あの盗人のせいだ」
吐き捨てるような口調。
「その盗人は、罰が当たったんだろうな。 呪殺夢を見たら鬼に襲われるってのは知ってるよな? その鬼が、俺のじいさんなんだ」
黒士と跳津が顔を見合わせる。
「それは、おかしいだろ」
「お前らに何が分かるというんだ? 忍者でもないお前らに」
真悟をたしなめるように右手を突き出す黒士。
握られた紙を訝しげに見ながら受け取った真悟は、読み進めるにつれ顔が引きつっていく。
「ご神体は、国に徴収されたんだ。 それをじいさんは盗んだんじゃない、奪還しに行ったんだ、センパイ」
呆けた真悟の口から、乾いた笑いが漏れた。
「ははは、俺ら、騙されていたんだ。 こりゃあ傑作だ。 やってくれたよなぁ、あのクソババア!」
怒りにまかせ、家に拳を打ち付ける真悟。
菱形の穴が壁に穿たれた。
「それで、これからどうするんですかセンパイ? 俺らも手伝いますよ」
黒士の方を向いた真悟が、無理に笑う。
「やっぱりお前ら、何も分かってねぇわ。 相手は忍者集団だぜ? 軍隊でもない限り、歯が立たねぇんだ」
そう言いながら、うなだれる真悟が……
ブオォォォ!
顔を上げる。
「ホバークラフト! なぜこんな所に?」
黒士は、真悟を促すように前を指さす。
再びホバークラフトを見る真悟の目が見開かれた。
「あのマークは、国際テロリスト『斑の蠍』。 どういう事だ?」
真悟の問いに答えるように、金髪の偉丈夫が姿を現す。
「彼が、国際テロリストのリーダー。 ネットゲーム七福神が一人、毘沙門天だ」
真悟に向かって、頼もしげに微笑む。
彼は大田黒士。 ネットゲーム七福神が一人、大黒天と称される男である。